第28話 鑓水帝国閣受付
夕暮れ。
シルバーのジャガーSタイプは、鑓水帝国閣へ到着した。
白亜の洋風建築。
歴史を感じさせる大きな建物が、何本ものサーチライトに照らされ、幻想的に浮かび上がっている。
「すごい……。」
萌香は思わず声を漏らした。
ジャガーは正面駐車場へゆっくり入っていく。
周囲には高級車がずらりと並んでいた。
メルセデス・ベンツ。
ポルシェ。
クラウン。
レクサス。
フェラーリ。
国産・輸入車を問わず、高級車ばかりが並んでいる。
萌香は圧倒される。
「こんな車ばっかり……。」
恭子は苦笑しながらジャガーを駐車スペースへ止めた。
「だからさ。」
「この中古のジャガーを買ったんだよ。」
「ようやく馬鹿にされないくらいってところさ。」
エンジンを切ると、恭子はダッシュボードから小さなケースを取り出した。
「これ。」
中には軍用の小型インカムが二つ入っていた。
「軍用ですか?」
萌香が驚く。
「仕事柄ね。」
恭子は笑いながら説明する。
「使い方は簡単。」
「片耳に付けるだけ。」
「メインで話すのは私。」
「二人は私の会話を聞きながら。」
「商品の説明。」
「相手の反応。」
「売れそうか。」
「情報を整理して送ってほしい。」
萌香は真剣な表情でうなずく。
「分かりました。」
琥珀もインカムを受け取る。
「了解ニャ。」
二人は片耳へ装着した。
「テスト。」
恭子の声が小さく聞こえる。
『聞こえるかい?』
萌香が返事をする。
「はい、聞こえます。」
琥珀も答えた。
「ばっちりニャ。」
『よし。』
『これなら大丈夫だ。』
恭子は満足そうにうなずいた。
「今回は。」
「萌香と琥珀の席は用意してない。」
「会場の外にある待合ホールで待機。」
「必要になったら呼ぶ。」
「はい。」
「了解ニャ。」
三人は車を降りる。
萌香と琥珀は慎重に荷物を運び始めた。
木箱へ収められた高級ウイスキー。
丁寧に包まれた熟成チーズ。
どれも今日の主役だ。
「ゆっくり運ぼう。」
「落としたら大変ニャ。」
帝国閣の自動ドアが静かに開く。
中へ足を踏み入れた瞬間。
「……!」
萌香は息をのんだ。
天井には巨大なシャンデリア。
磨き上げられた大理石の床。
赤い重厚なカーペットが奥まで続いている。
歴史ある洋館を思わせる豪華な内装だった。
琥珀も思わず辺りを見回す。
「すごいニャ……。」
「魚人街とは別世界ニャ。」
恭子は二人の様子を見て笑う。
「ビビるなよ。」
「こんなの八王子の式場の一つに過ぎない。」
「私たちは、まだまだ上へ行く。」
「もっと大きな世界で商売するんだから。」
その言葉に、萌香は深呼吸した。
「……はい。」
「そうでした。」
「今日から、その第一歩ですね。」
琥珀も大きくうなずく。
「頑張るニャ。」
恭子は満足そうに笑った。
「よし。」
「二階へ行くよ。」
三人はエレベーターへ乗り込む。
静かに扉が閉まり、
名士たちが待つ――
ロータスクラブの会場へ向けて、ゆっくりと上昇を始めた。




