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転生したら、もう一つの日本でした ~社畜OLは本物のチョコで魚人街を変えていく~  作者: ケロン藤野


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第26話 穴蔵の吹き溜まり



ブラックプリンスでの打ち合わせを終えた二人は、店をあとにした。


帰り際、恭子が紙袋を差し出す。


「持っていきな。」


中には朝食の残りだった焼きアジの干物が数枚入っている。


「今日の晩飯の足しにしな。」


「ありがとうございます!」


萌香は嬉しそうに受け取った。


魚人街の通りを歩いていると、琥珀が足を止める。


「萌香。」


「ん?」


「ちょっと寄りたい所があるニャ。」


「どこ?」


「馴染みの中古武器屋。」


「穴蔵の吹き溜まり。」


萌香は頷いた。


「武器を見るの?」


琥珀は少し照れ臭そうに笑う。


「流石に、萌香の護衛が棍棒だけじゃ格好つかないニャ。」


「もう少し、ちゃんとした武器が欲しい。」


「そうだね。」


「行こう。」


二人は裏路地へ入る。


古びた店の看板には、


『穴蔵の吹き溜まり』


と書かれていた。


ギィ……


重い扉を開ける。


店内には中古の剣や斧、槍、盾が並び、油と鉄の匂いが漂っていた。


「いらっしゃい。」


店の奥から、筋骨隆々の老人が顔を上げる。


「おっ。」


「琥珀じゃねぇか。」


「久しぶりニャ。」


店主は笑う。


「今日は何を探しに来た?」


「護衛用の剣ニャ。」


「棍棒だけじゃ、萌香を守るには心細い。」


店主は黙って一本の剣を持ってきた。


黒い革の鞘。


派手さはない。


しかし刃は丁寧に研がれ、よく手入れされている。


「中古のショートソードだ。」


「状態はかなりいい。」


琥珀は慎重に剣を抜いた。


シャリン――。


何度か軽く振ってみる。


「軽い……。」


「すごく振りやすいニャ。」


店主は満足そうに頷いた。


「お前さんの体格にも合ってる。」


「長く使える一本だ。」


「値段は?」


「剣が六万円。」


「剣帯が二万円。」


「合わせて八万円。」


琥珀は少し黙り込む。


「八万円……。」


探索者になってから何年も。


安物の棍棒で戦い続けてきた。


まともな剣は、一度も持ったことがない。


萌香が微笑む。


「琥珀。」


「この前渡した十五万円、まだ残ってるよね?」


「うん。」


「あのお金は、琥珀の装備を整えるためのお金。」


「だから遠慮しないで。」


「この剣を買おう。」


琥珀は驚いたように萌香を見る。


「いいの?」


「もちろん。」


「護衛の装備は必要経費。」


「私を守ってくれる相棒なんだから。」


琥珀は少し目を潤ませながら笑った。


「ありがとう……。」


「大事に使うニャ。」


店主は剣に油を差し、革の剣帯へ通して渡した。


琥珀は腰へ剣帯を巻き、ショートソードを差し込む。


ゆっくり柄へ手を添える。


「……。」


その表情が、ぱっと明るくなった。


「やっと……。」


「やっと剣が買えたニャ!」


その笑顔は子どものように嬉しそうだった。


萌香も思わず笑顔になる。


「すごく似合ってる。」


「ありがとうニャ!」


店主も腕を組んで笑う。


「棍棒より百倍様になってるぞ。」


帰ろうとした時だった。


萌香は棚の隅で、小さな護身用ナイフを見つけた。


木製の柄に、短い刃。


女性でも扱いやすそうな一本だった。


「これ……。」


「小さくて使いやすそう。」


店主が答える。


「護身用ナイフだ。」


「三千円。」


萌香は封筒を見つめ、小さく首を振る。


「今は……。」


「お金ないから、やめておきます。」


すると隣で琥珀が財布を取り出した。


「店長。」


「これもくださいニャ。」


「えっ?」


萌香が驚く。


「琥珀?」


琥珀は少し照れながら笑った。


「剣を買ってもらったお礼ニャ。」


「萌香にも護身用くらい持っててほしい。」


「でも……。」


「出世払いニャ。」


「商売が成功したら、その時返して。」


萌香は嬉しそうにナイフを受け取る。


「ありがとう。」


「大事にする。」


店主は豪快に笑った。


「いい相棒を見つけたな。」


新しいショートソードを腰に下げた琥珀。


小さな護身用ナイフを手にした萌香。


二人は肩を並べ、魚人街の賑やかな通りへ戻っていった。


その足取りは、店へ入る前よりも少しだけ軽くなっていた。

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