第15話 身分証の保証人
翌朝。
萌香と琥珀はテーブルを囲み、魚人街でもらった仮身分証を眺めていた。
「やっぱり正式な身分証が欲しいな。」
萌香がため息をつく。
「携帯端末も欲しいし、色々調べたい。」
琥珀もうなずいた。
「探索者用の腕輪端末は便利だからね。」
「地図。」
「銀行。」
「ニュース。」
「探索者協会からのお知らせ。」
「全部これ一つ。」
左腕の携帯端末を見せる。
「でも。」
「正式な身分証がないと買えない。」
萌香は腕を組んだ。
「保証人かぁ……。」
「誰か頼める人いる?」
琥珀は少し考えてから、小さく笑った。
「一人だけ。」
「ブラックプリンスの恭子姉さん。」
「魚人街でも顔が利くし、人間の商人とも付き合いがある。」
「保証人になってくれる可能性はある。」
萌香は少し考え込む。
「お願いするだけじゃ悪いよね。」
「うん。」
「姉さん、義理は大事にする人だから。」
その瞬間。
萌香の頭の中で、社畜マーケティングが動き出した。
(営業先へ行く。)
(手土産は重要。)
(しかも相手は大商人。)
(安物じゃ逆効果。)
萌香は《魔法取り寄せ》を開く。
検索。
ウイスキー
画面に商品が並ぶ。
そして一つの商品で指が止まった。
⸻
【魔法取り寄せ】
洋酒
ザ・マッカラン トリプルカスク12年
14,000Pt
⸻
萌香はにやりと笑う。
「これだ。」
「え?」
「イギリスの高級ウイスキー。」
「営業では、相手の好きな物を持っていくのが基本。」
琥珀は目を丸くする。
「姉さん、お酒好きだけど……。」
「それ、すごく高くない?」
「だからいいんだよ。」
「安物じゃ気持ちは伝わらない。」
萌香は迷わず選択する。
「三本。」
ボフッ。
ボフッ。
ボフッ。
重厚な箱に入った高級ウイスキーが三本現れた。
⸻
14,000Pt × 3
-42,000Pt
⸻
【魔法取り寄せ】
所持ポイント
54,836Pt
↓
12,836Pt
⸻
琥珀は一本持ち上げる。
「重い……。」
箱を見つめながら、小さくつぶやく。
「これ。」
「姉さん、大喜びすると思う。」
萌香は笑った。
「営業はね。」
「まず相手を喜ばせること。」
「それから本題。」
「社畜時代に嫌というほど覚えた。」
琥珀は苦笑する。
「社畜って、本当にすごい世界なんだね……。」
萌香は肩をすくめた。
「生き残るには、こういう知恵も必要だったから。」
三本の高級ウイスキーを丁寧に袋へ入れる。
「よし。」
「今日は営業だ。」
「身分証を手に入れて。」
「携帯端末も買えるようにしよう。」
「うん!」
二人は顔を見合わせて笑う。
向かう先は、魚人街最大の食材店――
ブラックプリンス。
保証人になってもらうための、ちょっと特別な営業が始まろうとしていた。




