42話目 「自分自身(前編)」
どーも、作者です。
今回は前編・後編で出来てます。
思っていたよりも長くなってしまったというのと、
簡潔にまとめきれない作者のまとめ力不足です。
では、どーぞ。
「まぁ、ソロで攻略となれば俺が駆り出されますよねそりゃ」
ため息と愚痴を同時に口からこぼす悠斗。
はぁぁ、という長い溜息が静かなフィールドの中で反響する。
「薄暗いし、なんか足元には水が張ってあるし」
悠斗が足を進めるたびにパチャパチャと音が鳴る。
薄く、本当に薄くだが床に水が張っており、歩くたびに音が鳴っていた。
そしてフィールド全体が薄暗いせいで、前もよく見えない。
「しかも大理石の床に明かりはろうそくとは、これまたなんつーか」
お洒落、とは言いがたいがなかなかに味のあるフィールドだった。
洋風の館の地下室を探索しているような感覚だった。
「はっ、ゲームのやり過ぎだな…ゲームの中にいる俺が言える立場じゃないが」
誰もいない広大なフィールドで一人呟く。
「(すごく寂しい、と言うか反応してくれる相手が居ないと暇だな…)」
パチャパチャと音を立てながらもフィールドを進む悠斗。
かなりの距離を歩いてきた気がしたが、今だ相手の姿は見えない。
それは悠斗が気がついていないだけかと思ったが、音すら立たないのでそれはないだろう。
「腹減ったなぁ…」
ゲームの世界のはずなのに無性にお腹が空いてきた。
システム的には空腹、というものはないので感覚的なものであることは間違いないが。
「昨日はほぼ飲まず食わずだったけど生きてられたもんな…」
昨日飲んだものを思い返しながらそう思った悠斗。
そんな事を考えていた悠斗は、前を見ておらず目の前の物にぶつかる。
「いってぇ!」
ガツン、という音を立ててぶつかった相手はかなり硬いものだった。
「っ、ざけんな前見て…ん?」
悠斗がぶつかったもの、それは鏡だった。
かなり大きく、人の全身を映し出せるほど大きなものだった。
悠斗はその鏡に写る自分を見つめていた。
「鏡?なんでこんなフィールドの、しかも途中に…」
鏡にうつる相手もこちらをまじまじと見つめていた。
悠斗の動きと同じように、まじまじと。
「ま、関係ないか」
鏡に不信感を抱いていたが、思い過ごしだろうと悠斗は鏡を避けて進むことにした。
だが、悠斗の不信感は当たってしまうことになった。
「だぁ…ひまだぁ」
両の手のひらを組んで上に上げ、伸びをする悠斗。
んん~!と声が漏れる。
「はぁ。それにしても…」
悠斗はさっきから目の前に何度も現れるそれと向き合っていた。
「なんでさっきから鏡が俺の前に何度も何度も…」
それは、さっきうったが無視して通った鏡だった。
「自分自身を見て喜ぶような性格じゃないんだけどな俺は…」
それでも鏡の中の自分を見る悠斗。
「あっ、服がほつれてるな…画面の前でプレイしてた時じゃ気が付かないなこれは」
服の端っこのほうから糸が解れていることに気がつく悠斗。
だが、悠斗はそのほつれを見てから自分の服を見る悠斗。
「え…?」
悠斗の服は、どこもほつれておらず綺麗なままだった。
だが、鏡の中の悠斗の服はほつれておりどこか汚れているイメージだった。
「ま、まさか今回の相手って」
鏡の中の悠斗の顔が絶望した顔から、ニヤリと笑った。
「まずっ!」
バッと横に避ける悠斗。さっきまで悠斗の顔があった位置には鏡の中の悠斗の剣があった。
「マジかよ、ドッペルゲンガーか!」
鏡の中からもう一人の悠斗が現れる。それは、完全に悠斗の姿を模していた。
剣や服、ポーチなどを完全にコピーしており、見た目は完全に悠斗と同じだった。
