表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

111/118

第109話 僕の願い

 私は必死に神核炉を目指して駆けていた。

 絶え間なく起こる地割れに足をとられ、降り注ぐ瓦礫に阻まれながらも走り続ける。


 躯の塔から伸び出る腕は、何故か私には向かってこなかった。

 サリオン様の指輪の効果か、それとも私が死体人形だからだろうか。


 そのことに気づいた私は一人、サリオン様を探してとにかく駆ける。

 魔物さん達に託された想いと共に、必ず彼を取り戻すと決意を胸に宿していた。


「サリオン様! ……サリオン様っ!!」


 先程まで響いていた、激しい戦闘音が聞こえなくなった。

 不安になって声を張り上げながら更に神核炉へ近づく。

 すると躯の塔の傍らに、静かに横たわるサリオン様の姿を見つけた。



「――ッ、サリオン様っ!? いやっ!!」



 彼の衣服の裾は焼け焦げ、肌にも幾つも傷跡があった。

 いつも戦闘においては圧倒的な力を見せつける彼が、今は無力に倒れ伏している。


 その光景はあまりに残酷で、現実感がなく、けれど確かに目の前にいるのは愛しい人だった。


 私はすぐに彼の傍に膝をついて抱き起す。


 最初は、"間に合わなかった"のかと思った。

 だけど、サリオン様は微かではあるが息をしていた。


「サリオン様……っ、サリオン様! お願い、あなた、目を覚まして――」


 彼の頭を膝に乗せたまま、その手を両手で包み込んで祈る。

 


 ――どれくらいの時間が経過しただろう。

 やがて、サリオン様が薄っすらと目を開けた。


「カナリヤ……?」


 どこかぼんやりと力ない彼の声が、何よりも愛おしく感じた。

 私は勢いのままに彼を抱きしめ、縋るようにしがみついた。


「サリオン様、良かった! 本当に、良かった」


 怪我をしている人に、少し乱暴だったかもしれない。

 でも、こうしておかないと、この人がどこか遠くに行ってしまう気がしたのだ。


「帰りましょう。とにかくここから、離れましょう」


 私は少し強引に、そう彼へ告げた。


 事態は何も解決していない。神核炉は起動したままだ。

 ロイドが何処に行ったのかもわからない。

 人々は未だに、躯の塔によって襲われ続けている。


 それでも、私は彼を連れてこの場から離れなくてはいけない。

 もう十分に苦しんだこの人を、私が守らなくてはいけない。


 ――たとえ、どんな罪を背負うことになったとしても。


「大丈夫。皆で考えれば、きっと解決策も見つかるはずです。だから……」


 私は声を震わせながらも、無理やりに微笑む。

 そのまま、彼の手を引こうとした。


 私は知っている。サリオン様は、私の願いを断らない。

 だから、一緒についてきてくれると思ったのに。



「カナリヤ」



 サリオン様は動こうとしなかった。

 

 代わりにただ一言そう告げて、優しく微笑んだ。

 その声は温かくて、柔らかくて、けれど、真っ直ぐな決意に満ちていた。


「さ、サリオン様……」


 彼の声を聞いて、私は知ってしまった。

 無理に作っていた笑みが歪んで、頬に涙が伝い落ちていく。


「知ってしまったのですね。神核炉の封印方法を」


「ああ。君も分かっていたのか」


「……つい先程、魔物さん達から、聞いて」


「そうか。ごめんね。君に、苦しい言葉を言わせてしまった」


 彼は悲しげにそう言って、私をそっと抱きしめ返した。

 ―― 一番苦しいのは、サリオン様のはずなのに。


「サリオン様、お願いです。帰りましょう。みんな、それを望んでいます」


 彼の決意は痛い程に伝わってくる。

 それを認めたくなくて、私は必死に言葉を重ねた。


「いえ、私が、それを望んでいるんです。お願いです。貴方が居なければ、私は……!」


「カナリヤ」


 駄々をこねる私を諭すように、サリオン様の優しい声が耳元で響く。


「聞いて、カナリヤ。僕の愛しい人」


 その言葉で、私は何も言えなくなる。


 この続きを聞いてはいけないと思うのに。

 聞けば後戻りできなくなると、感じるのに。


「僕は君のことが大好き。君とずっと一緒にいたい。君を独り占めしたい。そう思っていた」


「そっ、それなら!」


「でもね」


 私を抱きしめる彼の腕に、力がこめられる。


「それ以上に、僕は君に温かな場所で笑っていて欲しい。幸せで、あってほしい」


「無理ですよ。あ、あなたが、いないと……!」


「カナリヤ、愛してる」


「……っ!」


 彼の指先が、私の頬を慈しむように触れた。

 サリオン様は私を見つめて、本当に幸せそうに微笑む。 



「愛してる」


「愛してる」


「……ずっと、愛してる」



 そのまま私の腕の中で、彼は動かなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