第104話 無実の証明
白の聖殿は異様な空気に包まれていた。
――味方兵士をも巻き添えにしようとしたロイドの暴走を、サリオン様が鎮圧した。
その事実は民衆に困惑と動揺を生み、漣のようなざわめきが広がっていく。
拘束を解かれた兵士たちも、誰一人として私たちを捕らえようとしない。
自分たちの命を救ってくれたのが誰なのか、彼らはよく理解しているからだ。
「リュミエ殿、これは好機では?」
防御壁を解除したリュミエさんに、ノクスさんが声をかける。
「今ならば、我々の話を聞いて貰えるかもしれない」
リュミエさんがハッとした表情を浮かべて、王宮のバルコニーを見上げた。
白いカーテンの内側に退避しているようだが、そこにはまだ国王の姿がある。
「ルージュ、ブルー、ジョーヌ!!」
リュミエさんが声をあげると、三羽のカラスたちが勢いよく飛び出す。
「貴女たちはこれを国王の所へ」
「はいです!」
「いくです!」
「任せるです!」
リュミエさんから書類と革袋を受け取ると、彼女たちはそれを咥えて舞い上がった。
「何を企んでいる、この……!!」
暫し事態を飲み込めずにロイドは愕然としていた様子だったが、我に返ると剣を振り上げた。
しかし大技を使って消耗しているのか、その足取りはふらついている。
「大人しくしていろ、小僧!!」
カラス娘たちに攻撃を放とうとするロイドへ、鬼の形相のヴァルクさんが立ちはだかった。
ロイドが一瞬ひるんだ隙に、ノクスさんが黒い影と化してロイドの四肢を拘束する。
「おい、お前ら何をしている。早く魔物を捕えろ!!」
ロイドは叫ぶが、兵士たちは困惑したままなかなか動き出すことができない。
こうして硬直状態となっている間に、ミュラさんが大広場の中心で声を張り上げた。
「みんな、聞くにゃ!!」
拡散魔術をかけてるのだろう、その声は会場全体によく響く。
「この国家転覆罪は全て冤罪だ。全部、そこにいるロイドの仕組んだ罠だったんだにゃ!」
ロイドの顔が青ざめる。
慌ててミュラさんの口を塞ごうとするが、動くことができない。
「ロイドは瘴気を吸った魔石を破壊して、魔物を呼び出していたにゃ。証拠もあるにゃ!!」
民衆のどよめきが大きくなっていく。
きっと言葉だけでは、彼らの心は動かなかっただろう。
しかし実際に目にした光景ともたらされた結果により、頑強だったロイドの信頼へヒビが入る。
王宮のバルコニーでは、ルージュさん達が証拠品を国王へ提示していた。
それは実際に悪事に使用された魔石の破片。
さらに、犯行に加担したと供述するラルゴ・ヴァレンティーヌ直筆の証言書だった。
「我が王よ! 全ては魔王の策略です。俺は常に国と民を想って戦ってきました!!」
ロイドが声を張り上げる。
「確かに己の使命を遂行することにとらわれ、先程は失態を犯しました。それは謝罪します。しかし、全ては我が王と民の為!」
彼は王と民衆の信頼を取り戻そうと、必死に訴えかける。
「俺はいついかなる時も何処へでも赴き、平和を守ってきました! それをお忘れですか!!」
ロイドの声に、民衆のざわめきが割れ始めた。
現実として、彼に救われたという人も沢山いるのだろう。
元より熱狂的な支持を得ていたロイドだ。
次第に彼を疑う声よりも、彼を擁護する声の方が大きくなっていく。
「……一体、何が起こっている?」
長期にわたり囚われていたサリオン様は、状況が把握できず見守りに徹していた。
やがて呟かれた疑問に、傍に控えていた私が答える。
「この国家反逆罪は、全てロイドの仕組んだ冤罪だったのです。魔物さん達が真実を突き止めてくれました。ただ、どうしても完全な証拠を掴むことが難しく――」
実際、これだけ状況を積み上げて訴えかけてもなお、ロイドの信用を崩しきることができない。
彼が少し演説をしただけで、広場の雰囲気は簡単に彼を支持する方向へ傾いていく。
私は悔しさに唇をかみしめた。
何か自分にもできることはないのか。
何か、何か――!
「……!」
気づけば、左手に光る指輪が淡く光り始めた。
私は今攻撃を受けてはいないから、加護の魔法が発動した訳ではなさそうだ。
「な、なんで、指輪が……」
「カナリヤ、これは魔法だ。君の魔力を感じる」
「私のですか!?」
理解が追い付かずに狼狽える私の左手に、優しくサリオン様の手が重ねられた。
「君の指輪が、君に応えようとしている」
「指輪が……、あっ」
私は息をのんだ。思い出したのだ。
ロイドに襲われて指輪が反応したあの時、彼は己の罪を自白している。
「あなた、あのときのこと、覚えているの?」
私が問いかけると、肯定するように指輪はその纏っている光を増した。
「……僕が補助する。カナリヤ、このまま、指輪を掲げて」
「はっ、はい!」
私の左手にサリオン様の魔力がゆっくりと重ねられていく。
指輪はますます輝きを増して、最後に光を放つと大音量で声を再生し始めた。