右手には『天羽々斬』、左手には『天叢雲剣』。どちらも悠斗が昔創った剣だ。
悠斗の愛用している剣ではないが、使いやすく戦いやすい剣だ。
日本の伝説の剣になぞらえ、作った。
「武器までコピーするのか…ずいぶんと強化されてるな」
ドッペルゲンガー。
いわゆる、その人物の分身体、あるいは精神体。
ゲームの世界では自分と同じ能力を模した敵として扱われることが多い。
エターナル・オンラインのドッペルゲンガーも例に漏れず、対象者と同じ能力を持った分身体である。
ただ、以前は武器まではコピーできず持っているアイテムと能力だけコピーすることしか出来なかった。
「やっかいだな…あの武器強いからな」
ドッペルゲンガーが両手に持っている武器を見て少し警戒する悠斗。
今までは自分の能力で何とか敵を倒してきたが、自分の能力を持ちなおかつ自分よりも動きが多彩なドッペルゲンガーは天敵であるとも言える。
画面の前ならまだ何とか出来るだろうが、今の悠斗はアバターの中に居る上、すべて感覚で戦っている。
多少なりの恐怖もあり、正面しか見えないというデメリットも有る。
悠斗は固有能力を展開し、右手に『グラディウス』、左手に『カラドボルグ』を創る。
そしてグラディウスとカラドボルグを逆手に持ち、構える。
「(今の俺が狙えるとすれば、相打ち覚悟のカウンターくらいだな)」
息を吐き出し、気配を消す悠斗。極限まで感覚を研ぎ澄まし、集中する。
相手が攻撃してくるタイミングを逃さないよう、しっかりと回りの感覚を読み取る。
部屋の中に静寂が訪れる。しーんとして部屋の中、2人は向い合って微動だにしない。
「(…?どうした、動かないのか?)」
集中しながらもドッペルゲンガーから目を離さない悠斗。
ほんの少しでも動けば悠斗は即カウンターの構えに入るつもりだった。
だが、ドッペンゲンガーは全く動こうとしない。それどころか、悠斗をじっと見つめている。
「どうした、動けよ」
反応しないことは分かっているが、挑発のつもりで悠斗はドッペルゲンガーに話しかける。
「(これで動けば、ラッキーだな)」
集中を切らさない悠斗。じっとドッペルゲンガーを見つめる。
だが、悠斗はむしろドッペルゲンガーの言動に驚かされることになってしまう。
「お前、やっぱり弱いな」
「?!」
とっさにカウンターの構えから後ろに飛ぶ悠斗。
明確な殺意は感じなかった。それどころか、攻撃しようともしなかった。
それよりも、ドッペルゲンガーが喋ったということが悠斗にとっては驚きだった。
「お前、喋れるのか」
恐る恐るドッペルゲンガーに話しかける悠斗。
「ドッペルゲンガーが喋らないという事がお前にとっての常識か」
「当たり前だろ。ドッペルゲンガーは喋らないってのが常識だ」
「くだらん。常識に縛られているものほど弱い」
「お前、前の文と後ろの分つながってねぇぞ」
「お前にはわからないのか?俺なのに?」
「あぁ、分かんないね。ドッペルゲンガーの話なんて聞きたくもない。」
両手の剣を握り直す悠斗。しっかりと、握り直す。
今のところドッペルゲンガーに殺意はない。
それどころか、会話を楽しんでいるかのようだ。
だが、会話を楽しんでいても悠斗の答えには心底呆れているようでもあった。
「ほう、わからないか。なら、その身に刻んでみるか?」
その瞬間、悠斗の背筋が凍りつくような気迫が飛んできた。
とっさに構える悠斗。その一瞬だけ、明確な殺意を悠斗に向けたドッペルゲンガー。
自分自身のはずなのに、気迫がまるで違う。気圧されるような気迫だ。
「お、お前は何者だ…?」
