第4話 嫌われ者
入学式を終え、僕とリリアーヌは、担任の先生に案内されながら、一年A組の教室へ向かっていた。
「ここが、今日から君たちが過ごす教室だ」
先生が扉を開けると、
「……え?」
教室中の視線が、こちらへ向いた。
「きゃあっ!」
「ドラグニス家のお嬢様よ!」
「本物!?」
「すごい……!」
先ほどまで静かだった教室が、一気に騒がしくなった。
特に女子たちは、リリアーヌさんの周りへ集まっていく。
「リリアーヌ様、昨日の式典でお見かけしました!」
「本当に綺麗……!」
「ドラグニス家の方と同じクラスになれるなんて!」
「まあ……皆さん、そんなに慌てなくてもよろしいですわ」
リリアーヌさんは少し困ったように微笑みながらも、さすがはお嬢様、集まった女子たちへ丁寧に受け答えしている。
ただ、その後ろにある尻尾だけは、ぱたぱたと嬉しそうに揺れていた。
「……」
僕は思わず笑ってしまったが、
「何ですの?」
「ううん。何でもないよ」
教室を見渡し、自分の席を探した。
すると、男子たちの小さな声が聞こえてきた。
「……あれがアルテミス家の」
「本当に無能力者なんだな」
「名門のくせに、とんだ落ちこぼれだな」
「なんでこんな奴が、この学園にいるんだ?」
全部、聞こえている。
僕は少しだけそちらを見たが、
「…………」
何も言わず、自分の席へ向かった。
椅子を引き、腰を下ろして、鞄を机の横へ掛ける。
「よし」
別に、気にすることじゃない。
僕が無能力者なのは事実だし、アルテミス家の人間なのも事実。
それでいい。
そんなことを気にしていたら、せっかくの入学初日がもったいない。
そう思っていると、
「…………」
教室の隅から、こちらを見ていたリリアーヌさんと目が合った。
彼女は何か言いたそうにしているけれど、周囲の女子たちに囲まれているせいか、こちらへ来ることはできない。
その時、
「無能力者のくせに、よく平気な顔してられるよな」
「普通なら恥ずかしくて学園なんて歩けないだろ」
また男子たちの声が聞こえた。
すると、大きな音が教室に響いた。
「…………?」
全員が音のした方を見ると、そこには床を叩いたリリアーヌさんの尻尾があった。
「…………」
リリアーヌさんは澄ました顔で言う。
「……何でもありませんわ」
誰も何も言えず、僕だけが小さく笑った。
「リリアーヌさん、尻尾が怒ってるよ」
「…………!」
リリアーヌさんの顔が赤くなり、
「み、見てはいけませんわ!」
「ごめんごめん」
そんなやり取りをしていると再び、教室の扉が開いた。
入ってきたのは、一人の少年だった。
銀色の髪で、整った顔立ちに、鮮やかな緑色の瞳。
蛇人族であることを示す特徴的な尻尾が、ゆらりと揺れている。
「……蛇人族だ」
「毒、怖いわ……」
「近寄らない方がいいよ」
先ほどまでリリアーヌさんを囲んでいた女子たちが、そそくさと自分の席へ戻っていく。
少年は周囲の反応を気にする様子もなく、教室を見渡した。
「……」
僕と目が合い、
「あっ!」
思わず立ち上がった。
「レオン!」
嬉しくなって、駆け寄るが、
「久しぶり!」
その瞬間、レオンの鮮やかな緑の瞳が、すっと細くなった。
まるで蛇のような、縦長の瞳孔。
その目に宿ったのは、明らかな苛立ちだった。
「…………」
「レオン?」
「話しかけてくるな。無能力者が」
吐き捨てるように言って、レオンは僕の肩へわざとぶつかった。
「うわっ……」
身体が少しよろけるけれど、レオンは振り返ることもなく、そのまま自分の席へ歩いていった。
「…………」
教室の空気が凍りつき、
「……無礼ですわ」
リリアーヌさんの声が低くなる。
そしてまた、尻尾が床を叩いた。
「……」
僕はそんなリリアーヌさんを見て、苦笑する。
「いいの、いいの」
「よくありませんわ!」
「レオンはいつもあんな感じだから」
「いつも……?」
「うん」
僕は笑った。
「昔から、ちょっと口が悪いんだ」
「…………」
リリアーヌさんは納得できない様子でレオンを見るが、一度も振り返らない。
ただ、その手だけが強く握り締められていた。
僕はそんなことにも気付かず、レオンの背中を見つめる。
「まあ、同じクラスなんだし」
そして、いつものように笑った。
「これから一年間、よろしくね。レオン」
もちろん返事はないが、銀色の髪の下では、鮮やかな緑の瞳だけが、再び細く縦に変わっていた。




