第116話 無実の断罪令嬢は、死後にネクロマンサーの嫁になる(終)
私が目を開くと、端正な美しい顔が間近に映し出された。
宝石のように澄んだ紫色の瞳が、真っ直ぐに私を見つめていた。
「カナリヤ、僕が、分かるか?」
彼は不安げに私へ問いかけた。
その手は祈るように、私の手をぎゅっと握っていた。
「はい。私の……世界で一番の、旦那様」
私が表情を綻ばせてそう告げた瞬間、きつくサリオン様に抱きしめられる。
「カナリヤ!」
ずっと気を張り詰め続けていたのだろう。
彼の身体は小刻みに震えていたが、それでも私を抱く腕の力が緩むことはなかった。
「カナリヤ、良かった。本当に良かった!!」
「はいっ、サリオンさ――」
私が返事をしようとした瞬間、私たち二人はのしかかる重みに倒れ込んだ。
見上げれば魔物さん達が全員で、一斉にしがみ付いて来ていた。
「カナリヤ様、……もう、もう、本当に心配したんですよ」
リュミエさんが私の頭を高速で撫でている。
「カナリヤ様ー!!」
ヴァルクさんの大声に、ミュラさんがふんふんと尻尾を揺らした。
「ヴァルク、声でかいにゃ! うわぁん、カナリヤ、良かったぁ!」
「カナリヤ殿、よくぞ、よくぞご無事で」
ノクスさんは皆の勢いで潰されてぺちゃんこな影になりつつも、幸せそうだ。
「お帰りです!」
「ずっと一緒です!」
「もういなくなっちゃ駄目ですよ!」
カラス娘たちは全員、人間姿で私の首元に抱き着いている。
わちゃわちゃとしたその賑わいが酷く懐かしくて、私は思わず吹き出してしまった。
「ふふ……皆さん、ありがとうございます。ただいま戻りました」
「お帰りなさい、カナリヤ様」
「お帰り、カナリヤ様!」
「おかえり、カナリヤ!」
「お帰りなさい、カナリヤ殿」
「「「おかえりなさーい!!」」」
そんな風に声を交わし終わったところで、皆に埋もれていたサリオン様が顔を出した。
彼は半分冗談、半分本気くらいの勢いで私をぎゅっと抱き寄せる。
「おい、お前達!! 気持ちはわかるが、僕のお嫁さんだぞ!?」
「知ってるです。でも、みんなの家族です!」
「そ、そうだが……!」
満面の笑顔のルージュさんへ反論できなくなり、サリオン様はぐぬぬと黙り込む。
そんな姿も愛おしくて、私は彼を抱きしめ返した。
「そう、大事な家族です。大事な私の居場所です」
私はにっこりと彼へ微笑む。
「全部、貴方がくれたのです」
私の言葉に、サリオン様はすぐに嬉しそうに表情を綻ばせた。
すっかり機嫌を直した様子で、私に頬を寄せる。
「そうとも。僕はカナリヤを世界で一番幸せにするのだからな!」
「ふふふ。もうなっていますよ?」
「もっともっとだ! ……君を沢山泣かせてしまった分、今度は笑顔にしてみせるから」
「サリオン様」
「僕は君の為なら、なんだって出来るからね」
「でも、もう危ないことはやめてくださいね?」
「そ、それは、君もだぞ」
「あの、それはその、はい……」
「結局、似たもの夫婦なのにゃー」
「これからも、私たちが見守ってお支えしなくてはいけませんね」
「二人とも無茶ばかりするからな」
いつの間にか私たちから離れていった魔物さん達が、やれやれと顔を見合わせている。
私たちは何だか恥ずかしくなって、互いに俯いた。
――やがて、魔物さん達が退出して私たちは部屋に二人きりとなる。
きっと気を使ってくれたのだろう。
サリオン様はそっと私の左手を救いあげた。
その薬指には、ずっと指輪が輝き続けている。
「カナリヤ。約束する。もう、君を置いて行ったりは絶対にしない」
「はい。私は貴方の、お嫁さんですから。私にも、貴方を守らせてください」
「僕のお嫁さんは、可愛くて、頼もしいな」
「もっと好きになりました?」
「そうだね。会うたびに、昨日よりも、ずっと――」
私たちはそっと唇を重ねる。
それは誓いでも、願いでもあった。
寄り添い合って、この温かい場所で、これからも生きていく。(終)
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
沢山の苦難があった最終章でしたが、
ここまでお付き合い頂き本当に嬉しく思います。
お時間を割いて頂いた分、
素敵な読後感を贈れたらと一生懸命書き上げました。
私の中では、最高の結末を迎えることが出来たと感じています。
もし、あなたの心に少しでも何かが残れば、
これ以上に幸せなことはありません。
彼らの幸せな生活は、これからもまだまだ続いていきます。
物語は完結しましたが、
もしかしたら後日談のお話をときどき更新するかもしれません。
その際には、またお楽しみいただけると幸いです。
また、本作を楽しんで頂けましたら★評価を貰えると、
とても励みになります!
次回作も、宜しくお願い致します!




