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無能力者の僕は、魔界で最強のドラゴンに懐かれました  作者: くろあげは。
犯罪者集団《シャドウ・ハンズ》編
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第9話 見えない敵

それから、しばらく、僕たちは、学園内をくまなく探し回っていた。


教室、階段、図書室などーー。


そして、昨日盗難被害に遭った教室まで。


しかし、


「……いないね」


僕は、誰もいない廊下を見渡した。


犯人はおろか、怪しい人物すら見つからない。


「ん〜……」


僕は腕を組み、首を傾げ、


「夜だから、また戻ってくると思ったんだけどなあ」


残念そうに肩を落とした。


「もう帰っちゃったのかな?」


「その可能性もありますわね」


隣にいるリリアーヌさんも、周囲を見渡す。


「わたくしも、犯人が再び学園へ来るのではないかと思っていましたわ」


「うん、うん。でも、何処にもいないね」


「ええ……」


リリアーヌさんは少し考え込む。


「……あとは、体育館ぐらいですかね?」


「体育館?」


「えぇ。でも、体育館なんて……盗むような貴重な品、ありますでしょうか?」


「うーん……。確かに、体育館に財布とか魔法道具を置いてる人はいないよね」


「でしょう?」


「でも、一応見てみようよ」


「そうですわね」


二人はそう言って、並んで歩き始めるが、その少し後ろを、レオンとセドリックさんが歩いていた。


「…………」


レオンは前を歩く二人を見つめると、そして隣にいるセドリックさんへ小さく声をかけた。


「……おい」


「はい?」


セドリックさんが横目てレオンを見ると、


「お前も気付いてるんだろ」


「…………」


一瞬だけ目を細めた。


しかし、すぐにいつもの穏やかな笑みを浮かべる。


「はて……なんのことでしょうか?」


「……チッ」


レオンは舌打ちすると、


「とぼけるな」


声を潜めた。


「さっき職員室を通った時、魔物の気配がした」


「…………」


「お前ほどの能力者なら、すぐに分かっただろ?」


セドリックさんは何も答えない。


「……何故、リリアーヌに言わない」


「ふふっ」


すると、セドリックさんが小さく笑った。


「なるほど」


「何がなるほどだ」


「レオン様も、やはりお気づきでしたか」


「……やはり?」


「いえ」


セドリックさんは、いつもの笑顔に戻り、


「それは秘密です」


「…………」


レオンの眉が僅かに動いた。


「……面倒な奴だな」


「よく言われます」


セドリックさんは楽しそうに微笑み、そして、前を歩くリリアーヌさんへ視線を向けた。


「ですが――、直ぐにお嬢様に話しては、楽しくないではありませんか」


「……は?」


レオンが呆れた顔をする。


「何を言ってる」


「これも、立派なお嬢様になる為の訓練ですよ」


「訓練……?」


「ええ」


セドリックさんは静かに答えた。


「危険を察知すること」


「…………」


「自分で考えること」


「…………」


「そして、自分の力で乗り越えること」


セドリックさんは、リリアーヌさんの背中を見つめる。


「それらもまた、強者には必要なことですから」


レオンは黙っていたが、小さく息を吐く。


「……お前、本当に執事か?」


「もちろん」


「執事って、普通はもっと過保護なもんじゃないのか」


「私は少々、方針が違いまして」


「…………」


レオンは呆れたように前を向き、


「まあいい」


そして、低い声で続ける。


「だが――」


鮮やかな緑色の瞳が、鋭く細められた。


「ルカやリリアーヌに危険が及んだら、俺は動くぞ」


「ええ」


セドリックさんも頷いた。


「もちろんです。皆さんが危ないと感じたら」


セドリックさんの笑みが、ほんの少しだけ深くなる。


「私が責任を持って、魔物は処分しますよ?」


「…………」


一瞬、セドリックさんの周囲だけ、空気が変わったように感じられた。


普段は穏やかで礼儀正しい執事だが、その言葉には――、


魔物を倒すことなど容易い。


そう言わんばかりの、冷たい確信があった。


レオンは横目でセドリックさんを見る。


「……なるほどな」


それ以上、何も言わなかった。











前方では、僕とリリアーヌさんが、体育館へ続く廊下を歩いていた。


「体育館、何かあるかな?」


「さあ……」


リリアーヌさんは少し考える。


「ですが、確認しておくに越したことはありませんわ」


「だよね!」


その声が、静かな廊下に響く。


四人は最後の場所へ向かっていた。


――体育館。


その裏では、誰もいないはずの職員室の暗闇の中で、一匹の魔物が息を潜めていた。


「…………」


その手には、一枚の紙。


破り取られたルカ・アルテミスのプロフィールが。


魔物は、その紙を眺めながら口元を歪める。


「ヒヒッ……」


小さな笑い声は、誰にも聞こえない。


誰にも気づかれない。


――敵は、まだ学園の中にいる。


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