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無能力者の僕は、魔界で最強のドラゴンに懐かれました  作者: くろあげは。
犯罪者集団《シャドウ・ハンズ》編
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第3話 落ちこぼれ

「お前たち!! 何をしている!!」


鋭い怒声が響き、騒ぎを聞きつけた教師が駆け寄ってくると、先輩たちは顔を見合わせる。


「やべぇ!」


「先生だ!」


「逃げるぞ!」


捨て台詞を吐きながら、三人は一目散に走り去っていく。


「待ちなさい!」


教師は彼らを追い掛け、その場には静寂だけが残った。


リリアーヌがゆっくり息を整えると、そっと握られていた右手が離れた。


「あ、ごめんね?」


目の前の少年は照れくさそうに笑う。


「勝手に手なんか掴んじゃって」


「……。」


 リリアーヌは自分の手ではなく、少年を見つめた。


「貴方」


「ん?」


「なぜ魔法を使わなかったのです?」


あれだけの水魔法は、普通なら防御魔法を張るか、相殺する魔法を使う。


しかし彼は、一度も魔法を使わなかった。


いや、使えなかったようにも見えた。


「あー……」


少年は頭を掻きながら笑い、


「僕ね」


一呼吸置いてた。


「無能力なんだ」


リリアーヌの思考が止まる。


「…………」


聞き間違いだろうか。


いや、聞き間違いであってほしい。


「…………なんですの?」


「だから」


少年は悪びれる様子もなく笑った。


「無能力者」


「…………」


「…………」


「なんですのーーーーーっ!!」


思わず学園中に響く声を上げてしまう。


その瞬間、リリアーヌの紅い尻尾が勢いよく真上へ跳ね上がった。


「わぁ」


少年が目を丸くする。


「な、何ですの!」


「尻尾、凄いね」


「…………え?」


恐る恐る後ろを振り返ると、尻尾は見事に真っ直ぐ立っていた。


「~~~~っ!」


慌てて両手で押さえ、


「み、見ないでくださいまし!」


「ご、ごめん!」


少年は素直に視線を逸らした。


「ドラゴン族って、驚くと尻尾が立つんだね」


「ち、違います!」


「違うの?」


「こ、これは……!」


言い訳が見つからない。


(最悪ですわ……初対面の方に尻尾を見られるなんて……)


恥ずかしさで顔が熱くなるが、リリアーヌは気を取り直すように、小さく咳払いをした。


「……お名前を」


「え?」


「お名前です」


「あ、僕?」


少年はにこりと笑うが、


「ルカ・アルテミス」


その名前を聞いた瞬間に鳥肌が立った。


「…………え?」


アルテミスーーその姓は、魔界で知らぬ者はいない。


「アルテミス家……?」


「うん」


「まさか、あのアルテミス家ですの!?」


「そうだけど?」


「あり得ませんわ!」


またしても尻尾が真上へ立つ。


「あ」


「言わないでくださいまし!」


リリアーヌは尻尾を抱き締めた。


アルテミス家は、ドラグニス家と並び称される名門。


その跡取りが、無能力者。


(そんなこと……聞いたことがありませんわ)


自然と疑問が浮かぶ。


なぜ、どうして、何があったのか。


けれど、


(……聞きませんわ)


誰にだって、話したくない過去くらいある。


初対面の自分が踏み込むことではない。


リリアーヌは静かに胸へしまい込んだ。


「そういえば!」


今度はルカが目を輝かせる。


「もしかしてドラグニス家の人!?」


「……そうですけれど」


「すごい!」


ルカは子どものように笑い、


「初めて会った!ドラグニス家って魔界でも有名だもんね!こんな有名なお嬢様に会えるなんて!」


「…………」


リリアーヌは呆然とする。


(この方……)


普通ならアルテミス家の話になるはずなのに、この少年は、自分よりドラグニス家に興味津々だった。


(本当に……変な方)


その時、ルカが微笑んだ。


「あ」


「?」


「今度は尻尾が揺れてる」


「…………」


後ろを見ると、尻尾は嬉しそうに左右へ揺れていた。


「きゃああああっ!!」


慌てて両腕で抱き締め、


「な、何故ですのーーーっ!」


「ご、ごめん!」


「笑わないでくださいまし!」


「ごめん、ごめん」


ルカは笑いながら謝る。


その笑顔を見ていると、不思議と怒る気になれなかった。


「そうだ!」


ルカはぱっと笑顔になる。


「僕のことはルカって呼んでね!」


「待ってくださいまし」


「うん?」


「わたくしたち」


リリアーヌは真面目な顔で言うが、


「まだ知り合ったばかりですわよ?」


「そうだね!」


「そうだね、ではありません!」


「でも」


ルカは笑った。


「僕はもう友達だと思ってるよ」


「……え?」


「だからよろしくね!」


屈託のない笑顔を見た瞬間、また尻尾が揺れた。


(ちょ、ちょっと!動かないでくださいまし!)


必死に押さえているが、ルカは気付いていない。


「本当に……」


リリアーヌは小さくため息をついた。


「変な方ですわ」


その言葉には、もう最初の棘はなかった。


その時、


「一年A組の生徒は教室へ急ぎなさい!」


教師の声が響く。


「ルカ・アルテミス!」


「はーい!」


「リリアーヌ・ドラグニス!」


「……はい」


「二人とも一年A組だ。早く来なさい」


「えっ!」


ルカは再び嬉しそうに笑い、


「同じクラスなんだ!」


「……ええ」


(退屈は……しなさそうですわね)


二人は並んで校舎へ歩き出した。


そしてその姿を、一人の少年が校舎の窓から静かに見つめていた。


鮮やかな緑の瞳は、ルカだけを映している。


(また笑ってる、無能力者のくせに。アルテミス家に生まれながら)


少年は拳を強く握ると、


(俺だったら……俺がアルテミス家に生まれていたなら、誰よりも強くなれた)


低く吐き捨てる。


「……なんで彼奴が、この学園に」


小さく舌打ちをすると、少年は踵を返した。


その名は――、


レオン・シャルロット。


ルカの幼なじみにして、彼を最も嫌う少年だった。


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