「俺か?俺は、お前だ。ドッペルゲンガーとはそういうものだろう。」
たしかに、ドッペルゲンガーとはそういう存在だ。だが悠斗には目の前に居る人物は自分だとは思えなかった。
「どうした?俺が怖いのか?それとも、測りかねているのか?本当に自分自身であるか。」
「お、お前が俺自身だろうがどうでもいい。お前を倒して、先に進む。」
「ほう、俺を倒す。だがお前に勝てるのか?その震えた手で握っている剣で。」
そう言われ、悠斗はとっさに剣を握っている手を見た。
自分では気が付かなかったが、剣を握っている手が震えていた。
それは目の前の人物に怯えている証拠だった。
手の震えに気がついてしまった悠斗は、ガタガタと震えだした。
恐怖が全身を包む。それはさっきまで感じていなかった感覚だ。
「お前は自分では気がついていないが、怯えている。自分自身に。」
「俺が怯えてる…だと?」
「そうだ。お前は自分に、自分の力に怯えているんだ」
「俺の、力に?」
「お前はこの先もその力を持って勝ち続けるだろう。だが、その力を使って残ったものは何だ?」
「そ、それは仲間に…きまってるだろう」
「それは、ない。お前に残るのは『孤独』だ。」
突きつけられるたった2文字の言葉。だが、その言葉が悠斗の心に刃を突き立てる。
「そうだろう?お前は分かっているんだ。考えたくなくても、心のなかではそう思ってしまっている。いずれ、自分の力に誰も追いつけなくなり、ついてくる仲間がいなくなることを。」
「ち、違う!俺は誰も置いていかないし、見捨てもしない!」
「本当にそうか?お前はもうすでに置いていったやつが居るんだぞ?」
それは、智恵のことだった。悠斗が知らないところで、置いていってしまっていた。
そのせいで智恵はハッキングという行為を犯し、心に傷も残ってしまった。
知らなかったとはいえ、悠斗の力で智恵を追い込んでしまったのは事実だ。
「あ、あれの事は俺は知らなかった!」
「知らぬ、存ぜぬですべて丸く収まると思うな!それはただの逃げの口実だ!自分は悪くない、俺は知らない、私のせいじゃない。そんな言葉を並べて逃げたところで事実は変わらないんだぞ!」
「う、うるせぇぇぇ!」
焦りで飛び出してドッペルゲンガーに斬りかかる悠斗。
だが、ドッペルゲンガーは見越していたかのように剣を剣で受け止め、弾く。
剣を振り下ろし、それを弾かれて隙だらけになった悠斗。
無慈悲にも、無防備の悠斗の腹に目掛けてドッペルゲンガーの回し蹴りが入る。
「っぐぁっ!」
蹴られた勢いで吹き飛び、地面を何度も跳ねながら転がる悠斗。
バシャッ、バシャッ、と水の弾ける音とともに跳ねる。
そしてその勢いのまま見えない壁にぶつかり、背中を強打する。
「ぐはっ」
地面を跳ね、壁にぶつかりそのまま地面にうつ伏せに倒れる悠斗。
意識が一瞬飛びそうになるが、なんとか持ちこたえる。
「(強い…今まで戦ってきた、誰よりも…)」
さっきの回し蹴りだけで相当ダメージをくらったのか、腕が上がらない。
足の感覚も薄くなっており、立ち上がるのがやっとなくらいだ。
それでも何とか立ち上がる悠斗。足はガクガクと揺れており、少しふらついていた。
正直、立っているだけでもかなりつらい状況だ。
「どうした、それで終わりか?」
見えないが、確実にさっき居た場所から歩いてこちらに向かってきていることは分かる。
パチャパチャと、さっき悠斗が歩いてきたようにこちらに向かって歩いてきている。
「(まずい…このままだと…)」
落ちている剣を拾おうとするが、ふらついているせいか、握ると同時に倒れてしまう。
