第100話 反撃の狼煙
――サリオン様を取り戻すため、処刑場に乗り込む。
私の提案に、魔物さん達は暫し思案するように黙り込んだ。
最初に口を開いたのはミュラさんだ。
「賛成! こうなったら、思い切り派手にいこうにゃ!」
それに続いたのはリュミエさんだ。
「そうね。情報の少ない王国牢を攻略するより、その方が勝率が高い」
賛同する二人の様子を見て、ルージュさん達も頷いた。
「やるです!」
「いきましょう!」
「みんなで陛下を助けるです!」
そんな中、唯一、難色を示したのはノクスさんだ。
「しかし処刑は明日の正午。それまで、陛下はご無事でいらっしゃるか……」
彼はサリオン様の安否を心配していた。
確かに処刑場に辿り着く前に、ロイドが更に手を打ってくる可能性は否定できない。
私が考え込んでいると、また声が響いた。
「おそらく、それは問題ないだろう」
気づけば部屋の隅にいたはずのヴァルクさんが、近くまで転がってきていた。
「ヴァルク、貴方、もう大丈夫なの?」
「ああ。作戦が決まったなら、私はそれに従う。……縄を解いてくれ」
リュミエさんに縄を解かれたヴァルクさんは、再び話し始めた。
「あのロイドという男は虚栄心にまみれている。強大な陛下を自らが討ち取ったのだと、民衆に知らしめたいはずだ」
彼は忌々しげに続ける。
「きっと陛下を無事な状態で大広場まで連れてくるだろう。自らの手で処刑するために」
また沈黙が場を包んだ。
それから、ノクスさんが絞り出すように応じた。
「分かった。ヴァルク殿の意見を支持する。オレは政治に詳しくはないが……陛下の無事を信じる」
これで全員の意見が一つに固まった。
「ありがとうございます、皆さん」
それでもどこか不安げなノクスさんの手に、ミュラさんが猫の手を重ねる。
その上にリュミエさんも手を置き、ルージュさん、ブルーさん、ジョーヌさんも翼を合わせた。
私とヴァルクさんは顔を見合わせて、二人でその上に手を添える。
「必ずサリオン様を取り戻して、黒曜城に帰りましょう」
「御意!」
「もちろんにゃ」
「はいっ」
「「「はいです!」」」
「ああ!」
私たちは誓いを掲げて、夜を明かすこととなる。
◇ ◇ ◇
その日の王都の中心部の空は晴れ、青く澄み渡っていた。
周辺地域の上空には未だに魔物が跋扈し、火災による煙で空が白く濁っているのとは対照的である。
王城大正門は厳重な警備の元、今日は民衆へと解放されている。
そして住民たちは、続々と王宮内にある巨大な広場――白の聖殿へと集まっていた。
魔物の暴走で疲弊しきった彼らは、少しでもその心を癒そうとしているのだ。
この地獄の元凶である魔王が英雄に倒される瞬間を、目の当たりにしようとしているのだ。
「ついに王都に平和が戻るぞ!」
「魔王に石でも投げつけてやろう」
「ロイド様、万歳!」
大円の形状をした広場の周りをぐるりと囲むように、階段状の見物席が設けられていた。
地上近くは貴族が陣取り、上階の席は一般の民衆で埋め尽くされている。
一万人規模で収容可能なこの広場が、ほぼ満員状態となっていた。
真っ白に磨かれた石床には放射状に、金の模様が刻まれている。
その中央には、石造りの高壇が設けられていた。
十数段の階段を上がった先に、断頭台が据えられている。
後方の民衆までよく見えるように高く設計された処刑場を、更に遥か高所から見下ろすのは巨大な神像だ。
高壇と密接する位置にそびえるその像は、処刑の正当性を場に知らしめているようですらあった。
「これより、国家反逆の罪人を連行する――!」
「待たせたな、諸君!!」
正午近くの時間になり、役人の掛け声と共に大広場にロイドが姿を現す。
彼は鎖を握っており、その後方には首輪で繋がれたサリオン様の姿があった。
二人の姿が見えた瞬間、白の聖殿は歓声と罵声が割れんばかりに轟く。
しかし共通しているのは、この場にいる誰もが、この処刑を歓迎していることだ。
一万人以上の悪意に晒されても、サリオン様は無表情のままだった。
恐れも、怒りも、憂いも、諦めすらも感じられないような、感情の失せた顔をしていた。
「続いて、第十七代トルマニア国王アルベリク・トルマニア陛下、御着席――!」
この公開処刑には、国王も同席するらしい。
国王は広場に面した王宮のバルコニーへ姿を現した。
周囲には大臣や近衛兵の姿も見える。
ロイドは恭しく国王へ向かって一礼すると、サリオン様へ指示する仕草をとった。
促されるままに、サリオン様は一人で断頭台へ続く階段を上る。
サリオン様は触れた人間の命を奪う力がある。
だから最後まで警戒されているのか、ロイドは高壇の下に残ったままだ。
彼はサリオン様の処刑前に、民衆へ向けて最後の演説を始めようとしていた。
私たちは早朝からずっと、リュミエさんの隠匿魔法で身を隠しつつ白の聖殿を見守っていた。
上空から黒銀の竜の背に乗って、全てを見ていたのだ。
サリオン様への悍ましい仕打ちに怒りで体が震えたが、私たちは耐え続けた。
「――今です。行きましょう!」
そして今、好機と判断した。
「飛んで、アウロス!!」
王国大広場に集う民衆から、どよめきが走る。
ロイドが唖然とした顔で空を見上げ、サリオン様も僅かに目を見開いた。
今にも処刑が行われんとする白の聖殿の大空に、巨大な黒銀の竜が出現したのだ。




