第23話 晩御飯と購入計画
第23話 晩ご飯と購入作戦
北八王子魚人街。
アパートへ戻ると、両手いっぱいの買い物袋を床へ置いた。
琥珀は満足そうにうなずく。
「これで最低限の生活はできるニャ。」
そして萌香を見る。
「せっかく服も買ったし。」
「先にシャワー浴びてくるニャ。」
部屋の隅にある小さなシャワールームを指差した。
萌香は着替えを手にすると、ふと固まる。
「あっ。」
「どうしたニャ?」
「シャンプーとボディーソープ買い忘れた……。」
琥珀は思わず吹き出した。
「ぷっ。」
「萌香らしいニャ。」
萌香は両手を合わせる。
「琥珀さん。」
「シャンプー貸して~。」
「もちろん。」
「出世払いニャ!」
「ありがとう!」
萌香は笑顔でシャワールームへ向かった。
久しぶりの熱いシャワー。
頭からお湯を浴びるだけで、身体中の疲れが溶けていく。
「はぁ~……。」
思わず声が漏れた。
琥珀に借りたシャンプーで髪をしっかり洗う。
続いてトリートメント。
さらさらになった髪を指で梳かしながら微笑む。
棚を見ると、可愛らしい猫のイラストが描かれた洗顔フォームが置いてあった。
『猫印洗顔フォーム』
「これ……。」
「大丈夫かな?」
少し不安になりながらも使ってみる。
泡立ちは驚くほどきめ細かい。
「おぉ。」
「意外といいかも。」
身体もしっかり洗い流し、久しぶりにさっぱりした気分になる。
バスタオルで身体を拭き、新しい下着とスウェットへ着替える。
鏡を見る。
「うん。」
「生き返った。」
洗面台で歯を磨く。
新品の歯ブラシ。
久しぶりに生活が整った気がした。
部屋へ戻ると、脱いだ服を洗濯かごへ入れる。
「琥珀。」
「洗濯したいんだけど。」
「洗濯ネット使うニャ。」
琥珀は棚から大小さまざまな洗濯ネットを取り出した。
「下着はこれ。」
「シャツはこれ。」
「ありがとう。」
萌香は教わりながら服を分けていく。
ワイシャツ。
スーツ。
下着。
靴下。
「本当はクリーニングに出したいけど……。」
「今は節約だね。」
琥珀は台所から笑う。
「アイロンあるニャ。」
「乾いたらかければ大丈夫。」
「助かる!」
その頃には、部屋中へ香ばしい匂いが漂い始めていた。
琥珀はエプロン姿で夕飯の支度をしている。
コンロではメザシがじゅうじゅうと焼けている。
鍋ではお湯が沸き、インスタント味噌汁の準備。
豆腐を切り分け、冷奴を皿へ盛り付ける。
長ネギを細かく刻み、味噌汁と冷奴の薬味にする。
魚のアラは、包丁で刺身にできる部分を丁寧に切り分ける。
骨の周りに残った身は、スプーンでこそぎ取り、小皿へ盛り付けた。
炊飯器が軽快な音を鳴らす。
ピッ。
「よし!」
「ご飯五合、炊けたニャ!」
その時だった。
萌香はテーブルで探索者端末を見つめながら、
「うーん……。」
と難しい顔をしている。
「萌香!」
「ご飯できたニャ!」
「テーブルお願い!」
「はーい!」
萌香は端末を置き、お盆を持つ。
炊きたてのご飯。
湯気の立つ味噌汁。
冷奴。
魚のアラの刺身。
大根のつぼ漬け。
次々とテーブルへ運んでいく。
最後に琥珀が、焼きたてのメザシ四匹を皿へ盛った。
「熱いうちに食べるニャ。」
二人は向かい合って座る。
「いただきます。」
萌香は最初に刺身を一口食べた。
「うわっ!」
「これ、美味しい!」
琥珀は少し照れながら笑う。
「へへへ。」
「アラだけどね。」
「手間を掛けると、ごちそうになるニャ。」
萌香は次にメザシを口へ運ぶ。
パリッ。
香ばしい皮。
ふっくらとした身。
「うわぁ!」
「ここの魚、本当に美味しい!」
夢中でご飯を頬張る。
「魚人街って最高じゃない?」
琥珀は嬉しそうにうなずいた。
「魚だけは自慢ニャ。」
冷奴をつまみながら、琥珀が尋ねる。
「それで。」
「考えはまとまったニャ?」
萌香は箸を置き、左腕の探索者端末を見つめる。
そして、ゆっくりとうなずいた。
「まあね。」
「今回は、あんまり派手にはやらない。」
「やり過ぎると、他の商人の顔を潰しちゃうから。」
恭子の言葉を思い出す。
――商売は、自分だけ儲ければいい世界じゃない。
萌香はにやりと笑った。
「でも。」
「ブラックプリンス、ここにあり。」
「それくらいは印象に残したい。」
琥珀は思わず笑う。
「また悪い顔してるニャ。」
萌香も笑い返した。
「商売人だからね。」
二人は笑いながら、温かい夕飯を囲む。
名士会まで、あと少し。
萌香の頭の中では、すでに次の商売が動き始めていた。




