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第105話 英雄の失墜



 ――指輪は再生していく。ロイドの発した真実の言葉を。



『君は知らないだろう! どれだけ俺が、君の為に人生を捧げてきたのか!』


『全てだ。全て、君の為だったんだよ、カナリヤ』


『全部だ。家族や友人から君を切り離したのも、君が虐められるようになったのも、……君の母親が死んで、君が大火傷を負ったことさえも!』


『全部、俺がやったんだ。君の人生を形作るもの全て、俺が作っていたんだよ。これって、この上ない運命だろう!?』



 普段、表で見せていた穏やかさの欠片も無い激昂。

 しかし、それは確かに民衆の良く知る英雄ロイドの声だった。


 あまりの衝撃の為か白の聖殿は静まり返っていく。

 そんな重い空気の中、次の音声が再生された。 



『まっ、待って。王国牢って、サリオン様の――!』


『ずっと大人しくしていたようだが、あの化け物が暴れてくれるならむしろありがたい。アイツが危険だと、皆に周知できるからね』


『魔物の暴走だって、貴方が仕組んだんじゃない!』


『成程。知っていたのか』



 それは会話の断片でしかない。

 けれど確かに、彼が罪を認めた自白に他ならなかった。



 ロイドが狼狽しながら弁明する。


「こんなものは偽物だ! 俺に罪を着せる為の捏造だ!!」


 彼が必死に叫べば叫ぶほど、民衆からは疑いの眼差しが向けられていく。

 それでもロイドは、弁解を止めることができない。


「先ほどの魔王の力を見ただろう? この程度の偽造は簡単なはずだ!」


 ロイドがサリオン様を指さしながら声を荒げる。

 しかし反対に、サリオン様に睨み返されて竦み上がった。


「ひっ」


「貴様……、カナリヤに何をしてきた」


 ロイドの暴露によって彼の所業を今知ったサリオン様の殺気が、ロイドへ突き刺さる。


 身を震わせながらも、最後の懇願とばかりにロイドは膝をついて王宮へ向き直った。

 彼が真っ直ぐ見上げるのは、現トルマニア国王その人だ。



「我が王!! 聡明な貴方なら分かるはずです!」


 祈るようにロイドは叫ぶ。


「俺はずっと貴方をお支えしてきました。ずっと!!」


 その声に応じるように、ずっと奥に控えていた国王がバルコニーへ歩み出す。

 国王が動いたことでロイドの表情が一瞬明るくなった。


 しかし、民衆へ顔を出した国王は暗い顔をしていた。

 その様子で国王の気持ちを察したロイドは、愕然と目を見開く。



「ロイドよ。お主の長きにわたる功績、私は高く評価している」


「で、では!!」


「――しかし」


 国王の声は低く重かった。


「しかし、この度の行動、擁護しきれるものではない」


「……!!」


 ロイドが項垂れ、地面に両手を付く。

 国王はその姿を痛まし気に見つめつつも、最大限配慮した様子で発言を続けた。


「故に、この事件の再調査を行うこととする。そして、その結果を元に――」



「必要ない」



 国王の言葉を遮って、ロイドが声を発しながら立ちあがる。

 その不敬な態度に、大臣から非難の声が上がった。


「フレアリス候、国王のお言葉の途中だぞ!」


「五月蠅い。お前達は何もわかっちゃいない」


 そう発するロイドの目は完全にすわっていた。

 追い詰められ、真っ当な逆転の目を完全に失い、ふっきれた男の姿がそこにはあった。


「英雄は正義、魔王は悪だ。そんな簡単なことも分からない連中の言葉なんて、何の意味も無い」


 ロイドは狂ったように笑うと、私とサリオン様の方へ視線を向けた。


 あまりの豹変ぶりに私はびくりと肩を震わせる。

 サリオン様は私を庇うような姿勢をとるが、ロイドの変わりように驚いている様子だ。


「カナリヤ、駄目じゃないか。いつまでも、そんな魔王の所にいては。君は賢者の正当な後継者だ。英雄の妻になるべくして生まれてきた存在だ」


「ち、違います……。私の居場所は、私が決めます!」


「そんな魔王のどこが良いんだい? ああ、強いからか? お前達、俺が弱いからって舐めてるんだろ」


「もうお前は喋るな! 本気で黙らせるぞ」


 ロイドの私への暴言に怒ったサリオン様が声をあげるが、ロイドはくすくすと笑うばかりだ。


「ははは! やっぱり、俺にはもう何もできないと思ってやがる。どいつも、こいつも……!!」


 ロイドの異様な様子に、私は本能的な寒気を覚えた。

 私の恐怖を察してか、私を抱きしめるサリオン様の腕に力がこもる。


 そんな私たちの様子をみて、ロイドは赤い瞳をゆっくりと細めた。



「"神の力"を見せてやるよ」

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