第32話 仲直りです
サリオン様の部屋は、東塔の中央にある一番大きな扉の先だ。
私はぎゅっと自分の手を握り締めた後、緊張を振り切って、その扉をノックした。
「サリオン様――わ、私です。カナリヤです」
中からごそごそと物音はするが、返事はない。
――あんな別れ方をした後なのだ。
覚悟を決めてきたものの、心臓が飛び出しそうな程ドキドキしている。
それでも必死にその張りつめた気持ちに耐えながら、反応がかえってくることを祈った。
3分程経過しただろうか。
ゆっくり、ゆっくりとサリオン様の部屋の扉が開かれた。
「……カナリヤ」
顔を半分だけ覗かせたサリオン様が、眉を寄せながら私を見つめている。
「さ、サリオン様。あの、私――」
「カナリヤ、ごめんっ!!!」
「へっ?」
私が何か言うより先に、サリオン様の大きな謝罪の声が、廊下にまで響き渡った。
「ごめん、本当にごめんなさい。どうか、許して欲しい。僕を見捨てないで、嫌いにならないで……」
堰を切ったように言葉を溢れ出させるサリオン様は、殆ど泣きそうな顔をしていた。
暫し私は呆気にとられていたが、我に返ると大きく首を横にふる。
「まって、待ってください。どうしてサリオン様が謝るんですか!?」
「だって、君を置いて帰ってきてしまった。許されないことだ――」
「でも、アウロスを残してきてくださったじゃないですか」
「サンドイッチだって食べていないし――」
「それはその、確かにタイミング的に無理でしたけど」
「君への贈り物だって渡せなかった――」
「お、贈り物ってなんですか? と、いうか、あの、一度落ち着いてください、サリオン様……わわっ」
予想外過ぎるサリオン様の様子に、私は扉の前で狼狽えて立ち尽くす。
サリオン様はそんな私の手を引いて部屋に引き入れて、ぎゅっと抱きしめた。
「カナリヤ、僕を許してくれる?」
「はい。いえ、そもそも、怒っていないので。私も、謝りに来たので……」
「え、謝りにきた? 何を?」
「何をって……!? 十年前のことですよ!」
「ああ、そのこと。まあ、確かに当時は悲しかったし、あの頃のことを思い出して、気持ちが爆発してしまったが――。そのせいで、僕はカナリヤに酷いことを……」
落ち着きかけたのに、また謝罪の姿勢に入ろうとするサリオン様を、私は必死に説得した。
「サリオン様、まず、大前提として、です。私は何一つ怒っていません。むしろ、帰ってくる手段を残してくださったことに、感謝しています」
「……本当か? 僕に愛想をつかして城を出ていかないか?」
「行きませんよ! 絶対に行きません」
「本当に?」
「本当です」
私は真剣な眼で、サリオン様をじっと見つめる。
彼は最初はおずおずとそれを見つめ返していたが、やがて気持ちが伝わってくれたのか、少し表情が和らいだ。
「良かった!」
「はい、あの、でも……」
「でも?」
サリオン様が私を抱きしめる手に力がこもった。
何があっても離さないといったその様子に、いけないと思いつつも胸がときめいてしまう。
でも、今はまず、けじめをつけなくてはいけない。
私は小さく深呼吸して、彼に告げた。
「きちんと謝罪したいんです、10年前のことを」
「10年前……約束の場所に、急に来なくなったことかい」
「そうです。それに、私のことを――何もお話していないと、思いまして」
静かに語り掛ける私の顔を見つめてから、サリオン様はそっと抱きしめていた腕から解放してくれた。
そして私の手を引いて自室の奥へと案内し、椅子を勧めてくれる。
「分かった。カナリヤが話してくれるのなら、聞くよ。どうして君が命を落としていたのかは、気になっていたし」
サリオン様は私の隣に腰かけて、私の手に自分の手を重ねた。
「カナリヤが辛くならない範囲で、教えて」
微笑む彼に促されて、私は昔について話し始めた。




