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第55話 重罪人の処遇

 儀式の間に現れたヴァルクさんとミュラさんは、魔物形態をしていた。

 つまり、人の倍ほどの背丈のある筋骨隆々のゴーレムと、灰色の猫の姿だ。


 そんなヴァルクさんが床に放り投げた虫の息の富商の男を、サリオン様が冷たく見下ろす。


「ヴァルク、こいつは」


「逃げようとしていた残党に混じっていました。事情を知っていそうだったので」


 ヴァルクさんは畏まって返事をしながら、富商の男を睨みつけた。


「殴りました」


「宜しい。それで?」


 サリオン様は静かに頷き、話の続きを促す。


「この商人の男は、神官くずれのそこの男と手を組み、カナリヤ様を誘拐したと白状しました。途中から陛下がたの会話を聞いていましたが、概ね内容は一致しています」


「分かった。残党はどうした」


「はい。全員始末しようとしましたが、王都の正規軍が駆けつけてきたのでひとまず引き渡しました」


 よく見れば、ヴァルクさん達と一緒に現れた兵士たちは、王国の紋章の入った軍服を着ている。

 そして、拘束された私兵を何人も捕えているようだった。


 ロイド様と王国軍も何か会話している様子なので、おそらく彼が一緒に連れてきたのだろう。

 その光景を眺めつつ、ヴァルクさんが低い声で問いかける。


「ご指示があれば、王国の軍隊ごと制圧します。いかがなさいますか」


 その問いかけに私はドキリとした。

 しかし、サリオン様や魔物さん達にとっては、国も完全に味方とは限らないということだろう。

 

 私は思わず息を飲んだが、サリオン様はすぐにあっさりと返事をした。


「いや、必要ない。このまま王国軍に引き受けてもらおう」


「分かりました」

 

 ヴァルクさんが了承して頭を下げる。

 真面目な話は終わったと判断したのか、ミュラさんがぶんぶんと尻尾を揺らしながら話しかけてきた。


「カナリヤっ! 無事で良かったよぉ。大丈夫? 痛いことされなかった?」


「あ、はい、ミュラさん、ヴァルクさん。私は無事です。ありがとうございます」


 ミュラさんのいつもと変わらない調子の言葉に、張りつめていた気持ちが少し緩んだ。

 私はほっと息を吐き、微笑みを返す。


 そんな私たちの様子を見て、サリオン様も少しだけ表情を緩めた。

 それから、ロイド様とメアリーの方へ顔を向けて淡々と宣言する。


「今回の件、お前達に直接のかかわりは無かったと判断する。とっとと残党を連れて去れ。主犯二人は僕が始末する」


「僕たちが騒動に無関係だという証拠は良いのか?」


「要らない。僕はヴァルクの判断を疑わない」


 サリオン様はきっぱりとそう言うと、私を優しく床の上へ下ろす。


「カナリヤ、少しだけ待っていてくれ。仕事を済ませたら、すぐに帰ろう」


「は、はいっ」


 私は大人しく頷きながらも、複雑な気持ちだった。

 ”仕事”とはつまり、マルコスと富商の男を始末するということだろう。


 その判断自体は正しいものだと思う。

 マルコスは実験で多くの命を犠牲にしたというし、富商の男だってこれまで多くの悪事に手を染めているはずだ。

 

 ただ、そんな相手であったとしても、命を奪うのは気持ちが良いものでは無い。

 まして、サリオン様に手を汚させてしまうのだと考えると気が沈んだ。


 「にゃおん」


 私の不安を察したのか、ミュラさんが足元で寄り添ってくれている。

 

 サリオン様はヴァルクさんを従えて、マルコスと富商の男の元へゆっくり歩いて行く。

 その前に、ロイド様が立ちはだかった。


「待て、辺境伯。彼らは確かに大罪人だが、国の法によって裁かれるべきだ」


「関係ない。今ここで殺す」


「国を敵に回す気か?」


「そうなって困るのは、国の方だろう」


「――カナリヤがそれを望んでいるとでも?」


 私の名前が出た途端、サリオン様の歩みが止まった。

 ピリ付いた空気感がその場を支配している。

 ロイド様は、必死な様子で言葉を続ける。


「こいつらは、国が責任もって対処する。僕が約束する」


「どうしてそんな回りくどいことを」


「この場で何が行われていたのかを調べなくてはいけない。再発を防ぐためにも」



「……」



 サリオン様の長い沈黙が挟まれた。

 彼はきつく握りしめた拳を微かに震わせていたが、やがて、その手も緩む。


「分かった。必ず然るべき対応をするように」


 感情を殺したような声でサリオン様が告げ、一拍を開けて一言付け足された。


「もし杜撰な処分が露呈したら、その時は容赦しない」


「当然だ。僕個人としても、カナリヤを危険な目に遭わせた奴を許せはしない」


 同調するようなロイド様の言葉に、サリオン様は少し興味を持ったようだ。

 改めてロイド様を見つめ直して、ぽつりと呟く。


「……君は、カナリヤの幼馴染だったか」


「ああ。僕はずっと彼女を救いたかった」


 そう言うロイド様の眼差しが、サリオン様を通り抜けて私に向けられた。

 私は胸に重く沈みこむような痛みを感じていた。

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