第2話 決闘はダンスのように
「勝てるとでも?」
赤い髪の少女――リリアーヌ・ドラグニスが、不敵な笑みを浮かべた。
その言葉に、先輩たちの顔が引きつる。
「……上等だ」
一人の先輩が、ゆっくりと手を前へ伸ばした。
「後悔すんなよ、新入生!」
その手に魔力が集まり始め、周囲にいた生徒たちが、ざわめき始めた。
「おい、あれ決闘する気だぞ」
「入学初日から?」
「相手、新入生だろ?」
次第に人が集まってくる。
リリアーヌはそんな周囲の反応など気にも留めず、優雅に髪を払いながら先輩たちを見つめていた。
「ふふ……」
その表情には、何故か余裕がある。
「わたくしに喧嘩を売ったこと、後悔なさいな」
「言ってろ!」
先輩の魔力が、さらに膨れ上がる。
その時、
「――あれ?」
人だかりの向こうから、声が聞こえた。
リリアーヌが、ピクリと眉を動かしたのは、
「……あら?」
聞き覚えのある声だったからだ。
そして、人混みを掻き分けるようにして現れたのは――、
「さっきの……」
「あ」
僕は思わず声を漏らす。
先ほど廊下で話した少女が驚いた表情をしていた。
「君、ここにいたんだ」
「…………」
リリアーヌは、じっと僕を見つめ、
「……あなた」
「うん?」
「なぜ、ここに?」
「いや、教室に行こうと思ったんだけど……」
僕は頭を掻く。
「案内板を見間違えちゃって」
「…………」
「それで戻ってきたら、人が集まってたから」
僕が周囲を見渡していると、
「何かあったの?」
「何かあったの、ではありませんわ!!」
「え?」
突然、リリアーヌが声を荒らげた。
「今からわたくしは、この方々と決闘を――」
「決闘?」
「そうですわ!」
リリアーヌは胸を張っているが、
「わたくしの大切なネックレスを奪おうとした、無礼な輩ですもの」
「えっ……」
僕は先輩たちを見る。
先輩たちは、今にも魔法を放ちそうなほど魔力を高めていた。
「それは……」
その様子を見て、僕は少し困ったように笑う。
「ダメだよ」
「…………は?」
リリアーヌの眩しい笑顔が消えた。
「先生に怒られちゃうよ」
「…………」
「入学初日だし」
「…………」
「だから、やめた方が――」
「だ、誰ですの、貴方!?」
「え?」
リリアーヌが僕を指差した。
「先ほどから何なのですの!? 突然現れたと思えば、わたくしの決闘を止めようとして!!」
「いや……」
「邪魔しないでくださる!?」
「でも、先生に怒られちゃうよ?」
「そんなこと、今はどうでもいいですわ!!」
「よくないよ」
「よくなくありませんわ!!」
僕とリリアーヌの間に、妙な沈黙が流れた。
「…………」
「…………」
リリアーヌがじっと僕を見て、
「……あなた」
「うん?」
「本当に、変な人ですわね」
「そうかな?」
「そうですわ!!」
「そっか」
「……」
こめかみを押さえる。
「どうしてわたくしの周りには、こんな変な方しか……」
「おい」
その時背後から、低い声が響いた。
「…………」
僕とリリアーヌは、同時に振り返る。
そこには、怒りに顔を歪めた先輩たちが立っていた。
「お前……ら……」
先輩の一人が、拳を握り締める。
「俺たちを無視して……」
周囲の空気が変わり、
「何を呑気に話してやがる!!」
「あ」
僕は先輩たちを見る。
「ごめんなさい」
「謝って済むと思ってんのか!!」
「いや、そういうつもりじゃ……」
「ふざけやがって!!」
先輩が手を掲げたその瞬間、周囲の空気が、一気に冷たくなる。
「――《ウォーター・アロー》!!」
無数の水の矢が、空中に生み出された。
「えっ!?」
リリアーヌが目を見開くと、
「ちょっと、あなた方!!」
無数の水の矢が、こちらへ向かって飛んできた。
「危ない!」
僕は咄嗟にリリアーヌの手を掴み、
「――え?ちょ、ちょっと!?」
身体を引き寄せる。
そのすぐ横を、水の矢が通り過ぎた。
「こっち!」
「な、何をしていますの!?」
僕はリリアーヌの手を握ったまま、身体を横へ動かす。
また一本、さらに一本。
水の矢が、僕たちの間を掠めていく。
「ちょっと!!」
「危ないから!」
「そんなことは分かっていますわ!!」
右へ、左へ、僕がリリアーヌの手を引く。
彼女の身体が、それに合わせて動くき、さらに飛んできた水の矢を、身体を捻って躱す。
「きゃっ!」
「大丈夫!?」
「だ、大丈夫ですわ!!」
僕はそのままリリアーヌの身体を引き寄せ、二人の身体が回った。
「…………」
「…………」
一瞬だが、周囲の時間が止まったように感じた。
赤い髪が、ふわりと舞い、まるで、
二人でダンスを踊っているかのようだった。
「…………」
「…………」
周囲の野次馬たちも、呆然と僕たちを見ている。
「……え?」
「今の……」
「ダンス……?」
「いや、魔法を避けてるだけだろ」
「でも……」
「どう見ても踊ってるようにしか……」
「…………」
リリアーヌの顔が、みるみる赤くなったと思うと、
「な、な、な……何ですのこれぇぇぇぇぇぇ!?」
悲痛な叫び声が、学園中に響き渡った。




