第3話 リュックの秘密
「……へ?」
甘城萌香は、金色に輝くリュックを見つめていた。
頭の中へ、機械のような声が響く。
――《初回起動を開始します。》
――《所持品を確認。》
――《現代日本製の商品を検出。》
――《ポイントへ変換します。》
「ポイント?」
次の瞬間、リュックが一瞬だけ強く光った。
「えっ!」
慌てて中を覗き込む。
「ない……。」
スーパーで買った物が、すべて消えていた。
カフェラテ。
ミルクティー。
スポーツドリンク。
レトルトカレー。
カップ麺。
そして楽しみにしていたチョコレートやポテトチップスまで。
何一つ残っていない。
「うそっ!」
「私のお菓子ー!」
泣きそうになった、その時だった。
目の前の空中に青白い半透明の画面が現れる。
⸻
【魔法取り寄せ】
所持ポイント 5,032Pt
【取り寄せ】
【商品検索】
【履歴】
⸻
「ゲーム?」
萌香は恐る恐る画面へ触れた。
指先がすり抜ける。
しかし、頭の中で「商品検索」と念じると、画面が切り替わった。
⸻
飲料
・天然水(500ml) 35Pt
・緑茶(500ml) 40Pt
・麦茶(600ml) 40Pt
・スポーツドリンク 50Pt
・カフェラテ 80Pt
・ミルクティー 75Pt
⸻
「買った物が登録されてる……。」
さらに画面を送る。
⸻
お菓子
・ブラックサンダー 45Pt
・キットカット(小袋) 60Pt
・チロルチョコ 45Pt
・ポテトチップス 95Pt
・グミ 85Pt
・クッキー 120Pt
・板チョコレート 180Pt
⸻
「板チョコが百八十ポイント……。」
どうやら商品の値段ではなく、価値に応じてポイントが決められているようだった。
安い商品ほど必要ポイントは少ない。
少し贅沢な商品ほど高い。
さらにレトルト食品を見る。
⸻
保存食
・カップ麺 180Pt
・レトルトカレー 220Pt
・ビーフシチュー 280Pt
⸻
「なるほど……。」
「買った物が全部ポイントになったんだ。」
最初はショックだった。
しかし、よく考える。
「これって……。」
「ポイントがある限り、何回でも取り寄せられるってこと?」
胸が高鳴る。
試してみよう。
萌香は「天然水」を選択した。
『天然水(500ml)』
必要ポイント 35Pt
取り寄せますか?
【YES】
「……はい。」
ボフッ。
リュックの中から、小さな音がした。
「え?」
中を見る。
そこには見慣れたペットボトルが一本入っていた。
「出た……。」
恐る恐る取り出す。
ラベルもキャップも、令和の日本で売られていたものとまったく同じ。
キャップを開け、一口飲む。
「……おいしい。」
冷たくはない。
それでも、飲み慣れた味だった。
萌香は思わず笑みを浮かべる。
その時、ふとコンビニで見た値札を思い出した。
この世界では、水一本二百八十円。
それでも人々は普通に買っていた。
そして、チョコレート。
この世界にあるのは、大豆や芋でんぷんを使った代用品だけ。
本物のカカオを使ったチョコレートは、ほとんど存在しない。
もし、このリュックから取り寄せられる板チョコを誰かが見たら……。
「もしかして……。」
「これ、すごい能力なんじゃない?」
萌香は板チョコレートの項目を見つめる。
板チョコレート 180Pt
画面の右上には、残りポイントが表示されていた。
所持ポイント 4,997Pt
「まずは、お腹を満たさないと。」
萌香は小さくうなずく。
異世界での生活は、まだ始まったばかり。
しかし彼女はまだ知らない。
リュックから取り寄せられる”本物のお菓子”が、この世界の常識を覆すほどの価値を持っていることを。




