第114話 永遠の約束(★サリオン視点)
黒曜城では、ババとグレースが僕たちを迎えてくれた。
神核炉が起動した影響は北端のこの地にも届き、瘴気の森に棲む魔物たちも大騒ぎしていたらしい。
彼らは結界を張り、少ない人数で城を守り切ってくれた。
帰還した僕たちの姿にババは一瞬喜んだが、すぐに僕の腕で眠るカナリヤに気付いた。
彼女は暫く絶句した後、苦々し気に呟いた。
「本当に、どうして……みんな、この老いぼれより先にいっちまうのかね」
僕はカナリヤの身体を、彼女の部屋へと運んで寝かせた。
それから、リュミエやルージュたちに頼んで彼女の身支度を綺麗に整えて貰った。
悲しみに沈み込むよりも、僕にはやるべきことがあった。
それはもう、黒曜城へ帰路につく途中には決意していたことだった。
「僕はやる。誰がなんと言おうと、絶対にやるぞ」
魔物たちの集った大広場で、僕は宣言する。
暗い表情をした彼らが、ギョッとした様子で顔をあげた。
「もう一度、カナリヤの死体人形を蘇らせる」
彼らは僕の言葉を、ある程度は予想していたのだろう。
しかし、それに手放しで賛成する者は誰もいなかった。
「陛下、お気持ちはわかります。ですが、一度目の蘇生でカナリヤ様が意思を持ったのは全くの偶然。その理由は、いまだに解明できていません」
リュミエが声をあげた。
「もしも、カナリヤ様が意思を持たない人形として動き出したら……」
彼女は心配しているのだ。
カナリヤが意思のない人形として蘇生して、僕が傷つくことを怖れている。
他の皆も同じ思いなのだろう。
「構わない。もしそうなっても、僕はカナリヤを愛し続ける」
「陛下!」
耐え切れずにヴァルクも声を挟んだ。
けれど、僕は構わずに叫ぶ。
「このまま、何もしないでいるなんてできない!」
「陛下。せ、せめて、もう少し蘇生の条件を研究してからにゃ」
「カナリヤが動いている間にあれだけ調べても、分からなかったのに? 今から研究したって、成果が出る見込みはない」
「しかし陛下、陛下御自身も、今は疲弊していて」
「疲れていたって蘇生は出来る。そもそもカナリヤがこんな状況で、のんびり静養なんて無理だろう」
「ああもう。ルージュたちも何か言ってやってくれにゃ」
僕を説得しようとして頭を抱えたミュラとノクスが、ルージュたちに話を振る。
三羽のカラス娘はじっと身を寄せ合って話し合いを見守っていた。
彼女たちは不安そうに瞳を揺らしながらも、長い沈黙の後、ぽつりと呟いた。
「ルージュは……、カナリヤ様に、戻ってきて欲しいです」
「ブルーもです」
「ジョーヌもです……」
その言葉に他の魔物たちが息をのむ。
それは全員の、共通の願いに違いなかった。
「頼む。やらせてくれ。……自棄になっている訳じゃないんだ」
僕は改めて、リュミエたちへ真剣な顔で告げた。
「だけど、このままでは終われない」
カナリヤは最後まで、諦めずに戦ってくれた。
ならばその夫である僕が、じっとしていることなんて出来ない。
「失敗する可能性だって勿論、分かっている」
それはカナリヤの永遠の喪失を意味する。
挑戦しなければ、未来への期待だけは残り続ける。
でも、それでは彼女に手が届かない。
「それでも、どうなっても、僕のお嫁さんはカナリヤ一人なんだ!」
――僕の言葉に、それ以上反対する者はいなかった。
そして次の満月の夜に、カナリヤの蘇生を行うことが決まった。




