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転生したら、もう一つの日本でした ~社畜OLは本物のチョコで魚人街を変えていく~  作者: ケロン藤野


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第30話 田舎者の意地


ロータスクラブ会場。


名士たちは料理を楽しみながら談笑していた。


恭子はホテルスタッフの責任者へ近づく。


黒い燕尾服を着た初老の男性だった。


「失礼。」


「ブラックプリンスの鱶田です。」


「本日はよろしくお願いいたします。」


ホテル責任者は丁寧に頭を下げる。


「こちらこそ。」


「本日は差し入れ、ありがとうございます。」


恭子は小さく微笑んだ。


「お願いがあります。」


「コース料理が終わって。」


「デザートが出る前に。」


「ワゴンサービスで、このチーズとウイスキーを皆さんへ振る舞っていただけませんか?」


責任者は少し驚いた表情になる。


「デザートの前……ですか?」


「ええ。」


「食後酒とチーズです。」


「最後に、皆さんへ楽しんでいただきたい。」


責任者は少し考えたあと、穏やかにうなずいた。


「承知しました。」


「料理長とも相談し、最高の状態でお出しします。」


「ありがとうございます。」


恭子は振り返る。


「萌香。」


「琥珀。」


「準備しよう。」


「はい!」


「了解ニャ!」


会場裏のサービススペース。


萌香と琥珀は、アパートから大切に運んできた手提げ袋をテーブルへ置いた。


萌香は丁寧に袋を開ける。


中から、高級感あふれる化粧箱を一つずつ取り出していく。


響 二十一年。


竹鶴 ピュアモルト 二十一年。


白州 十八年。


余市 シングルモルト ノンピーテッド。


続いて保冷バッグを開ける。


中には一週間かけて食べ頃まで熟成させたチーズが収められていた。


ブリー・ド・モー AOC。


ロックフォール AOP。


萌香と琥珀は、ホテルスタッフへ一本一本、丁寧に手渡していく。


ホテルスタッフたちは、その光景を見て思わず息をのんだ。


ワゴンサービス担当の黒服が、最初の化粧箱を静かに開ける。


「…………。」


プロとして表情は崩さない。


しかし、その心の中では絶叫していた。


(なんだ……これは。)


そっとボトルを持ち上げる。


響 二十一年。


(うそだろ……。)


(こんなの普通じゃ買えない。)


次の箱。


竹鶴 ピュアモルト 二十一年。


(いやいやいや……。)


(市場に出回る酒じゃない。)


さらに。


白州 十八年。


(全部が主役級だ……。)


最後は余市。


(余市だけでも十分に目玉商品なのに……。)


(響や竹鶴に霞んで見えるなんて、おかしい。)


続いてチーズへ目を向ける。


ブリー・ド・モーのホール。


ロックフォールAOP。


(ヨーロッパの一流ホテルでも、こんな組み合わせは滅多に見ないぞ。)


思わず会場を見渡す。


帝国閣オーナーが自信を持って用意した山梨・甲州ワイン。


地元では最高級と呼ばれる一本だった。


しかし――。


(霞む……。)


(全部霞んでしまう。)


(今日の主役は、間違いなくこっちだ。)


黒服は思わず息を飲む。


(しかも……。)


(これを持ってきたのが。)


(魚人街のブラックプリンス?)


(“魚人街の田舎者”だって?)


心の中で叫ぶ。


(田舎者が、こんなもん持ってるわけないだろ!!)


(どこの田舎者だ!!)


それでもプロとして冷静さは崩さない。


一本一本のボトルを丁寧にワゴンへ並べる。


チーズも最高の状態になるよう、美しくカットして盛り付けていく。


その手つきには、一流ホテルの誇りがあった。


恭子は、その様子を見ながら口元だけで笑う。


「さあ。」


「田舎者の意地を見せてやろうじゃないか。」


その言葉に、萌香も静かに笑みを浮かべる。


「ここからですね。」


琥珀も猫耳をぴんと立て、小さくつぶやいた。


「今日は……。」


「絶対に面白くなるニャ。」

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