表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/118

第98話 王都炎上

 大窓の外で呼びかけてくれたルージュさん達に応えるように、私は手をあげる。


「皆さん……!」


 黒馬の姿となったノクスさんは私を乗せたまま、速度を緩めず窓へと駆けていく。


 背後からはバタバタと複数の足音が迫ってきた。

 小さな爆発音も轟く。

 追いかけてくる魔導師の一人が、苦し紛れに攻撃魔法を放っているらしかった。


「ノクス、追手にゃ。飛べ!!」


「言われなくとも!」


 その瞬間、床を蹴ってノクスさんが一気に跳躍する。

 窓枠を大きく飛び越えて、黒銀の竜であるアウロスの背に着地した。


 私たちが背に乗ったことを確認すると、アウロスは間髪入れずに大空へ飛び立つ。

 

「くそっ、待て!」

「カナリヤ様ー!!」


 閉じ込められていて時間の感覚も無かったが、空には月が静かに浮かんでいた。

 アウロスの黒い翼は、夜の闇に溶け込むように速度を増していく。

 フレアリス家の屋敷から響く叫び声も、すぐに小さく聞こえなくなっていった。


◇ ◇ ◇


「カナリヤ様、ご無事でよかったです!」


 追手を振り切ったところで、カラス姿のルージュさんが胸の中に飛び込んできた。

 私はそれを受け止めて、ぎゅっと抱きしめる。


「ありがとうございます。心配をかけて……ごめんなさい」


「カナリヤが謝ることじゃないにゃ。ああもう、こんなに痩せちゃって。アイツに酷い目にあわされたのかにゃ? やっぱり、もう少し暴れておけばよかったかにゃ?」


 灰猫のミュラさんはやつれた私の姿に、怒ったようにふんふんと尻尾を振っている。


「その意見には同意だが、まずはカナリヤ殿救出が先決だった。仕方あるまい」


 ノクスさんは馬の姿から人型に戻り、私をアウロスの背へ下ろしてくれた。

 

「はい。本当に助かりました。あのままでは、また捕まっていたと思いますから」


 心からの感謝を告げて頭を下げると、私は眼下に広がる王都の景色へ視線を向けた。


 逃げ切ることで頭がいっぱいで、騒々しさには気づいてもすぐに状況が把握できなかった。

 しかし改めて眺めてみると、至る所で火事が起こり、夜闇に白煙が立ち上っている。


 王城周辺は流石に騒ぎが少ないようだが、少し中心部から外れると状況は絶望的だった。

 目を凝らせば大小様々な魔物たちが我が物顔で暴れまわり、倒れている人の姿も沢山見えた。


「あの、これは……一体、何が起こっているんですか?」


「カナリヤ、ここ何日かの騒動を知らないのかにゃ」


「すみません。地下室に閉じ込められていて、何も。大きな音がするのは聞こえていたのですが」


 監禁されていたという私の発言に、ミュラさん達が一瞬、殺気だった。

 だが、ひとまず説明をしようと再び話し始める。


「ボク達が介入した後、地方での魔物の暴走騒動は暫くおさまっていたんだ。だが、数日前、今度は王都で魔物の暴走が始まったにゃ」


「王都で!?」


「しかも、地方で起きていたのとは比べ物にならない規模にゃ。今は鎮圧されてるけど、一番酷い時は王都中枢でも魔物が暴れ回っていた」


「そんな、どうして……」


 理解が追い付かず声を震わせる私を慰めるように、ルージュさんが身を寄せてくれる。

 その様子を見つめつつ、ノクスさんも口を開く。


「ラルゴは我々との約束通り、ヴァレンティーヌ家の屋敷から動いていなかった。とすると、実行犯は、ロイド本人かもしれない」


 私はその言葉に息をのみ、必死に頭を巡らせる。


「数日前……、数日前は」


 そして、目を見開いた。

 閉じ込められていたから時間の感覚は曖昧だ。


 だが、きっと、そのタイミングは――、



「私がロイドに襲われそうになって、指輪の加護の魔法が発動して」

 私は左手の薬指に光る指輪を握り締めた。

「その後、サリオン様が王国牢で騒ぎを起こしていると聞かされた頃です」



 それを告げた途端、その場の空気が凍り付いた。

 ルージュさんは泣きそうな声で、私にしがみ付いた。


「ううっ、それは本当に怖かったでしょう。傍にいれなくて、ごめんなさいです」


「大丈夫ですよ。サリオン様の指輪が守ってくれましたから。それに皆さんのおかげで、私、強くなれましたから」 


 私はルージュさんの頭を優しく撫でる。

 ミュラさんとノクスさんの周囲には、怒りのあまり黒い魔力のオーラが揺らめいていた。


「あの野郎……、ホントにゼッタイ許さないにゃ」


「だが、陛下が動いたのならば、王国牢など破壊できるはず。なぜ未だに囚われていらっしゃるんだ?」


 ノクスさんのもっともな疑問に、私は言葉を詰まらせる。

 地下室で目にした、ロイドの勝ち誇った笑みが思い出される。

 


『アイツが俺に負けを認めたからだよ。もう抗う気力もないのさ』



 私は拳を握り締めた。

 信じたくない。そんな言葉、信じたくはない。


 けれど実際、サリオン様は囚われたままだ。

 何かが彼に起こっていることは間違いない。


「もしかしたら、ロイドがサリオン様に何かしたのかもしれません」


 絞り出すように告げた私の声に、ミュラさんが複雑そうな表情を見せる。


「勿論、ロイドがサリオン様に勝てるとは思えません。けれど、ロイドは狡猾です」


 そして私には、もうひとつ伝えなくてはいけないことがあった。

 ロイドは、はっきりと言っていた。

 サリオン様の処刑が決定したと。


 私が口を開きかけたその時、王都の中心にある聖堂の鐘が激しく打ち鳴らされた。

 

 王都全体へ届く、特殊な拡散魔術が施されている鐘。

 それは数年に一度、緊急の伝達の際にしか響かない音色だ。



『速報、速報――全王都民に告ぐ』


『王都襲撃という罪まで重ねたサリオン・ノースフェル辺境伯の即時処刑を決定する』


『執行は明日の正午、王国王広場にて』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