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第26話 皆でサンドイッチづくり(後)

 私は黒曜城の皆さんと一緒に、サンドイッチ作りの真っ最中だ。

 リンゴジャム担当の私とサリオン様は、ようやく大量のリンゴを切り終えた。


「リンゴを切った後はどうするんだ?」


「お鍋で煮込むんですよ」


 厨房には大きなかまどがある。

 ここの炎は、ババさんが自由に調整できるようだ。

 かまどの上に金属製の台があり、そこに鍋を置けば火にかけられる仕組みだった。


「はいはい、火を入れるよ!」


 ババさんが快活に声をあげると、かまどの炎が赤く燃え上がる。


「……っ」


 私はその様子に、思わず硬直してしまった。

 傍らにいるサリオン様が、心配そうに見つめてくれる。


「どうした、カナリヤ。疲れたか?」


「あ、いえ、その」


 私は狼狽えながらも、小声で事情を話す。


「実はお恥ずかしい話なのですが。幼い頃に、火傷を負ってから、火が、苦手で」


 その言葉を聞いたサリオン様は目を瞬かせ、ババさんも驚いたようだった。


「でも、小さな火なら何とか大丈夫なんです。実家でも料理していましたし、慣れたと言いますか。ただ、大きな炎は、どうしても少し、その……」


 私は慌てて、言い訳のように付け足した。

 変な心配を掛けたくないし、役に立たないと思われたくない気持ちもあった。


 そんな私の戸惑いを、ババさんの一喝がふきとばす。


「本当に馬鹿な子だね、そういうことは早くお言い!」


「ひえっ、ごめんなさい」


「全く――苦手なことは、無理することないんだよ。他に仕事はいくらでもあるんだから」


「え、あっ、は、はい……」


 おそるおそる顔をあげると、ババさんはとても優しい眼差しを向けてくれていた。


「そうだぞ。僕に任せておけ。僕に怖いものは無いからな」


 ふふんと明るく胸を張るサリオン様も、私を気遣ってくれているのが分かる。

 私は自然と笑みが零れ落ち、二人へ深々と頭を下げた。


「ありがとうございます」




 ――こうして、皆で協力して、サンドイッチが完成した。


「凄い、こんな豪華なサンドイッチ初めてです」


 厨房のテーブルの上の大皿には、沢山の種類のサンドイッチが並んでいる。

 卵サンドに、野菜サンド、ローストした肉を挟んだものや、勿論ジャムサンドもある。


「こんなに、食べきれるでしょうか……」


 黒曜城で食事をとれるのは私とサリオン様だけなのだが、どう見ても張り切って作り過ぎてしまった気がする。


「今日の夕食も、明日の朝食もサンドイッチだね。これは」


 ババさんが、やれやれと頭を押さえる。


「だから食材を使い切ると多すぎると言ったでしょう、陛下!」


「だって、折角だから全部使いたかったんだ。仕方がないだろう?」


 ババさんに叱られても、サリオン様はけろりとした様子で笑っている。

 やりきった満足感すら伝わってくる、清々しい笑顔だ。


「ふふっ。私も、食べ終わるまで毎食、サンドイッチで良いですよ」


「そうだよな! ありがとう、カナリヤ。流石、僕のお嫁さんだ!」


「全く、御前さんまで……」


 三人での会話がひと段落つくと、私は魔物さん達に改めて頭を下げた。


「皆さん、ご協力ありがとうございました。とても楽しかったです」


 料理を終えて寛いでいた魔物さん達は、口々に返事をかえしてくれる。


「良いよ、案外、楽しかったよ!」

「オマエはほとんど役に立ってないだろうが」

「にゃあん? ずっと卵潰していた根暗よりましなんだけどぉ」


 ミュラさんとノクスさんは、猫と影の姿に戻って威嚇し合い始めた。


「また誘ってくださいです!」

「お野菜は私たちとリュミエ様が切りました!」

「上手に出来ました!」


 三人のメイドさん達は、にこにこと胸を張っている。


「こういう催しも、たまには良いものですね。ねえ、ヴァルク?」


 最後にリュミエさんが、穏やかに微笑みながらヴァルクさんへ視線を向けた。

 部屋の隅で腕組みをしながら座り込んでいたヴァルクさんは、静かに顔をあげる。


「……陛下がお望みになったからだ」


 苦虫を嚙みつぶしたような表情でそう言うと、ヴァルクさんは巨体を揺らしながら厨房を後にしてしまった。


 ――かなり無理をさせてしまったのだろうか。

 申し訳なさを感じつつヴァルクさんの背中を見送る私の肩に、リュミエさんがそっと手を置いてくれる。


「大丈夫、案外、ヴァルクも楽しんでいましたよ。お肉をローストするのは性に合っていたようです」


 私を元気づけるように、あえておどけたような声で、彼女は語る。


「すみません、分かってあげてくださいね。ヴァルクも、貴女を嫌っているのではないのです。ただ、陛下のことを強く思っているだけで……」


「はい、分かります。大丈夫です」


 私は頷きながらも、心の生まれた心配の種が消えることは無かった。


 ヴァルクさんが痛い程にサリオン様のことを思っていることは分かる。

 だからこそ、無理に距離を縮めていくのも違うと感じた。

 時間をかけて少しずつでも、私を認めてもらえるよう頑張るしかないだろう。



「カナリヤ、明日のピクニック用にサンドイッチをバスケットに詰めよう!」


 思案する私に、サリオン様から声がかかった。

 とにかく今できることを全力でやって、サリオン様との生活を楽しもう。


「はい、分かりました」


 私は笑顔を取り戻すと、サリオン様の方へ駆けて行った。

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