33話目 「少女は何を思う」
どーも、作者です。
ハッカーさん強いのか弱いのか。。
まぁさておき、そんなハッカーさんにスポットを当てた回です。
では、どーぞ。
天を貫くほどの大剣が振り下ろされ、崩壊したヒーリングズ広場。
辺りに立ち込めていた煙が晴れた時、そこに立っていたのは2人だけだった。
悠斗と蒼汰。そこに智恵の姿はなかった。
「あーあ…やっちまった」
完全に崩壊しているヒーリングズ広場を見て悠斗は愚痴る。
「お前はやりすぎた、とか言いながら俺が一番被害出してるわこれ」
悠斗と蒼汰が立っている場所以外はすべて地面が割れ、足場としての役目を果たしていない。
待ち合わせ場所として有名だった噴水も今は見る影もなくボロボロだった。
「流石にやり過ぎたね…これ治せるの?」
少し離れた位置に居た蒼汰がぴょんぴょんと瓦礫の上を器用に跳ねてくる。
「さぁな。まぁ後は上手く咲夜がやってくれんだろ…」
地面にめり込んでいる大剣を持ち上げ、放り投げる。
カランカランと音を立てた大剣は何度か転がった後消えてしまった。
「さて、ギルドに帰るか…」
ヒーリングズ広場を後にしてギルドへ戻ろうとする悠斗。
「ちょ、ちょっと待って」
突然蒼汰が悠斗を呼び止める。
「あれ、智恵じゃない?」
蒼汰が向こうの方を指差す。
「あぁ?んなわけ無いだろ、俺が確かに切ったはずだ」
指差された方を見る。だが、そこには智恵の姿どころか人の影すら見えない。
「やっぱり誰も居ねぇじゃねぇか、何嘘ついてんだ蒼…」
蒼汰に文句を言おうとして振り向いた途端、悠斗の腹に大剣が突き刺さる。
それは、他でもない蒼汰の大剣だった。
「ごめんね、悠斗。こうでもしないと君は簡単に死んでくれなそうだったからさ。」
「蒼汰…!いや、ハッカーてめぇ…!」
刺された腹からドクドクと血が流れる。血が大剣の腹に沿って地面にポタポタと垂れる。
蒼汰は悠斗の腹に刺さった剣を引き抜く。
引きぬかれた剣と同時に血が出る。
ぐぁっという声とともに悠斗は腹を抑えながら倒れる。
抑えている腹からは血が流れ続け、止まる様子がない。
「どうだい?わざわざ僕が痛みを感じるようにシステムいじったんだよ?」
ゲス顔、そう言えるほど悪人顔をしていた蒼汰。
「ハッカー…てめぇ…どこまでシステムいじりやがった…」
痛みに耐えながら必死に声を絞り出す悠斗。
このままではまずい。リスポーンの設定までいじられていたらなおさら。
「さぁねぇ?君が想像している最悪のシステムもいじったかもしれないねぇ?」
最悪のシステム。リスポーンのことか。
「まぁでも、君はここで死ぬんだよ?関係ないじゃん?」
「ははっ、関係…あるさ…」
「往生際が悪いねぇ、悠斗くんは。」
「だって…お前は今から…消えるんだからな!」
「面白い冗談だね、そんなこと君にできるわけが」
「そうでもないんだぜ?」
蒼汰、いやハッカーは唐突に後ろから首を掴まれる。
「なっ?!」
首を掴まれたまま空中に待ちあげられ身動きがとれない。
「はっ、放せっ!」
「放すわけねぇだろ。お前だけは消さないとゲームが崩壊しちまう。」
ハッカーの首を後ろから掴んだ人物、それは
「なぁ、蒼汰?というかお前大丈夫かその傷」
悠斗だった。
「まぁ…ちょっと痛いけどね、なんとかなりそうだよ」
ハッカーが刺した相手、それは悠斗のアバターと見た目が一緒の蒼汰だった。
蒼汰はすでに傷口に治癒を施していた。
「危険な賭けになっちまったな、すまねぇ蒼汰」
「大丈夫、このくらいどうってことないぜ!」
「おっ、ずいぶんと頼もしくなったな。いつもの学校でのお前みたいだな。」
「そ、そうか?」
「どっちのお前でも今じゃ頼もしいけどな。」
まるでハッカーが居ないような体で話をしている2人。
なんでだ?この2人には私が見えていないのか?
「見えてるぞ?まぁ後数秒で消えるが」
なっ?!
「はい、さよなら。残す言葉はもう聞いたからさっさと消えてくれ。問題が増えるんだよ。」
悠斗は掴む前から『エリミネート』を発動していた。
悠斗の腕の回路の模様がハッカーの体を包み込む。
「嫌…だ…まだ…消え…た…くな…い…!」
「お前はやり過ぎたんだよ。手を出していい範囲を超えちまったんだ。」
「嫌…!嫌…ぁ!」
「嫌だ嫌だで通る世界は無いんだわ。それじゃあな、ハッカー。」
その言葉と同時にハッカーの視界は真っ暗になる。
そして、ハッカーの意識はそこで途切れた。
「私、いつか誰よりも早くダンジョンクリアするんだ!」
それは、とある少女の夢。その少女はいつもそれを夢見てきた。
「お父さんを超えて、絶対にダンジョンの最速記録を塗り替える!」
「おっ、それは頼もしいな。頼んだぞ、優紀。」
幼いころ交わした父親との約束。
ダンジョン最速攻略という称号を持っていた父親。
それを絶対に越えてみせる。それが少女の目標でもあり夢だった。
だが、それの夢は突如現れた一人のプレイヤーにより儚くも打ち砕かれる。
『ダンジョン最速記録更新』『人でたどり着けるであろう最速のスピード』
父親のタイムを大幅に更新してのクリア。
それは人類が到達できないであろうタイムだった。
父親を抜き去って勝つという目標。最速を出すという夢。
その2個の夢は崩れ去ってしまった。
「どうして…」
ただ悔しかった。自分がまだまだ未熟なのもあった。
だが、その人物はあまりにも強すぎた。
歴代で名を残してきた人物の誰よりも、強かった。敵う通りもない。
「どうして、あんな人が…」
その日を境に少女は誰よりも特訓した。
スキルのコンビネーション、アイテムの使用タイミング。
防具や武器の調整、ダンジョン内の把握。
誰よりも努力した。それこそ、最速の記録を出したあの男に負けないくらい。
そして何度も挑んだ。何度も、何度も。
いつか、その男を超えるために。昔誓った約束を守るために。
そして5年の月日が経った。
少女はもう少女と呼べる相貌では無かった。立派な女性だった。
そして、女性の夢はついに叶うことはなくなってしまった。
ダンジョン内部の更新に伴うダンジョンクリアタイムリセット。
それは、父親の記録が消えてしまうことを意味していた。
ここまでの苦労はなんだったのだろう。
一瞬にして女性の苦労は水の泡になってしまった。
いままで積み重ねてきた努力。
スキルのコンビネーションなどはこの先も役に立つだろう。
だが、ダンジョン内部の構造はどうだ?何の意味も成さなくなった。
「ここまで来たのに…!私は、もう勝てないの…?」
目から涙がこぼれ落ちる。それは悔しさと怒りが混ざった涙だった。
「許さない…!絶対に、許さない!」
それは、ダンジョンの最速記録保持者に向けての怒りだった。
「相田悠斗、絶対に許さない!」
そこから、彼女の復讐が始まった。
次回更新は7月1日です。




