73話目 「くるくると手のひらで踊る」
どーも、作者です。
今回から新Chapterに入ります。
日常を描いた話ですのでシリアスなのはこの話だけです。
では、どーぞ。
ゴーゴーという音が耳を通りぬけながらも、落下し続ける悠斗達。
しかもそれなりに速い速度で、かなりの時間落下している。
「なぁ、これさ」
突然悠斗が口を開き言い放つ。
「いつまで落ちるんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!」
その悠斗の悲しい叫びは風の音にかき消され、周りの人の耳には届かない。
「いやこれやばいって!下手すりゃ落下ダメージで死ぬぞ!リスポーンするだろうけどさ!」
「あはは、ゆーは心配性だねぇ」
大人桜月が落下しながらも悠斗の方へと近づいてくる。
「いや、心配性も何もいきなり地面を腕がすり抜けたと思ったら今度はずっと落下し続けるってどんなに怖いことか!」
「って言う割には私に怒るくらい余裕あるじゃーん!」
「こんな状況なら怒りたくもなる!」
「だいじょーぶ、下を見てごらん?」
悠斗は大人桜月に言われたとおり下を見る。すると、雲の間から街が見えた。
「あれはエターナル・オンラインの街か?だけど、確かその街の中心から潜ってるんだからここにあるはずが…」
「そんなの私が転移魔法で皆をエターナルオンラインの上空に送り飛ばしたからに決まってるよー!」
「はぁっ!?」
「あれ?分かりづらかった?もっと簡単に言うと、エターナルオンラインの最下層の床とエターナル・オンラインの街の上空をつなげて私達を転移させただけだよー」
大人桜月はさらっとおぞましい規模のことを言っていた。
「でも転移魔法は魔力の消耗が激しいからあまり使いたくないんだよねー、あはは」
「(未来の桜月怖い…)」
「それにしても悠斗はやっぱり昔から悠斗だな。俺が初めて未来の俺とあった時は昔の俺と全く同じ反応だったが、お前はあの時からずっと堂々としてた。今回俺が未来から行く立場になっても、やっぱりお前はお前だったよ。」
未来の蒼汰が空中で近寄ってきて悠斗に言った。
「そうだね、だからこそ私達のマスターであり、人と人をつなぐ架け橋的存在なんだよ。昔から悠斗はそうだった。」
未来の智恵も近づいてきてそう言った。
「(未来の俺…かぁ)」
未来の自分、と言われても今ですら実感がわかない。
大人悠斗は間違いなく未来の悠斗だろう。それは間違いない。
だけれども、それを認識した後でも実感というのは不思議と湧いてこない。
それは、未来の自分と現在の自分では『実力』が圧倒的に違うからだ。
未来の自分は現在の自分がほしいと思っているものを全部持っている。
リーダーシップ、固有能力の使い方、戦闘能力。全てにおいて未来の自分が勝っている。いや、むしろ比べるのすら馬鹿らしいほどかけ離れている。
だが、未来から来たということは現在の自分もいずれ同じになるということだ。
しかし、今のままの自分が大人悠斗に追いつけるのだろうか、と不安にもなる。
「高すぎる、壁だなぁ」
はぁ、と大きな溜息をつく。不安と呆れが混じった溜息だった。
「お、見えてきたぞ?地面。」
「え?」
大人蒼汰のその声に考えをやめ、下を見る。
すると、地面がすぐそこまで迫っていた。
「えっ、えっ、ええええええええ!?うわぁぁぁぁぁ!」
突然の地面にパニックになる悠斗。手足をバタバタさせるがもちろん無駄である。
「まってまって死にたくねぇ!」
「だいじょーぶ、おねーさんにまっかせなさい!」
「つっきー、おねぇさんはどうかと思うよ。なんだかんだで悠斗なんだし。」
