43話目 「自分自身(後編)」
どーも、作者です。
前回の最後に出てきた人物…
一体何者なんだ…
では、どーぞ。
「これで、俺が誰か分かってくれたと思うんだけど、どうかな?」
黒のポロシャツにジーパン、靴は真っ白でところどころに黒のラインが入っている。
腰にはホルダー付きのポーチが巻きつけられており、ホルダーには悠斗もドッペルゲンガーも見たこともないものが刺さっていた。
背中には人の身長を優に超えるであろう筒状のものが背負われていた。
「お、お前…まさか!」
「おぉ、いいね。その悪役っぽい反応。テンション上がってくるよ。」
「なぜお前がここに、いやなぜそんな姿をしている!存在するはずのないお前が!」
「俺も来る予定はなかったんだけどね。俺が来ないとここで色々狂っちまうから。」
「狂うだと?お前が来たことで狂いだしているのだろう!『相田悠斗』!」
そう、その人物とは相田悠斗本人だった。
しかし、身長は倒れている悠斗よりも大きく、どこか成長しているような顔立ちになっていた。
装備も軽装で、まるで戦う意思がないかのような服装だった。
「いや、狂ってないんだなこれが。ここで俺を殺されると俺が『存在しない』ことになるからな。」
右手に握っている何かをくるくると回す悠斗。
それは倒れている悠斗も、ドッペルゲンガーも見たことがないものだった。
「くっ、だが今ここで俺が2人共殺せば話は済む!」
「だーかーらー、今殺されると狂うんだから、わざわざ殺されに来るバカはいないでしょーが」
悠斗はさっきまでくるくると回していたものを握り直す。
「んで、どうする?ドッペルゲンガーさんは今の俺に勝てる自信はあるのかな?」
握り直したそれをドッペルゲンガーに向ける悠斗。
「ふん、お前など今ここに倒れている弱者と同じレベルに違いない。それに負ける通りなど」
その瞬間、ドッペルゲンガーは足を一歩だけ踏み出す。
「ないっ!」
飛び出したドッペルゲンガーは悠斗の心臓にめがけて天羽々斬を突き出す。
それを軽々と右に避ける悠斗。
だがそれを見越していたドッペルゲンガーは天叢雲剣で悠斗の首を狙って天羽々斬の上をかすめながら斬撃を繰り出す。
「ワンパターンだね」
悠斗は右手に握っていたそれで天叢雲剣を弾く。
「さすがにこれは避けられるでしょ」
弾くと同時にドッペルゲンガーの頭目掛けてそれを構える。
そして、トリガーらしき物を引く。
すると、ドッペルゲンガーに向けられたそれの先端からパァンという音とともに弾が飛び出す。
ドッペルゲンガーはとっさに首を右に動かし、間一髪でその弾を避ける。
そして天叢雲剣を逆手に持ち替え、再び悠斗の首を狙う。
だが、それも読まれていたのかいつの間にか左手に握られていた右手の物に似たような物で弾かれる。
パァンと言う音と共に天叢雲剣の刀身が砕け散る。
ドッペルゲンガーはとっさに距離を取り、残った柄を投げつける。
悠斗は飛んできた鞘を下から足で蹴り上げ、右手のそれで撃ち返す。
パァンという音と共に柄が跳ね返ってくる。
ドッペルゲンガーは跳ね返ってきたそれを天羽々斬で弾き落とす。
「さすがだね。いやぁ、最高のコンディションで作られたドッペルゲンガーなだけはある。」
「お前、俺をバカにしているだろう?」
「いやいやいや。そんな失礼なことはしないよ。いつでも本気さ。」
ギリリ、とドッペルゲンガーは剣の柄を強く握りしめる。
実力では勝っているはずなのに、勝つイメージが浮かばない。
よくわからない強さが、この男にはある。
「さて、そろそろネタばらししてあげてもいいかな?この、俺が使ってる武器の正体を。」
右手と左手に握られているものを見せびらかすようにする悠斗。
「それは、なんなんだ」
「これはな、もうすぐこの世界に実装される『銃』と呼ばれる武器だ」
「銃?」
「そう、銃。言うなれば、物理で遠距離の攻撃ができる武器だ。弓に近いかな。」
悠斗は右手の銃を握り直しドッペルゲンガーへ向けて発砲する。
またもやパァンという音がなり、銃弾が飛んでくる。
とっさの事だったが天羽々斬の刀身で防ぐ。
だが、刀身に銃弾が当たった位置から粉々になってしまう。
「こんな感じに、遠距離から相手にほぼノータイムで攻撃することができる。」
