第22話 新生活の買い物
翌朝。
北八王子魚人街。
萌香と琥珀はアパートを出ると、市場の賑わう通りを歩いていた。
左腕の探索者端末には、名士会で扱う商品の検索画面が表示されたままだ。
「今日は商売じゃないニャ。」
琥珀が笑う。
「今日は萌香の生活を整える日。」
萌香も笑顔で端末を閉じた。
「そうだった。」
「まずは普通に暮らせるようにならないとね。」
二人は魚人街の商店街へ向かった。
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最初に入ったのは、探索者向け衣料品店。
『デッドマンの爪』
黒い看板には、大きな爪痕が刻まれている。
カランカラン。
ドアベルが鳴る。
「おっ。」
店の奥から白髪の老人が顔を上げた。
「琥珀じゃねぇか。」
「久しぶりだな。」
「店長!」
琥珀は笑顔で手を振る。
「今日は友達を連れてきたニャ。」
店長は萌香を見る。
「人間か。」
「探索者かい?」
「はい。」
「始めたばかりです。」
老人は腕を組んでうなずいた。
「なら高い服はいらん。」
「探索者は服も消耗品だ。」
「まずは丈夫な物を着ろ。」
萌香は笑顔で頭を下げる。
「お願いします。」
店長は棚から次々と商品を持ってくる。
「これなら長持ちする。」
「値段も安い。」
萌香は必要最低限だけを選んだ。
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スウェット上下 一着
白いワイシャツ 一枚
下着 三セット
靴下 三足
フェイスタオル
バスタオル
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「全部で六千九百円。」
萌香は封筒から現金を支払う。
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現金残高
100,200円
-6,900円
93,300円
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「毎度あり。」
店長は袋を渡しながら笑った。
「また穴が開いたら持って来い。」
「安く直してやる。」
「ありがとうございます!」
萌香は嬉しそうに袋を抱えた。
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続いて向かったのは生活雑貨店。
『南極山脈』
店内には生活用品が所狭しと並んでいる。
店番をしているのは、青白い肌をした南極海出身の半魚人だった。
「いらっしゃい。」
「新生活かい?」
「はい。」
「生活用品を揃えたくて。」
店主はにっこり笑う。
「最初は何かと金が飛ぶからな。」
「必要な物だけ買うといい。」
萌香は買い物かごへ商品を入れていく。
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歯ブラシ
歯磨き粉
歯磨き用プラスチックコップ
ティッシュ
トイレットペーパー
マグカップ
箸
スプーン
整髪料
髪留めゴム
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「三千円になります。」
「お願いします。」
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現金残高
93,300円
-3,000円
90,300円
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最後に立ち寄ったのは薬屋。
『魔女の渦巻き』
乾燥ハーブが吊るされた店内には、薬草の優しい香りが漂っていた。
「いらっしゃい。」
黒いローブに三角帽子。
魔女のような女性が微笑む。
年齢はまったく分からない。
萌香は少し照れながら口を開く。
「痛み止めと……。」
「あと、その……。」
琥珀が横から小さな声で言う。
「女の子の日用品をお願いしますニャ。」
魔女は優しくうなずいた。
「はいはい。」
「若い子には大事な物だからね。」
丁寧に紙袋へ詰めてくれる。
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痛み止め
消毒液
絆創膏
女性用衛生用品
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「二千円です。」
萌香は代金を支払った。
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現金残高
90,300円
-2,000円
88,300円
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薬屋を出ると、琥珀が言った。
「次は夕飯の買い出しニャ。」
二人は大陸系食品卸し店、
『九頭龍商会』
へ入る。
木箱には大陸から輸入された食材が並んでいた。
琥珀は慣れた様子で商品を選ぶ。
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納豆(四パック) 400円
大根のつぼ漬け(500g) 350円
豆腐(三丁) 200円
長ネギ 一五〇円
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「全部で千百円。」
萌香が封筒へ手を伸ばすと、
琥珀は首を横に振った。
「しばらくは私が出すニャ。」
「でも……。」
「萌香のお金は商売の種銭。」
「今は大事に取っておくニャ。」
萌香は少し申し訳なさそうに笑う。
「ありがとう。」
続いて魚専門店、
『龍神丸』
魚人の店主が威勢よく迎える。
「今日は何にする?」
琥珀は迷わず答えた。
「魚のアラ。」
「メザシ。」
「魚ふりかけ。」
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魚のアラ(刺身用) 250円
魚ふりかけ(100g) 150円
メザシ(四匹) 300円
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「全部で七百円。」
ここでも琥珀が支払いを済ませる。
「贅沢はできないけど。」
「自炊なら十分食べていけるニャ。」
「うん。」
「しばらくはこれで頑張ろう。」
二人は買い物袋を抱えてアパートへ戻った。
部屋に新しい服をしまう。
歯ブラシを洗面台へ置く。
マグカップを棚へ並べる。
冷蔵庫には食材が少しずつ入っていく。
何もなかった部屋に、少しずつ生活の色が増えていく。
萌香は部屋を見回し、満足そうに笑った。
「やっと……。」
「家らしくなったね。」
琥珀も猫耳をぴんと立てて笑う。
「これで安心して商売に集中できるニャ。」
萌香は左腕の探索者端末を見つめ、大きくうなずいた。
「次はいよいよ名士会。」
「絶対に成功させよう!」
新しい服。
新しい生活。
そして、新しい商売。
異世界での暮らしは、一歩ずつ、確かな形になっていくのだった。




