31話目 「ハッカーとの対面」
どーも、作者です。
今回地味に長いです。
終わるタイミングが掴めなかったってのがあります。
では、どーぞ。
風を切り、遥か上空から地面に着地する悠斗。
息は少し荒く、肩で呼吸をしていた。
悠斗が降り立った場所、それはヒーリングズ広場だった。
今日一日の間に何度も通ったところだ。
流石に夜だということもあるのか、人の気配がしなかった。
だが、それは一人を除いての話だった。
「お前か、咲夜が言ってたハッカーってのは」
悠斗が呼んだそれは広場のちょうど真ん中にある噴水の近くに立っていた。
全身をフード付きの黒いコートで覆っていて、フードを目深くかぶっていた。
端から見ればただの不審者だが、悠斗にとっては危険人物だった。
なぜなら、その人物は悠斗が降り立った途端に殺意をむき出しにしたからだ。
それまでは全く悠斗は気配を感じていなかった。
「俺は気配で全部わかるってわけじゃないが、お前みたいな殺意の塊は初めてだ」
一般人でも分かるほどの殺意だった。鋭利な刃物を突きつけられているような感覚だった。
蛇に睨まれた蛙、という表現が正しいだろうか。それほどの殺意だった。
だが、それだけで悠斗も引き下がる訳にはいかない。
手に握っている剣をしっかりと握り直し、体制を作る。
油断は禁物、気を抜けば一瞬。そう自分に言い聞かせる。
悠斗の手に若干の汗が滲んできた。えも言えぬ恐怖感からだろうか。
「ゆーくん」
それは、フードをかぶった人物から初めて聞こえた声。
少し高い、女性の声。それは、自分が想像していた人物の声と一致する。
間違いない、フードの下には必ず彼女が居る。
「よく、私がハッカーだと分かったね」
それは、優しい声だった。むき出しにしている殺意とは真逆の、優しさを持った声。
それは感心ゆえなのか、それともチームの仲間に見つけてもらったことによる嬉しさだろうか。
どちらにしろ、その声に悠斗は恐怖しか感じなかった。
「正直信じたくなかったよ。今でもまだ俺はお前じゃないと思いたい。」
「ふふっ、それがゆーくんの優しさだよね。」
「馬鹿言うな、優しさじゃない。これは俺からの警告だ。」
「警告?それにしてはずいぶんと優しい言葉だね。」
「これが優しい言葉だったらお前に届くはずなんだけどな」
「駄目だね、それじゃ私には届かないよ。」
何気ない会話。だが、その中にもお互いの思いと意思と気迫があった。
「それに、チームマスターがわざわざ顔を見せたのにお前は顔を見せないのか?」
「久しぶりだから少し恥ずかしいんだよ。」
「じゃあお前の首をそのフードごと斬ってもいいよな?」
その言葉を置き去りにして悠斗は飛び出していた。
地面を思いっきり蹴り、フードの人物との距離を詰める。
懐に入り込み、右手の剣を振り上げる。フードの人物は軽く後ろに身を引き躱す。
だが、躱されることを前提に剣を振り上げていた悠斗は左手の剣で顔に突きを繰り出す。
だが、すでにフードの人物が居たところには全身コートしか残っていなかった。
剣は人物のフードの部分に突き刺さり、コートからフードだけを切り離していく。
「ちっ、これでも躱されんのか」
フードが刺さったままの剣を見て、少し悔しそうに舌打ちする。
剣を横に振り、剣に刺さったフードを外す。
「だが、やっと姿を見せてくれたな。はじめましてハッカーさんよ。」
そこには、いつもと変わらない智恵の姿があった。
以前からずっと変わらない衣装。
鎧にはせずにできるだけ軽い服。白を基調とし、所々に水色の模様を付けている。
腰には剣を入れるための鞘があり、そこにはレイピアと呼ばれる細身の剣が収納されている。
レイピアは基本刺突用の剣とされているが、悠斗が少しアレンジを加え普通の剣としても使えるようになっている。
腰の後ろ側には本専用のポーチが付いており、魔導書をしまうことができる。
