65話目 「ディストーション・ブレイカー(前編)」
どーも、作者です。
申し訳ありません、次回も更新が遅れます。
では、どーぞ。
千代は槍を地面に突き刺し、てこの原理で地面を持ち上げるようにする。
すると、地面が割れ、瓦礫となった地面の一部が宙に浮く。
大人千代はそれを野球のバットで打つようにして槍で打ちぬく。
「つっきー!」
「了解、ちーちゃん!」
智恵は桜月の後ろに回り込み、魔導書を開いて術式を展開する。
桜月は背中に背負っていた杖を抜き構え、飛んできた瓦礫に向かって詠唱する。
「爆ぜろっ、『エクスプロミネーション』!」
瓦礫の中心から球型の魔法陣が展開され、それが瓦礫の中心へ集まり見えなくなったかと思うと、瓦礫は内部から砕け、弾け飛ぶ。
「来るよっ!」
「準備はできてる!」
千代は槍を地面に付きたて、槍に魔力を込める。すると、風が吹いてもいないのに旗がなびき始め、槍から光が出始める。
そして、それが大人千代と千代を包み込み、ドーム状の薄い膜を2人の周りに作り出す。
「避けてつっきー!」
その言葉に桜月は反応し、智恵の後ろまで下がる。
「『フォウクロード・バルキュリー』!」
智恵の周りに展開された魔法陣から属性を纏った巨大な槍状の魔力が千代たちに向かって飛んで来る。
火、水、雷などの基本属性だけではなく炎、零、閃などの上位属性を纏った魔力も飛んで来る。
その魔力は大人千代と千代に襲いかかり、千代たちの周りの薄い膜を貫く…と思われたが、魔力で創りだされた巨大な槍はその薄い膜に吸収されていく。
「つっきーまずい!魔力を吸われてる!」
「なら、私からいっくよー!」
桜月は杖に魔力を込めると、杖が巨大化し更に形状がハンマーのような形になる。
それを持ったまま桜月は高く飛び上がり、千代たちに向かってハンマーを思いっきり振り下ろす。
「やらせないよっ!」
大人千代は槍を立てて魔力を込めている状態で動かない千代の前に立ち、
桜月が振り下ろした大きなハンマーを自分の槍で貫く。
槍はハンマーの平らな面の真ん中を貫き、粉砕する。
「くっ、流石に『オルレアン』は壊せないかっ!」
桜月は砕けたハンマーの柄の部分だけを持ち下がる。
しかし、大人千代はそれを逃さない。
槍を両手で握りこみ、全力で下がろうとする桜月に向かって突きを繰り出す。
ヒュンという音ではなく、ブオンという風を切る鈍い音が槍の近くで発生するほどの速度だった。
桜月はとっさに身を翻し槍を足ではじく。だが、その速度は弾いたところで遅くなるものでもなく桜月の右腕をかすめる。
ほんの少しかすっただけなのにもかかわらず桜月の右腕には大きな切り傷ができた。
だがそのことを気にせず桜月は柄だけになった杖を背中に担ぎ直し、魔導書を取り出す。
そして、光速で詠唱し大人千代の足元に魔法陣を展開する。
「『チェーンバインディング』!」
大人千代はバッとその場から離れようとするが魔法陣から現れた先が尖っている鎖に足をとられ、そのまま地面に背中から落ちる。
だが魔法陣から鎖はまだ飛び出してくる。
そして大人千代は気がつく。いつの間にか自分の周りに貼ってあった薄い膜がなくなっていることに。
「まさか!」
慌てて倒れた状態のまま顔だけを千代の方へ向ける。
そこには、属性の魔力で創りだされた槍が刺さっている状態で更に地面に魔力の槍で固定されて動けず立ち尽くす千代がいた。
顔は地面を向いており、それは端から見れば確実に気絶しているか、もしくは…
「(まずい、まずいまずいまずい!ここで昔の私に死なれちゃったら…!)」
そう、昔の千代が今死ぬということはこの後の階層での未来が変わってしまう。
そして、最悪の場合敵に利用される可能性もあるのだ。