「なっ…!」
「汚い、とでもいいたいかい?だけど、便利なものには必ずデメリットが存在する。君たちの固有能力と同じさ。」
「そ、そんなものを使っているお前に勝てと?」
「当たり前だ。俺は俺自身を死なせないために『この時間』に来た。なんと言われようともお前を倒す。」
再び銃を構え直し、ドッペルゲンガーへ向けて発砲する悠斗。
パン、パン、パァンと連続で破裂音が鳴り響き、鳴るたびにドッペルゲンガーへ銃弾が飛んで行く。
その場からとっさに飛び退き、剣を創りなおして構え、悠斗へ向かって飛び込むドッペルゲンガー。
「流石に、見切らせてもらった!」
飛んでくる銃弾を軽々とかわし、徐々に悠斗へ近づいていくドッペルゲンガー。
「これは見切れてないみたいだがな」
悠斗は左足を振り上げる。すると、左足のズボンの裾から丸いパイナップルのようなものが飛び出す。
「これも見たことないか、手榴弾ってやつだ」
手榴弾は悠斗のスボンの裾から出てほんの数秒後、強烈な光を放った。
「ぐうっ!」
光が前が眩みながらも、悠斗が居るであろう位置へ天叢雲剣を振る。
だが、その天叢雲剣が何かを切った感覚はなく、それは空を切る。
「ど、どこだ!」
強烈な光で前が眩んで目が開けられないドッペルゲンガー。
ほぼ感覚に頼るしか無い。
「はい、さよなら。」
ドゥンという何か大きな物を打ち出したかのような音と同時に、ドッペルゲンガーの体は真っ二つにちぎり飛ぶ。
「かっ…」
防ぐためにとっさに構えた2本の剣をいとも簡単に貫き、ドッペルゲンガーの体をちぎり飛ばすほどの威力だった。
バシャンと地面に落ちる半分になってしまったドッペルゲンガー。
切り裂かれたようなきれいな断面ではなく、まるで砲弾でも当たったかのようなちぎれ方だった。
「よかったな、この世界がリアルな表現じゃなくて。」
ちぎれた部分からは光のつぶが漏れだしており、微かに空に舞い消えていく。
「さて、俺の仕事はここで終わり…じゃないな」
悠斗は倒れている悠斗をペチペチと叩く。
「おい、起きろ。お前そんなんでくたばるようなやつじゃないだろ。」
何度も何度も、ペチペチと叩く。
「はぁ、起きねぇな。俺こんなに長く気絶するタイプだったのか」
今度はゆさゆさと体を揺する。
「これでも起きないのか?しかたねぇな…」
悠斗は手を倒れている悠斗の頭に当て、詠唱を始める。
「ちょっと、頭のなかにおじゃまするぞ。『インタラクティブ』。」
頭に当てている手が光を放ち続ける。
「さぁ、起きろ俺。お前は、ここでくたばっていい人間じゃない。」
「…」
無の世界。そこは、まさにそう呼ぶべき場所だった。
「俺は」
死んだのか。ドッペルゲンガーに、自分自身に勝てなくて。
「…」
それも仕方のないことかもしれない。自分の強さは自分が一番良く分かっている。
「だけど」
奴は言った。『お前は弱い』と。強さを求めてきたはずなのに、弱いと。
「…」
訳が分からない。ゲーム内で最強という称号を持っているはずの自分が誰よりも弱い。
それは揺るぎない事実であり、悠斗自身が一番良く分かっている。
『お前はすぐ逃げるな』
「…!」
『だから弱いのだ。肉体的な強さを持っていようとも、精神的には脆い。肉体の強さに精神が追いついていないのだ。』
「俺は、弱くない。強い。」
『そうだろうか?お前は今まで画面の前でプレイしていた。自分に危険が無いからこその強さだ。折れない意思での強さだ。』
「違う!俺は、この世界に入った後でも…」
『本当にそう言えるか?事実、お前は俺に負けた。いつもなら余裕で勝っているはずの俺に、だ。』
「…」
ドッペルゲンガーの言っていることは正論だった。
自分に危険が及ばない位置だからこそ、キャラが強いというだけで優越感に浸っていた。
危険がないからこそ自分は強い、誰にでも勝てると思い込んでいた。
だが、それがどうだ?この世界に来てから自分は何が出来た。
クイーンフォレスターにまぐれで勝ち、アルスの助けでエリスを助けた。
メアリーに魅了された千代を桜月の助けで救いだした。
何もしてないはずなのに千代に告白され、軽々と受けた。
自分は何を望んでいた?強さ、ただの強さか?
