第25話 皆でサンドイッチづくり(前)
厨房に辿り着くと、机の上にはパンに卵に野菜に――沢山の食材が置かれていた。
そしてその傍らには、何故かずらっと黒曜城の魔物さんたちが並んでいる。
全員、人間の姿になってくれていた。
「えっ」
「カナリヤ、来たか。よし、では料理を始めるぞ!」
魔物さん達の真ん中には、ちゃっかりエプロンまで付けたサリオン様が陣取っていた。
にこにこの笑顔で私を迎え入れてくれる。
「え、ええっ!?」
私は動揺を隠し切れないまま、サリオン様の隣へと連れて行かれた。
「サリオン様、どうしてここに。お仕事は大丈夫なんですか?」
「ここ最近、西塔ばかりで疲れたからな。僕も気分転換がしたいのだ」
「それなら良いのですが……、あの、他の皆さんは」
「折角だからと思って、集めておいたぞ」
無邪気に笑うサリオン様を見つめた後、呼び出されたらしい面々に私は視線を向けた。
厨房の主である大釜のババさんが居るのは当たり前として――。
案外乗り気な様子で、灰色の長髪を束ねて腕まくりしている猫の魔物のミュラさん。
その隣で、完全に無表情で置物のようになっている、影の魔物のノクスさん。
私を呼びに来てくれたリュミエさんは、困ったように頬に手を当てながらも、何処か微笑まし気に厨房の様子を見守っている。
三人のメイドさん達も、その列の横にぱたぱたと加わった。
そして少し離れた場所で、憮然と腕組をしていたのがヴァルクさんだ。
「陛下、納得いきません。どうして私まで!」
「ヴァルク、お前は特に最近、ピリピリし過ぎだ。休んだ方が良い」
「休むのであれば、鍛錬をしてきます!」
「それは休むとは言わん」
やれやれと呆れたようにサリオン様は告げるが、そこにはヴァルクさんを心配する気持ちも滲んでいるように感じた。
「とにかく僕からの命令だ。今日は皆で、サンドイッチを作るぞ!」
「おー!」
「御意」
「はいはい」
「「「はーい!」」」
次々に返事をしていくお城の魔物さん達の様子に、遂にヴァルクさんも諦めたように溜息を吐いた。
「……はあ。分かりましたよ」
「うむ、それで良いのだ」
満足げに笑うサリオン様を、ヴァルクさんは何処か複雑そうな顔で見つめていた。
「それじゃ、みんな、このババの言うことをよくお聞きよ!」
大釜から、紫色の煙でできた半身を覗かせたババさんが手際よく指示を出していく。
ちなみにババさんは、人間になることは出来ないらしい。
それどころか、窯から出ることもできないそうだ。
それでも彼女の煙は厨房内なら何処にでも届き、実体化した腕も何本でも作り出せた。
食材を切り分けながら鍋をかき混ぜ、大活躍だ。
殆どが料理は初めての魔物さん達も、ババさんの指示通りに仕事をこなしていく。
「リュミエは野菜を切っておくれ」
「はい、分かりました」
「ノクスは卵を潰して。力を入れ過ぎるんじゃないよ」
「……御意」
「こら、ミュラ! パンを切り取って遊ぶんじゃない!」
「にゃあん、だって暇なんだもん」
わいわいと賑やかな厨房の中、私とサリオン様はリンゴジャム作りを始めた。
「まずはリンゴの皮をむいて――」
「皮? どうするんだ?」
「ええとですね、包丁をこうやって動かすんです」
私がお手本にやってみせると、サリオン様はそれをじっと見つめる。
「ふむ、こうか!」
それから、すぐに上手にリンゴの皮を剥いてみせた。
「お上手ですね。初めてだとは思えません」
私の誉め言葉に気を良くしたサリオン様は、次々にリンゴの皮を剝いてくれる。
元々、器用な方だったのだろう。
最終的には、教えられたわけでもないのにリンゴをうさぎの形に飾り切りしてくれた。
「わわっ、可愛い」
「ふふん。そうだろう、そうだろう!」
私たち二人が盛り上がっていると、ババさんの鋭い声が飛んできた。
「こら、そこの二人、ちゃんと料理を進めてくだされ!」
「は、はいっ、ごめんなさい」
「ババは厳しいな。ほら、良いじゃないか、兎だぞ?」
サリオン様が不服気な表情でうさぎリンゴをひとつババさんへ差し出す。
ババさんは片眉をあげてから、ふっと小さく吹き出した。
「まったくもって、困った御方ですねぇ」
それでもその言い方がとても優しくて、私は叱られているのに、何故か温かな気持ちになってしまった。