すべて、悠斗がデザインして作ったものである。
「酷いなぁ…チームメイトの私をいきなりハッカー扱いなんて…」
少ししょぼんとして顔をする智恵。
「お前はチームメイトじゃない、認めたこともないし合ったこともない。」
「そこまで…いくら私がハッカーだったからって忘れるなんて酷い…」
「俺はお前の事は知らない。だってお前は智恵じゃない。」
唐突に悠斗の口から出る言葉。それは悠斗個人としても、チームのリーダーとしてもの言葉だった。
「えっ…?いや、私は私だよ?智恵だよ?」
「もう一回言ってやろうか?お前のことを俺は知らない、そしてお前は智恵じゃない。」
「じょ、冗談はやめてよ!私が智恵じゃないわけ無いでしょ!」
「何を怒ってるんだ?俺はただ事実を言ってるだけだ。」
「ねぇ、バカなこと言うのはやめてよ。いくら私でも傷つくよ?」
「おう、傷つけ。そして一生後悔しろ。俺のチームメイトに手を出したことに。」
智恵が気がついた時には悠斗は目の前から消えていた。
それは高速で移動したなんて話のスピードではなかった。
一瞬目を話しただけなのに目の前から消えていたのだ。
あたりを見渡し悠斗を探す。だが、どこにも見当たらない。
「えっ…?どこ…?」
智恵に若干の焦りが出てきた。想像してなかった事態だ。
こちらの事は完全にバレている。このまま嘘を突き通せそうにもないだろう。
「ど、どこ…どこに居るの?!」
足音は全くしない。音がしないように動いているのか?
「お前弱いな、よくそれでゲームマスターに喧嘩売れたな。」
いきなり背中から重いものがのしかかってくる。
重さに耐え切れず地面に倒れ込む。その上に重いものが更にのしかかってくる。
息が口から大量に出る。苦しい。
「このままお前をゲームから消すことは可能だ。権限ももらってるしな。」
背筋が凍る。嫌だ。ここまでの計画がすべて水の泡になってしまう。
綿密に計画された計画が、たった少しのミスで消えてしまう。
使いたくなかったあれを使うしか無い。こんなところで、こんな奴に。
悠斗は詠唱を始める。悠斗の右手に回路のような模様が浮き上がる。
「『エリミネート』か…おぞましいスキルだな」
エリミネート。それは、ゲームマスター最後にして最大の切り札。
他のゲームで言うと永久追放と呼ばれる技。
基本的にハッキングや不正行為を行ったプレイヤーにはそれなりの処罰が与えられる。
だが、その処罰をくぐり抜けるプレイヤーも存在する。
それをゲーム内から確実に処罰するために開発されたスキル。
基本的にはゲームマスターから権限を与えられたプレイヤーのみ使用できる。
詠唱完了後、対象に触れるだけで発動する。
使用されたプレイヤーはゲームからの接続が切れ、キャラクターが削除される。
「もう少し骨のあるやつかと思ったのに期待はずれだったな。」
詠唱が完了し、右手を智恵の首元にかざす。
「じゃあな、ハッカーさん」
そのまま智恵の首を掴む。
はずだった。
「まだ終わってないっ!」
悠斗が掴もうとした首元から大量の電気が放電される。
「うわっ!」
とっさにその場を離れる悠斗。集中が途切れたためスキルがキャンセルされる。
「お前まだ粘るのか…やめとけ、お前のレベルじゃ俺には勝てないぞ」
「う、うるさい!私は、絶対に勝つんだ!君だけには絶対に!」
「俺だけには?俺が何をしたっていうんだよ」
「君だけは、絶対にゆるさない!私の、唯一の夢を…!」
智恵は腰の後ろのポケットから魔導書を取り出し、開く。
「穿てっ!『ライトニング』!」
智恵の周りに大量の魔法陣が展開され、そのすべてから雷で作られた槍が放たれる。
それは悠斗の体を貫いていく。1本、2本、3本。
一本一本が急所を貫き、悠斗の体力を削っていく。
大量の槍がすべて悠斗の体を貫いて地面に刺さる。
展開が終わった時には、すでに悠斗は立っていなかった。
次回更新は6月25日です。