それとも…
『違う、お前が望んでいたのは「繋がり」だ。欲しかったんだ。それが。』
核心を突く言葉。それは、深々と悠斗の胸に突き刺さる。
『俺には分かる。お前の内心の部分から創りだされているからな。』
ドッペルゲンガーという存在、それは悠斗の本心を示している存在とも言えた。
『お前は怖かったのだ。誰よりも、誰よりもただ強さを求めた。だが、それは自分が強くなって一番になりたいが為のことではない。純粋に繋がりを守りたかったんだ。二度と、離さないように。』
誰よりも恐れていた。それを。
『今回の件でそれをお前は深く考えてしまった。智恵が今まで自分たちに見せていたのはただの仮面だったという事実がお前を揺るがせた。』
だからこそ、自分にはその役目は果たせない。そう思った。
『そうだろうな。今のお前には到底無理だ。』
「お前に、お前に何がっ…!」
「分かるさ。言っただろう。俺はお前の内心から作られていると。」
「でも、その自分自身に負けた俺にもう皆を護る資格は…」
「ある!」
それは、ドッペルゲンガーの言葉でも、悠斗の言葉でもなかった。
「お前、来たのか。しかも何だそのアバターは。」
ドッペルゲンガーはあざ笑うかのように声の方へ話しかける。
「これが一番今の悠斗に届くと思ったから、かな?」
「そうか。今の俺の支えは、そのアバターと言うわけか。」
ふっ、と笑い頷くドッペルゲンガー。その顔には、少しだが笑みがこぼれていた。
「それよりも、何であなたがここにいるの?」
「いくらお前に倒されたとはいえ、元は悠斗自身の精神体だ。元の位置に戻っただけだ。」
「あぁ、そういえばそうだったね。」
悠斗をそっちのけで話す2人。よくわからないが、楽しそうに話していた。
それにつられたのか、もしくはドッペルゲンガーが笑ったからかはわからないが、悠斗の顔から笑みがこぼれた。
「はっ、お前ら仲がいいな」
顔は俯いたままだったが、それでも今の悠斗は声だけで笑顔なのが分かった。
「ふむ、ならば俺はここで座っているとしよう。まぁ、こういうのは少しおかしいが、悠斗が俺の心を本当に理解できるまで待つとする。」
そう言うと、ドッペルゲンガーはその場に座り込み、腕を組んで寝始めた。
「俺の心、か」
すこし呆れたように言った悠斗。
「そうだね、悠斗は悠斗らしくいつも通りでいいと思う。」
さっきまでドッペルゲンガーとしゃべっていた人物が悠斗に話しかけてくる。
「ははっ、そういうことか」
話しかけれた声に反応して声のした方に振り向くと、そこには千代が居た。
「今の俺に一番届く人物か。たしかに、その表現はあってるかもしれないな」
すこし恥ずかしそうにする悠斗。
「でも、あってるよね?」
笑顔で話しかけてくる。千代らしくはないが、千代ではある。
「なんか、むず痒いな。千代はそんな顔、しないからさ」
照れ隠しのためか千代の顔をまっすぐは見れない悠斗。
「そうなんだ。でも、今の悠斗にはこれが一番じゃないかな?」
「むぅ…」
何故か恥ずかしさがこみ上げてくる悠斗。それは、千代への思いゆえなのだろうか。
「なぁ、口を挟んですまないんだが」
ドッペルゲンガーが突然しゃべりだす。
「すまんがその気持抑えてくれ。俺はお前なんだからお前が恥ずかしくなると俺まで恥ずかしくなる。」
「ご、ごめんな…だけどこの気持ちは…」
「…もうなにも言うまい」
ドッペルゲンガーはそのまま黙ってしまったが、耳まで真っ赤になっていた。
「それで、千代。」
改めて、しっかりと千代に向き直す悠斗。目はそらさずにまっすぐ千代を見る。
「なに?」
ずっとニコニコと笑顔をこちらに向けてくる千代。心が安らぐような、そんな笑顔だった。
「俺は、千代や桜月、蒼汰や智恵、それに他のチームメンバーを護る資格が、あると思うか?」
隠さずただ純粋に、思ったことを目の前の千代へぶつける。
ずっと悩んでいた問いの答えが欲しかったから。
「さっきもいったじゃない。あるって。」
「ある、か。そうだなお前が言うなら間違いないか」
「むっ、なんか引っかかる言い方ね。」
「いや、特に深い意味は無いんだ。でも、どうして俺なら守れると思ったんだ?」
「それは、いままでのことを思い出せばいいと思うよ。」
「いままで…」
自分がして来たこと。それは、本当に守ったことになっているのか?
