35話目 「智恵の涙と咲夜さん」
どーも、作者です。
さぁ、ハッカー編クライマックスです。
ハッカー編が終わったら少し短編を挟んで補足を入れていこうかなと思っています。
結構駆け足になってしまった感があるので、少しだけ。
まぁ作者のことなんで止まらなくて少しにならない可能性もありますが。
では、どーぞ。
「な、なにを言ってるの?私は智恵なんて人じゃないよ?」
その声には動揺が混じっていた。
だが、悠斗にはまだ私がそうだと確信できる要素はないはずだ。
「いや、お前は智恵だ。正確には、今は智恵だな。」
「今?」
「智恵の家族は確か一度離婚したって聞いたことがあってな。多分それが原因で名前を変えざるをえなくなったんだろう。」
「そんな理由で名前を変える人なんているの?」
「いるじゃねぇか、俺の目の前に。」
「っ、でも私は智恵なんかじゃない!」
「お前にとってはそうだろうな。だが、俺達にとっては今のお前は智恵だ。」
何のためのこの期間だったのだろう。
私は、目の前のこの男を倒すために努力してきた。
ずっと、ずっと智恵として彼らのチームに入り、チームを支えるふりをしてきた。
それは、さっき起こったことを起こすために。
なのに、今までの事を帳消しにして、チームに戻ってこい?
戻れるわけないじゃない。だって、チームを裏切ったんだから。
今この瞬間まで私はずっと心のなかで「優紀」として生きてきた。
智恵という名前を使ったのも彼を倒すためだけ。
絆という妄想を踏み台にして勝つため。
憎い、絶対に許せない相手に勝つため。
なのに、どうして涙が出るのだろうか。
悔しさからではない。安心。また、チームに戻れると思ってしまった安堵。
捨てたはずの「智恵」という名前でまた呼んでくれる人が居たこと。
二度とこの世界に戻れなくなったはずなのにもかかわらず、助けに来たマスター。
あぁ、私はなんてバカなのだろう。こんなにも、温かいのに。
それを裏切ろうとしていた、私は。
「なぁ、何で泣いてるんだ?というかまた俺女の子泣かすのかよ…」
悠斗が心配そうな顔で聞いてくる。
それは本心からの言葉なのか、それとも上辺だけの言葉なのか。
考える必要もなかった。マスターは絶対に上辺だけの言葉は言わない。
それだけは、長い付き合いの中で理解していた。
私は、もう彼に嘘をつけないだろう。
「おーい、大丈夫かー?また千代に怒られるなぁ…『またお前はそうやって!』って」
これ以上、私は何を求めればいいのだろう。いや、求めるのが間違いかもしれない。
求めなくても、与えてくれた。彼は、そういう男だ。
自分を顧みず、人の幸せのために動く。
たとえそれが他の人から愚行・意味不明・自分勝手と言われても。
彼は自分の思ったことを曲げずに進む。それが人の幸せだと信じてるから。
だからこそ、こんな突拍子もないことを思いつくのだろう。
一つ間違えれば自分も消えてしまうこともあるかもしれないのに。
「でもっ…でもっ…私はまだ…!」
「あぁ、じれったいな。俺が許すっていってんだからさ。
確かにまだお前は俺を恨んでるかもしれない。でも、俺はそれを受け入れてやるよ。
それが、マスターってもんだろ?お前の辛さ、悔しさを全部オレにぶつけろっ!」
「ひっぐ…ううっ…」
止まらない。涙が。悔しさが。この男には一生かなわない。
そう、思った。心の広さでも、強さでも。
「とりあえず、帰ろうぜ?俺達のギルドにさ!」
ニッと笑った悠斗は輝いているように見えた。
そして彼は手を差し伸べる。体だけではなく、心にまで。
私のしたことは許されないことだろう。それは、間違いない。
だけど、これから一生をかけて償うことはできる。
たとえ犯罪者だと言われても、それが自分の選んだ道なのだから。
「っ…うん…!」
