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第99話 王を取り戻せ



『サリオン・ノースフェル辺境伯の即時処刑を決定する』


『執行は明日の正午、王国大広場にて』



 王都全体に響き渡る無慈悲な宣告に、私たちは愕然とした。


 眼下で確認できる民衆たちが、その通達に歓声を上げている。

 ぞっとする光景だが、苦しくとも理解できてしまう。

 彼らにとってサリオン様は、この王都の地獄を引き起こした首謀者に他ならないのだ。


 しばらく誰も話せないでいたが、ようやくミュラさんが口を開いた。


「なんっ……、何を考えているにゃ、王国は!?」


「今すぐリュミエ殿とヴァルク殿と合流して、王国牢を襲撃しよう」


 アウロスに指示を出し始めるノクスさんの声に、私はハッとした。


「そういえば、リュミエさん達はどこに?」


「リュミエ殿たちは王都の騒動を受けて、少しでも魔物の暴走を鎮めようと尽力していた。だが、ランベルトとは規模が違い過ぎて、状況は厳しいようだ」


「こんな奴らより陛下が大事にゃ。陛下を取り戻して、さっさと黒曜城に帰るにゃ!」


 普段では考えられない程、ミュラさんの言葉はとげとげしい。

 全てサリオン様のことを案じているからこそだろう。


「サリオン様は殺させません」


 私はきっぱりと言い切った。

 それは誓いであり、自分へ言い聞かせる言葉でもあった。


「ですが、焦って行動して失敗することも許されません。まずは全員集まって、作戦を考えましょう」


 今にも飛び出そうとする勢いだったミュラさんとノクスさんは、私の声に押し黙る。

 それから互いに顔を見合わせて、葛藤するような間の後、頷いた。


「……分かった。街外れの空き家を集合場所に決めていたにゃ。一回、そこへ向かうにゃ」


「リュミエ殿たちも通達を聞いていたはずだ。戻ってくるかもしれない」


 こうして私たちは、王都の街外れの空き家へと急いだ。


◇ ◇ ◇


「カナリヤ様!!」


 私は集合場所の空き家に辿り着いた瞬間、先に到着していたリュミエさんに抱きしめられた。

 ブルーさんとジョーヌさんも擦り寄ってきてくれる。


「本当に、よくぞご無事でお戻りに。フレアリス家の屋敷が火事に遭っていると聞いたときは、肝が冷えました」


「会えて嬉しいです!」

「大好きです!」


「ありがとうございます。皆さんが助けに来てくださったんです」


 道中で説明を聞いたところによると、黒曜城の皆さんは魔物暴走騒ぎを聞きつけ、動けるメンバー全員で王都へやってきたらしい。

 そこであまりの惨状を目の当たりにし、何とか鎮静化を試みたのだという。

 その最中、フレアリス家が火災だという噂を聞きつけ、ミュラさん達が慌てて私を助けに向かってくれたのだ。


「あの、ところで」


 リュミエさんの腕からようやく解放されたところで、私は気になっていたことを聞いてみた。


「どうしてヴァルクさんは縛られているのでしょう……?」


 私が空き家に辿り着いた時、ヴァルクさんは縄でぐるぐる巻きに縛られて隅の方に転がっていた。

 しかもその上に、封印の札のようなものまで貼ってある。


「ああ。あれですか」


 リュミエさんが溜息交じりに応える。


「ヴァルク本人に頼まれたんですよ。ああでもしないと、一人で王国牢に突撃してしまいそうだからと」


「な、なるほど……」


 ヴァルクさんの性格を考えると、非常に説得力のある回答だった。


「勿論、陛下をいますぐに助け出したい気持ちは私も同じです。しかし、あの王国牢に我々が向かうのはかなりリスクが高いでしょう」


「そうなんですか?」


 話し出したリュミエさんの周りに、他の魔物さん達も集まってきた。


「あの王国牢は本来、魔術師や高位の魔物を捕らえる為の特殊な構造をしています。魔力を使える我々への対策は盤石だと考えるべきでしょう」


「陛下の御力でも厳しいのか?」


「いえ、陛下であれば、それでも牢は破れるはずよ。だけど、現状……」


「陛下が逃げ出した様子はない、ということかにゃ」


「そう。不可解なことが多すぎる」


「そもそも、なんで陛下が処刑にゃ。意味が分からない!」


「まさしく。王都への魔物襲撃だって、陛下が囚われている最中のことではないか!」


「人間側では、王国牢を崩すために陛下が魔物を暴走させて王都を襲撃させている、ということになっているみたいよ」


「馬鹿かにゃ! そんなことしなくても、うちの陛下は一人で檻くらい出られるにゃ!」


 憤る魔物さん達の話し合いを聞きつつ、私は考える。

 処刑は明日の正午だ。もう時間がない。


「……全て、ロイドの思い通りの展開のような気がします」


 ぽつりと呟く私の言葉に、皆が黙り込む。

 皆の視線が、一気にこちらへと向けられた。


「彼はきっと最初から、こうなることを狙っていたんです。サリオン様の処刑を」


 強く唇をかみしめる。

 何処かのタイミングで止めることが出来なかったのか。

 

 後悔は尽きないけれど、今は前に進むしかない。



「……処刑場に乗り込みましょう」



 私が告げた言葉に、動揺した空気が走った。

 皆は王国牢をどう攻略するのかで頭を悩ませていた。

 だけど、それはリスクが高いし時間も無い。

 

 そして何より王国牢は密室だ。

 何があっても、ロイドに印象操作をされてしまう。


「王国大広場で、公開処刑が行われるはずです。当然、多くの民衆も見物にやってきます」


 これが正しい判断かは分からない。

 けれど、今思いつく精一杯だ。


「ロイドは民衆の目を極端に気にします。民衆は今はロイドの味方ですが……」


 ロイドの弱点を突くのであれば、この方法しかない。


「彼の本性を暴けば、真実に気づいてくれる人もいるかもしれません」


 それに王国牢と違って、王国大広場であれば接近は容易だ。

 警備はあるだろうが、広すぎる上に王国警備隊は魔物騒動で人手をとられている。

 

 少なくとも、サリオン様に接触できる可能性は高い。


「……どうでしょうか」


 私は黙り込んだ魔物さん達に、意見を聞いた。

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