「守ってるよ。悠斗は、ずっと私達を守ってくれた。」
エリスを助け、蒼汰を助け、千代を救い、智恵を救った。それは、本当に守ったことなんだろうか。
「悠斗が守ってくれなかったら、今頃私は居なかった。それだけは揺るぎない事実だと私は思うよ?」
そう、なんだろうか。
「そうだよ!」
「なんか、千代にそんな風に肯定されると間違いじゃない気がするな、ははっ」
「それは、嬉しい限りだね。」
「まぁそうか。守れてるならいいのか?自分ではわからないものなんだろうな。」
「守ってもらったかどうかは、悠斗が決めるんじゃなくて守ってもらった人が決めることだよ。」
「それもそうだな。言ってみれば、至極簡単な事だったのか…」
「たった一言のこの言葉でも、悩むときはある。それを悩めるのが悠斗のいいところだと、私は思うよ。」
「そうか…」
今までこんな単純な答えに気が付かなかったのはなぜだろうか。
この世界に飛ばされてから色々学びすぎて考えることが多すぎたからだろうか。
でも、今の自分なら間違いなく胸を張ってこう言える。
今まで守ってきたと思った分、これからも独りよがりじゃなく、皆に助けてもらいながらも守っていこう。
それが、自分の役目なのだから。
「やっと分かったか。それじゃあ、俺はここまでだな。」
そういったドッペルゲンガーの手のひらは消えかかっていた。
「今の言葉、絶対に忘れるなよ。胸に刻んどけ!」
強く、力強く悠斗に向かって言う。
自分自身から、自分自身への忠告。これから先経験することは絶対にないであろうことだ。
そして、ドッペルゲンガーは光となって消えた。
「悠斗」
千代は、悠斗に近づいてきて言い放つ。
「私はいつでも、あなたのそばにいるから」
悠斗を抱きしめ、そして一言だけ。
「私も、あなたを護り抜くから。」
「っっ!」
「……ーい」
誰かが呼ぶ声が聞こえる。
「……い!」
誰だ?ドッペルゲンガーはもう居ないはずだが…
「おーーーーい!」
「うわぁぁっっ!」
耳元で大きな声で叫ばれ、とっさに悠斗は跳び上がる。
「おっ、やっと起きたか。お前さん苦労するなぁ」
「はっ、へっ…?」
「あぁ、安心しろドッペルゲンガーなら倒しといたぞ。」
「いや、あの…っ!」
脇腹がズキリと痛む。さっき蹴られた反動からだろうか。
「とりあえず俺の仕事はこれで終わりだ。んじゃ、俺帰るわ。」
悠斗が起き上がったのを確認してよいしょと立ち上がる相田。
「あっ、あの!」
立ち去ろうとする相田に悠斗は声をかける。
「んー?どうした?あっ、これ欲しいのか?」
相田は背中に背負っている銃とホルダーに入っていた銃を悠斗に手渡す。
「まぁ餞別だ。やるよ。あんまいいものではないけどな!」
「いや、そうじゃなくてですね。」
悠斗は受け取った銃をインベントリに入れながらも聞きたいことを聞く。
「あなたが、俺を?」
「お前さんが起き上がる手伝いをしただけだ。俺は何もしちゃいないぜ。」
「だけど…そ、そうだ!あなたの名前は?!」
「名前、か。いずれ分かるさ!お前さんが大きくなればな!」
悠斗の頭をポンポンと叩くようになで、立ち去る相田。
「お前さん、この先もあの言葉忘れんなよ。」
暗闇に消えようとした時に右手を後ろ手に振りながら悠斗にそう言った。
そして相田は暗闇へと姿を消した。
「な、なんだったんだ…いずれ分かる?」
その言葉がまた、悠斗の心に引っかかることになった。
暗闇に紛れ、悠斗から見えなくなった位置まで歩いた悠斗。
「…」
その顔は真っ赤になっていた。
「恥ずかしい…恥ずかしすぎてもう元の『時間』に戻れねぇよ…」
さっきまでの行動を鮮明に思い出してしまう悠斗。
「まぁ、この時もし千代が居たら同じことはしたんだろうけどさ…」
それは、昔の自分の心のなかに入った時。
昔の自分を一番元気付けられるのは誰の姿だろうと思った時、千代が一番に出てきた。
なんとかして奮い立ってもらう為に、千代の姿を借り千代として色々悠斗に言ったり、抱きしめたりもした。今思い出すと、すごく恥ずかしい。
「これ千代も見てるんだろ…?あぁぁぁ…」
頭を抱えてその場にうずくまる。
すると、スマホからティロンと音が鳴る。
それは、千代からのメールだった。
『いつまで昔の自分と話しているつもりだ!早く帰って来い!』
「完全に見られてるよ…帰ったら説教だなこりゃ…うぅ」
恥ずかしさと呆れの感情が混じりながらも、悠斗は右手のブレスレットに触り、
転送された。
次回更新は8月3日です。