『シャドウスピリット』を使える人物がいるこの状況でリスポーンを行うというのはほぼ絶望的状況に近い。
もしここで千代がリスポーンしてしまった場合、その瞬間を狙って千代に『シャドウスピリット』をかけ操り、悠斗レベルの強さを持った駒を相手は手にすることになる。
「どこ見てるの?」
その声に大人千代はハッと我に戻る。だが、もう遅かった。
大人千代は足に絡まった鎖によって魔法陣の中心まで引きずり込まれる。
そして、魔法陣から出た鎖によって腕と両足を縛られ身動きを取れない状態にされてしまった。
「しまっ…!」
慌てて鎖を引きちぎろうとするが引きちぎれない。魔力で強化されているようだった。
そして、大人千代は自分の真上にある魔法陣を見て青ざめる。
その魔法陣はさっきまで魔力の槍を打ち出していた魔法陣とは比べ物にならないサイズだった。
そして、その魔法陣から比べ物にならないほどの大きさの槍の先端が顔を出す。
ゆっくりと、ゆっくりとだが確実に槍は形作られていく。
大人千代は落ちている槍を魔力で引き寄せ、空中に浮かせ桜月に向かって飛ばす。
だが、その槍は魔力で弾き落とされる。
「さよなら、ちよちゃん。楽しかったよ?」
「心苦しいけどここでお別れ、かな?」
巨大な魔法陣から槍が、大人千代に向かって落下してくる。
「(ごめん、悠斗…先にギブアップするね)」
大人千代は最後に魔力を開放し、千代に残そうとしたその瞬間。
「っぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突然ピクリとも動かなかった千代が大声を上げて叫び、膨大な魔力を放出する。
放出された魔力が大人千代の上空から落ちてきている槍に触れた瞬間、槍が一瞬にして消える。
そして、大人千代を縛っていた鎖にその魔力が触れた瞬間、鎖はボロボロに砕けて散る。
大人千代はとっさに起き上がり槍を拾って桜月と智恵から距離を取る。
「何が、起きてるの…?」
大人千代は千代が今どういう状況なのかを理解できなかった。
だが、確実に今の千代の状態はまずい。なぜならば魔力を放出すると同時に内包していた闇の魔力を表に出している。
このまま魔力を放出し続ければ確実に精神が闇に支配されるだろう。それだけは止めなければならない。
どうやら桜月と智恵も千代の状態は異常と思っているのか手を出せずに居る。
「とにかく昔の私を止めないと!」
大人千代は固有能力を解除し千代に近づく。本体に近づけば近づくほど闇の魔力に触れ、魔力を吸い取られていく。
「落ち着いて…!」
大人千代は千代を掴み、しっかりと抱き寄せ魔力で包み込み千代の魔力の開放を抑える。
しかし、闇の魔力は膨大でこのままでは大人千代まで飲み込まれてしまう。
「(このままじゃ…!)」
大人千代は少し朦朧としてきた意識の中でなんとか止める方法を考える。
だが、その考えを思いつく前に大人千代の意識は唐突に切れる。
「えっ…」
そのまま地面に倒れる大人千代。気絶させたのは千代だった。
千代はまだ意識がある状態で大人千代の周りにバリアを何重にも重ねて張る。
「…いい具合だ、やはりこの女の身体はよく馴染むな」
千代は地面に落ちている槍を拾い上げる。
「ふっ、最後に未来の自分だけは傷付けないようにしたか。まぁ、問題はない。これで本気が出せるというものだ。」
千代は槍をヒュンヒュンと振り回す。まるで使いこなしているかのように軽々と。
「この女の気持ちはわかった。私としたことが人の気持ちに触れ、感化されるとはな…仕方がない、今回は私が力を貸してやろう」
千代は槍先を桜月と智恵の方へ向け、言い放つ。
「さぁ、かかってくるが良い偽りの勇者たちよ!私が相手をしてやろう!この戦女神と呼ばれた、ブリュンヒルデ・ニーベルングがな!」
次回更新は11月8日です。