「いーのいーの!いまは私がおねーさんなの!」
大人桜月は右手を落下しながらも地面の方へ手をかざす。
すると、地面に魔法陣が出来上がる。それだけだった。
「え、それだけか!?」
「だいじょーぶ!」
「ちょっ、ぶつかるー!」
悠斗はとっさに目をつぶる。ドサッ、という音とともに身体に衝撃が走る。
だが、それは想像していたよりも軽い衝撃だった。
地面に激突するというよりも、地面に下ろされた、という感じの衝撃だった。
恐る恐る悠斗が目を開けると、そこはヴァイスリッターのギルドの中だった。
「ここは、ヴァイスリッターのギルドの中か?」
「そーだよー!私が予めマーキングしておいたのが使えるとはね!」
「マーキング?」
「そー、マーキング!昔の私なら絶対してると思ったんだ!」
大人桜月はソファーを持ち上げ、ひっくり返す。
すると、ソファーの裏にマークが書いてあった。
「これがマーキングだよ。これがあると、いつでもどこでもここに転移することができるんだよっ!」
「へぇ…」
少し感心した悠斗だった。
「それにしても、久しぶりにギルドに帰ってきた感じがあるなぁ…」
たった1日ほどの冒険だったのにもかかわらず、かなりの疲労が溜まっていた。
「とりあえず、皆休憩して…って」
悠斗以外の皆はいつの間にか眠っていた。
ソファーに座って眠る人もいれば、カウンターに突っ伏して寝ている人も。
かなりの疲労が溜まっていたのだろう。
「まったく、しかたねぇなぁ」
悠斗は固有能力を開放し、掛け布団を皆の上へ作り出す。
掛け布団は各々にかぶさるようにかかり、身体を冷やさないようにしていた。
「俺も寝たいっちゃ寝たいけど…まだやることがあるな」
悠斗はギルドの扉を開けて、外に出た。
「やっぱりな、お前なら、いや俺ならそうすると思ったよ。」
ギルドを出た直後、どこからか声がした。
声のする方へ向くと、そこには眠っている大人千代をお姫様抱っこしている大人悠斗が立っていた。
「どうせこの後の目的地は同じだ。付き合ってやるよ。」
大人悠斗はそう言ってギルドの中へ入る。
数分後、両腕で抱っこしていた大人千代を下ろしてきたのか、何も持っていない状態で大人悠斗は出てきた。
「さぁ、行こうぜ。ヒーリングズ広場へ。今回の事件は全部そこで解決するさ。」
そういうと、大人悠斗は悠斗の横へ並ぶ。
「ま、そうだよな。そこしかねぇもんな、未来の俺さん。」
数分後、ヒーリングズ広場に着いた2人。
辺りは真っ暗で、ヒーリングズ広場の中心の噴水が星空の微かな光に反射してキラキラと輝いていた。
「ほら、居たぜ?今回の騒動の親玉がさ。」
悠斗がよく目を凝らしてみると、噴水の前に誰かが立っていた。
「まったく、お前の計算通りだぜ!まんまと手のひらで踊らされちまったよ!」
大人悠斗は大声でその人物へ向かって叫ぶ。
「流石、悠斗ですね。私の想像以上の動きです。ですが、あなたが居なければ今回の騒動が収まらなかったのも事実。助かりましたよ。」
「よく言うぜ、昔の俺を餌にして未来の俺を引きずりだしたくせにな!」
「しかし、そうでもしないとあなたは動かないでしょう?」
「そりゃそうだ、誰が好き好んで面倒事に首突っ込むんだよ!」
「でも結果的にはいい方へと転がったじゃありませんか。ならそれでいいのでは?」
「お前に利用されたってのが気に食わねぇ!」
「まぁまぁ、そう怒らず。両方得しましたし。」
「お前なぁ!」
「落ち着けって。お前の気持ちは同じ俺だから痛いほどわかるけど、冷静にな?」
「お前もだよ、煽るだけ煽ってどうするんだよ咲夜。」
そう、噴水の前に立っているのは咲夜だった。
次回更新は12月30日です。