差し伸べられた手を掴み、智恵と悠斗は狭間から出る。
そこに広がっていたのは、ほんの少し前と変わらない光景。
崩壊したヒーリングズ広場だった。
「さってと、まずは咲夜に連絡いれねーとな…」
悠斗はポケットからスマホを取り出し、メッセージを開く。
そこから咲夜を選択し、電話をかける要領で通信する。
プルルル…という音が少し鳴ったあと、ガチャッという音と共に咲夜が出る。
そこは現実世界基準なんだな、と電話を掛けた悠斗が内心驚く。
「もっしもーし!」
「うわ、テンション高いほうの咲夜か…真面目な話できなさそうだな」
「うわ、ってなんだよー!私だって真面目な話くらい出来るよー!」
「そのテンションはもうチーム内でウンザリしてるんでやめてくれ」
「んもー!テンション低いなー!」
「咲夜がテンション高過ぎるだけだろ」
なんだこれは。悠斗がゲームマスターの咲夜と普通にしゃべっている。
明らかに異様な光景だ。
「それでだ。話があるからヒーリングズ広場まで来れるか?」
「ヒーリングズ広場とはこれまた面白いところに居るねー!」
「まぁな。蒼汰が慌てて帰っちまったから俺一人で説得することになったからな。時間もないし、仕方なくヒーリングズ広場でやることになった。」
「おっ、その口ぶりだと彼女戻ってきたみたいだね!」
「まぁな。助かった、特例とはいえチームメンバーを失うのはデカイ。」
「君には恩があるからね!これくらいはお安い御用だよ!」
「そうか。んじゃ、ヒーリングズ広場で待ってるわ。」
「といってももう居るんだけどねっ♪」
その言葉に反応して悠斗が智恵の方を向く。そして呆れたような顔をした。
悠斗の目線に釣られて智恵も後ろを振り向く。
すると、そこには桜月くらいの身長のキャラクターが立っていた。
白いワンピースに花の飾りがついたサンダル。白銀の髪に黄色の花で出来た髪飾りが付いていた。
「あなたが…咲夜さん?」
恐る恐る聞く智恵。それは、ある意味智恵にとって恐怖の対象にもなりえるからだ。
「そうだよー!私が、ゲームマスター兼キャラクター担当の咲夜だよっ」
「(まさかこんなにも幼い人だとは思わなかった…)」
見た目は完全に10歳位の子だろうか。言動も見た目通りの幼さだ。
「まぁ正確にはこいつは咲夜では無いけどな」
「え?どういうこと?」
「咲夜は『2人揃って』咲夜ってことさ。」
「???」
悠斗のその言葉の意味がいまいち理解できていない智恵。
「あーっ、悠斗君それ以上は駄目だよ!」
「はいはい、俺と咲夜だけの秘密でしたね」
「むぅ、なんか引っかかる言い方だね…」
なんとなく和やかな雰囲気だった。
「それにしても、悠斗君。この惨状はなんだい?」
咲夜は広場を見渡して、悠斗に言う。
「あー…これな、見逃してもらえないか、なんてね?」
「…」
「駄目ですよねーははっスイマセンでしたぁぁぁぁぁ!」
横目で睨みつけられた悠斗は即座にその場で土下座した。
「とはいっても、君の力ならこれを治すのは余裕だろう?」
「まぁ固有能力を使えば治すこと自体は簡単だけどな…あれ大きい物になると時間かかるんだよ」
「時間かかっても治す、はい頑張って!」
「ゲームマスターなんだからどうにかしてくださいよ…ったく」
悠斗は両の手のひらを合わせる。そして、その場で力を込める。
「ハァッ!」
掛け声とともに悠斗のまわりを青いオーラが包み込む。
「さすがだね、彼の固有能力はエターナル・オンラインの中でも最強クラスだよ。」
いつの間にか智恵のそばに近寄ってきていた咲夜。
「そんなに、強いんですか?」
「そりゃもう。流石、サーバーマスターキャラクターの座を持ってるだけはあるって感じだね。」
「へぇ…」
智恵にはそんなに強い力を悠斗が持っていたことを知らなかった。