「(やばい…やばい…)」
朦朧とする意識の中、パチャパチャと水の音だけが聞こえる。
「お前は俺自身なんだろう?だったら、俺に勝ってみせろ。自分を超えてみせろ。」
悠斗が顔をあげるとそこには悠斗が履いていた靴が見えた。
いつもの装備の、靴だ。
それは、ドッペルゲンガーが自分の前に立っていることを教えてくれた。
力を振り絞り、さっき右手に握ったグラディウスをドッペルゲンガーの足目掛けて振る。
だが、それも虚しくグラディウスはドッペルゲンガーに空中で踏み抜かれる。
地面に叩きつけられたグラディウスと悠斗の右腕。
ドッペルゲンガーはグラディウスの剣身の中間をもう一度勢い良く踏み抜き、折る。
パキィンという音と共に剣が割れ、グラディウスが真っ二つに折れる。
「脆い。お前の固有能力はこの程度か?」
その言葉も、悠斗の耳には微かにしか届いていなかった。
意識が飛びかけていた。もう、持ちそうにない。
最後の力を振り絞った一撃も、完膚なきまでに踏み潰された。
もう、対抗する手段がない。
「(ごめん、俺はここでリタイアみたいだ…)」
ダンジョン内での行動不能、それはダンジョン外へ出ることを意味する。
一度ダンジョン外へ出てしまうと、パーティに戻るには一度パーティに出てきてもらうしかなくなる。
だが、流石に戻ってもらうという選択肢は選べないだろう。
つまり、このダンジョン攻略から悠斗が離脱することになる。
「(後は、頼んだぞ…)」
諦めて、気を失いそうになる悠斗。
「ふん、この程度だったか。弱いな。弱すぎる。」
ドッペルゲンガーは右手に握った天羽々斬を、頭上に構える。
「お前の力などこの程度だった。そのことを胸に刻んで、消えるがいい。」
そして、ドッペンゲンガーは倒れている悠斗の背中目掛けて剣を突き立てようとする。
だが、その剣が悠斗に刺さる前にドッペルゲンガーの剣はその場から消える。
バァンという破裂音にも似た音がフィールドに鳴り響く。
その音と共に、天羽々斬の刀身は粉々に吹き飛ぶ。
「誰だ!ここはソロ専用のはずだ!」
「誰、か。誰って言われたら、俺としか言いようがないかな。」
見えない位置から天羽々斬を正確に狙い、何かをしてきた人物。
ソロ専用のフィールドに入ってきた禁忌の存在。
「姿を見せるがいい!」
粉々に砕け散った天羽々斬を再度創り直し、構えるドッペルゲンガー。
「えぇ…面倒くさいんだけど、ここから戦うってことじゃ駄目かなぁ?」
「ふざけたことを!俺が見えない位置から攻撃できる魔法などたかが知れている!」
「魔法?あぁ、魔法っちゃ魔法だな。エネルギーは魔法だしな。」
「何をふざけたことを!」
「ふざけてなんていないぜ?至って俺は真面目だ。」
刹那、ドッペルゲンガーは横に飛ぶ。
チュゥンという音がドッペルゲンガーの耳に響く。
横に飛んだドッペルゲンガーの頬を、何かがかすめる。
だが、かすめたところが異常に熱くなり、切れる。
「っ!」
頬から血が流れる。
「あれっ、ドッペルゲンガーさんも血を流すのか。意外だなぁ…」
「(ど、とこから攻撃した?音らしき音はしなかったが…)」
「おっ、どこから攻撃したのかわからないって顔してるね。まぁそりゃそうか。『この時間』には存在しないものだからな。」
「何をわけがわからないことを!」
「まぁまぁ、落ち着けって。とりあえず今姿を見せてあげるからさ。」
そう言って、暗闇から姿を現す人物。
それは、悠斗やドッペルゲンガーにとって見覚えがある、いやむしろ一番知っていると言っても過言ではない人物だった。
次回更新は7月29日です。




