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転生したら、もう一つの日本でした ~社畜OLは本物のチョコで魚人街を変えていく~  作者: ケロン藤野


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第10話 サメ女の商談


食材店ブラックプリンス。


店内は静まり返っていた。


鱶田恭子は、買取カウンターに並べられた商品をじっと見つめる。


黄色く熟したバナナ。


そして、見たこともない包装の板チョコレート。


「……。」


一本のバナナを持ち上げる。


ずっしりとした重み。


傷一つない皮。


香りも申し分ない。


「本物だね。」


その一言で、店員たちがざわついた。


「やっぱり本物か……。」


「初めて見た。」


恭子は今度は板チョコレートを手に取る。


包装を少しだけ開く。


ふわり。


濃厚なカカオの香りが店中へ広がった。


魚人たちは思わず鼻をひくつかせる。


「これが……。」


「本物のチョコレート。」


恭子は包装を閉じると、ゆっくり腕を組んだ。


「さて。」


「商売の話をしようか。」


カウンターへ商品を並べる。


「まずはバナナ。」


一本を持ち上げる。


「これは一本三千円で売れる。」


萌香が驚く。


「三千円!?」


「一房六本だから、売値は一万八千円くらい。」


「うちは商売だから。」


「一房、一万円で買い取る。」


指を五本立てる。


「今回は五房。」


「五万円。」


琥珀は耳がぴんと立った。


「五万円……。」


恭子は今度は板チョコレートへ目を向ける。


「ブラックチョコ。」


「本物のカカオ。」


「これは高級ホテルの製菓部門や、高級料理店が喉から手が出るほど欲しがる。」


「一枚五千円で売れる。」


「十枚だから売値は五万円。」


「うちは三万円で買い取る。」


店員が計算機を叩く。


カタカタカタ……


表示された数字を見て、恭子は笑った。


「全部で。」


「八万円。」


「どうだい?」


萌香と琥珀は顔を見合わせる。


「「八万円!?」」


二人とも目を丸くした。


琥珀は尻尾までぴんと立っている。


「そ、そんな大金……。」


萌香も思わずうなずいた。


「お願いします!」


「売ります!」


恭子は豪快に笑う。


「よし。」


「商談成立。」


店員が金庫から札束を取り出し、一枚一枚数えてカウンターへ置く。


「八万円です。」


萌香は両手で受け取った。


異世界へ来てから初めて、自分の力で稼いだ大金だった。


恭子は腕を組み直し、萌香をじっと見つめる。


まるで獲物を見定めるサメのような鋭い目。


「……あんたかい。」


萌香は少し緊張する。


「何者かなんて聞かない。」


「商人には、聞かない方が儲かることもある。」


少し笑う。


「でも。」


「あんた、普通じゃないね。」


萌香は黙っている。


恭子も、それ以上は聞かなかった。


「うちに売る限りは安全だ。」


「他の店へ持ち込むのはおすすめしない。」


「欲を出せば、どこで誰が見てるか分からない。」


「本物の果物。」


「本物のチョコレート。」


「そんな物を安定して持って来られる相手なんて、みんな欲しがる。」


店内の空気が少しだけ重くなる。


恭子はすぐに笑顔へ戻った。


「その代わり。」


「うちは少し買い叩くよ。」


「商売だからね。」


「でも。」


「困ったことがあったら相談に来な。」


「魚人街じゃ、一人で生きるより、信用できる店を一軒持ってる方が強い。」


萌香は深く頭を下げた。


「ありがとうございます。」


琥珀も頭を下げる。


「姉さん、本当に助かります。」


恭子は照れ隠しのように鼻を鳴らした。


「ふん。」


「次はもっと面白い物を持ってきな。」


「楽しみにしてるよ。」


萌香は八万円の入った封筒を大事そうに抱えた。


その横で、琥珀が小さくつぶやく。


「萌香。」


「これでしばらく生活できるね。」


萌香はにやりと笑う。


「違うよ。」


「これは生活費じゃない。」


「開業資金。」


「もっと仕入れて、もっと売る。」


「この世界で一番の食材商人になるんだから。」


琥珀は一瞬きょとんとしたあと、吹き出した。


「ふふっ。」


「社畜って、みんなそんなにたくましいの?」


「うん。」


萌香は胸を張る。


「会社で生き残るには、このくらい図太くないとね。」


店を出る二人を見送りながら、恭子は静かにつぶやいた。


「面白い子だ……。」


「琥珀。」


「いい相棒を見つけたじゃないか。」


魚人街の商人は、本能で感じ取っていた。


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