彼は自分の力をただ『物を作る事が出来るだけ』といっていた。
それは、咲夜というゲームマスターが感心するほど強い力だったのか。
「うん、そうだね。それほどの力だよ。」
「えっ?!」
心を読まれてしまった。突然だったのでものすごく驚いた智恵。
「あぁ、驚かせちゃってごめんねぇ。これが私の『固有能力』だよ。」
「もしかして、心を読むということがあなたの?」
「そういうことになるね。正確には『人の心を知る』だけどね。」
「知る?」
「そう。思ってることだけではなく感じてることや無意識の心も知れるんだ。」
「十分咲夜さんも強い能力を持っているじゃないですか…」
「いやいやいや、彼に比べたら強くもなんともないよ。」
あくまで、プレイヤーよりも上手に出ないマスター。
それは謙虚でもあり、親しみやすいイメージだった。
「お前ら喋ってないで早くエアスターの街に行け!どうせ俺は時間かかるし一人でも平気だ!」
集中して力をためていた悠斗は呑気に喋っている咲夜と智恵に向かって言い放った。
「あぁ、それならもう終わったよ。」
「はぁっ?!」
「さっき君のメンバーから連絡があってね。流石、私が認めたチームだねっ!」
「千代と蒼汰は仕事早いし真面目だからなぁ…」
「さ、君も早く終わらせてさっさとギルドに戻りなよ!」
「さっさと終わったら俺こんな苦労してないわ!お前も手伝え!」
「いやー、私疲れちゃったし、ゆっくりしたいんだよっ、ね?」
少し上目使いで悠斗を見る咲夜。
「ね?じゃねぇ!そんな可愛い顔してもダメだ!俺には通用しないぞ!」
「ちぇっ、面白く無いのー。」
ふくれっ面で地面を蹴るようなモーションをする咲夜。
「あっ、あの!」
そんな中、智恵が咲夜に問いかける。
「んん?どうしたんだい、若き軍師さん。」
「ど、どうしてそのことを…」
「君のチームは有名なんだよ?君だって称号を持ってるじゃないか。」
「ですが、あれはもう捨てたはずのものだったので…」
「気にすることはないよ。もう一度名乗ってもいいのさ。」
不安な気持ちが伝わってしまったのか、それを慰めるために笑顔になる咲夜。
「だけど…」
「ん~もう!じれったい!君は彼に許されたんだろう?私は後のことは彼に任せたから、彼が許したなら私も許すしか無いじゃにゃいか。」
「それで、いいのでしょうか。」
「君のしたことは許されることじゃない。でもそれは、君がやった事だったらの場合さ。」
「えっ?」
咲夜はメニューを開き、お知らせの欄を開く。
そこには、ハッカーについてのお知らせが出ていた。
『お知らせ
皆様こんにちは、ゲームマスターの咲夜です。
このたびのいろいろな異変の件につきましてお話があります。
実は、あれはすべて私達開発チームのテストでした。
それが、不具合を起こしてしまいそれが連鎖となり、
ゲームをプレイされていた方達に被害を出してしまいました。
このような事が二度と起こらぬよう、
私達としましても努力していく所存です。
今回の被害につきましては後々保証をさせていただきます。
本当に申し訳ありませんでした。
これからも、エターナル・オンラインの世界をよろしくお願いします。
To 咲夜』
「ねっ?」
「…」
これで、いいのだろうか。本当に自分はこの待遇でいいのか。
こんなにもゲームを壊し、システムを崩壊させたのに。
感謝の気持でいっぱいだった。ありがとう、本当にありがとう。
そう心のなかで何度も言い続けた。
その言葉は嗚咽で口からは出せなかったが、咲夜さんには伝わったと信じたい。
それにしても、私は泣き虫だなぁ…また、泣いてる
「…なぁ口を挟みづらい感じなんだがこれ終わらすぞ」
悠斗が泣いている智恵の頭を撫でている咲夜を見ながらそう呟いた。
次回更新は7月7日です。




