第61話 大切な家族
ヴァルクさんの涙でぐしゃぐしゃの顔を見て、サリオン様が唖然としながら告げる。
「なんて顔しているんだお前」
「す、すみません。未熟ながら、感情が抑えきれず――」
「泣くくらいなら、こんなことするんじゃない!」
「本当に申し訳ありませんでした……」
小さく溜息を吐いた後、サリオン様はちらりと私を見つめた。
「今回の件、当事者のカナリヤの言葉を尊重し、処刑は行わないことにする。ただし、何もお咎めなしという訳にはいかない」
凛としたサリオン様の声に、その場の空気が引き締まる。
彼はそのまま、予想外の発言をした。
「だから、カナリヤにヴァルクの処分を決めて貰う」
「ええっ!?」
「そうですね。それが一番、良さそうです」
困惑する私をよそに、リュミエさんはにこにこと同調する。
「ま、待ってください、処分なんて私、全く分かりませんが……」
「深く考える必要はない。ヴァルクがどうすべきか、君が思うように言えばいい」
サリオン様が、私の肩に優しく手を置いてくれる。
その仕草から、決して丸投げした訳ではなく、信じて委ねてくれているのだと伝わってきた。
ならばと私は一生懸命考えた。
きっと間違っていたら、サリオン様が訂正してくれるだろうから。
私は真っすぐにヴァルクさんを見つめる。
「まず、最初に……、ジョーヌさんに、きちんと謝ってください」
私の言葉に、リュミエさんの膝の上のジョーヌさんが驚いて羽を揺らした。
「今回のことで、多分、一番傷ついたのはジョーヌさんです。ジョーヌさんは、ヴァルクさんのことが、本当に大好きなんです。だから――」
ヴァルクさんが虚を突かれたような表情をした後、ジョーヌさんを見つめた。
それからすぐにその場で膝を付き、小さなカラスに目線をあわせて声をかける。
「すまなかった、ジョーヌ。私の愚かな行動に、お前を巻き込んでしまった」
ジョーヌさんは丸い円らな瞳を真っ直ぐにヴァルクさんへ向け、柔らかな声で返す。
「良いのです。ジョーヌは、良いのです。それでもジョーヌは、ヴァルク様のことをお慕いしております」
「ううっ」
堪え切れなかったヴァルクさんの瞳から、また涙が溢れ出ていた。
その姿を呆れたように見つめつつ、リュミエさんが溜息を吐く。
「ちなみに、ババさんは貴方に怒り狂っていましたので。後でしっかり叱られてくださいね」
「分かった。全て受け止める……」
ヴァルクさんがハンカチで涙を拭い、立ち上がる。
そして再び、私へと向き直った。
「次はどうすればいいだろうか、カナリヤ様」
「え、えっと、次、次は……」
ジョーヌさんへの謝罪を確認して概ね満足してしまっていた私は狼狽えた。
ただ、確かにこれだけでは示しがつかないのかもしれない。
私は一生懸命考える。
「うーん、それなら、1週間に1回で良いので、一緒に刺繍をしませんか?」
「……!?」
「あ、いえ、ほら、そうやって友好を深めれば、今回のようなすれ違いも防げるのではないかと――」
私があわあわと言い訳をし終える前に、ジョーヌさんが飛び上がった。
「ヴァルク様と刺繍が出来るんですか!? わーい、わーい!」
無邪気に室内を飛び回るジョーヌさんを、私たちは呆然と見上げている。
あくまで提案のつもりだった刺繍だが、こんなに喜んでいるジョーヌさんを無下にできる者は、この城には存在しない。
「……すみません、刺繍、確定事項になってしまいましたね」
「うふふ、まあ、良いのではないですか。カナリヤ様の考えた処分らしくて。甘すぎる気もしますけれど?」
「分かっている。自主的に、城内の仕事などにはこれまで以上に励む心算だ」
「はい、宜しい」
「ははっ、最高の裁定ではないか。流石、僕のお嫁さんだ!」
サリオン様が、私をぎゅっと抱きしめてくれた。
その声はいつもの明るさを完全に取り戻していて、私は嬉しくなる。
「私、でしゃばってしまって、ごめんなさい。でも、家族が壊れてしまうのが嫌だったんです」
サリオン様の腕の中で、私は小さく呟く。
皆が思い合っている温かな黒曜城。
この宝物みたいな場所を、私は守りたかったのだ。
「ありがとう。カナリヤも、立派な家族の一員だぞ」
「ふふふっ、そうですね」
「これからも、ずっと一緒だ。一生離さない」
「サリオン様――」
サリオン様と身を寄せ合っていると、リュミエさんの慌てた声が響いた。
「いけません。皆さん、もうこんな時間です。明日は朝から結婚式ですよ!?」
「しまった、そうだった」
「遅れるです! 遅れるです!」
「よし、とにかく今日は解散。明日はみんな楽しむように。以上!!」
サリオン様からの駆け足の解散号令の後、私たちは慌てて自分の部屋に戻っていくのだった。




