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第32話 深まる謎

僕達3人は森から帰り、セドリックさんに連れられて、学園長室で話し合いをすることになった。


「失礼します」


セドリックさんが扉をノックすると、


「入りなさい」


中から学園長の声が返ってきた。


扉を開けて中へ入ると、学園長はいつものように穏やかな笑みを浮かべて僕達を出迎えてくれた。


「おかえり、3人とも。いつもの珈琲は如何かね?」


「じゃあ、頂きます」


「俺も」


僕とレオンは頷いた。


しかし、リリアーヌさんは首を横に振る。


「今は大丈夫ですわ。ありがとうございます」


「おや、そうかね?」


学園長は少しだけ不思議そうにしたものの、それ以上は何も尋ねなかった。


「では、二人分お願いしよう」


「かしこまりました」


セドリックさんは一礼すると、珈琲を淹れる準備を始めた。


僕達はソファに腰を下ろす。


今日訪れた教会のことを、改めて整理するためだ。


やがて、セドリックさんが珈琲を運んできた。


「お待たせいたしました」


「ありがとうございます!」


僕はカップを受け取り、口元へ運ぶ。


香ばしい香りがふわりと広がった。


一口味わってから、僕は今日の出来事を話し始めた。


「あの教会には、マリアさんっていうシスターさんが居ました」


「ふむ……」


学園長は顎に手を添え、考え込むように目を細めた。


「それはおかしい」


「おかしい、ですか?」


僕が尋ねると、学園長はゆっくりと頷いた。


「あの教会……いや、あの森は、今は亡き古い友人が管理していたんだよ。まあ、今では管理する者もいなくてな」


「学園長のご友人が……?」


レオンが反応すると、


「ああ。森の管理だけでなく、あの教会のことも任されていてね。だが、彼が亡くなってからは、管理する者もいなくなってしまったんだ」


学園長は窓の外へ目を向けた。


いつもの穏やかな表情には、ほんの少しだけ懐かしむような色が浮かんでいた。


「だからこそ、不思議なんだよ。あの森に人が住んでいるという話は、これまで聞いたことがなかったからね」


「では、マリアさんは一体……?」


僕は首を傾げた。


あの教会で暮らしているのであろう、マリアさん。


彼女は、自分がそこのシスターだと言っていた。


けれど、学園長の話が本当なら、教会を管理する人はもういないはずだ。


「……勝手に住み着いたということか」


レオンが腕を組む。


「その可能性はあるね。ただ、今の段階では何とも言えない」


学園長はそう答えると、再び顎に手を添えた。


「それにしても……彼が亡くなってから、あの森を訪ねる者はほとんどいなかったはずなんだがねぇ」


学園長は小さく息を吐いた。


「どうして今になって、シスターが現れたのか……」


その言葉に、僕達は顔を見合わせたが、誰も、すぐには答えられなかった。


マリアさんは優しい人だった。


突然訪ねてきた僕達を快く迎え入れ、紅茶とクッキーまで出してくれた。


だけど、学園長の話を聞くと、どうしても気になってしまう。


「……マリアさんは、いつからあの教会にいるんでしょう?」


僕が呟くと、学園長は静かに頷いた。


「まずは、そこから調べてみる必要がありそうだね」


レオンも同意するように頷いた。


「俺もそう思います。教会のことも、マリアさん自身のことも、分からないことが多すぎる」


「そうですわね……」


リリアーヌさんも考え込むように目を伏せた。


「ですが、マリアさんはとても親切な方でしたわ。突然訪ねてきたわたくしたちを、快く迎え入れてくださいましたもの」


「うん。僕も、悪い人には見えなかったよ」


僕は頷いた。


それでも、あの教会には何かがある。


そんな気がしてならなかった。


「……調べてみるとするが、君たちは前のように無茶はしない事だ。何か分かれば、随時報告するように」


学園長は僕達3人を見渡しながら、念を押した。


「分かりました」


レオンが短く返事をする。


「はい!」


僕も元気よく頷くと、リリアーヌさんも姿勢を正す。


「承知いたしましたわ」


学園長は満足そうに頷いた。


すると、レオンがふと思い出したように口を開く。


「では、また明日ぐらいにマリアさんに接触してみます。今日は何も聞けませんでしたから」


「……そうだね。確かに、教会のこともマリアさん自身のことも、ほとんど分からなかったし」


僕は腕を組んで考えた。


せっかくあそこまで行ったのに、結局分かったのは、マリアさんが教会にいるということくらいだ。


「でもさ」


僕は、ぽんと手を打った。


「紅茶とクッキーを頂いたから、僕達も何か持っていく?」


「……は?」


レオンが呆れたような声を漏らした。


「お前な……。今は教会の謎を調べているんだぞ」


「うん、分かってるよ?でも、ご馳走になったままなのも悪いじゃない」


「それは……そうかもしれないが」


レオンは少しだけ言葉に詰まると、リリアーヌさんがぱっと顔を明るくした。


「そうですわね!きっとマリアさんも喜んでくださいますわ!」


尻尾が、嬉しそうにゆらりと揺れる。


「お菓子をお持ちするのもよろしいですし、何かお礼になるものを考えてみるのも素敵ですわね!」


「でしょ?」


僕は笑顔で頷いた。


「何がいいかなぁ。クッキーを頂いたから、今度は別のお菓子とか?」


「でしたら、焼き菓子などはいかがでしょう?日持ちもしますし、紅茶にも合いますわ!」


リリアーヌさんは楽しそうに考え始めた。


その表情は、先ほどまで教会の謎について考えていたときよりも、ずっと明るかった。


「……お前たち、完全にお茶会の続きの話になっているぞ」


レオンが額に手を当てる。


「お礼は大切ですわ!」


「いや、そういう問題じゃ……」


「レオンも一緒に考えようよ!」


「……はぁ」


レオンは深いため息をついたが、それ以上は何も言わなかった。


そんな僕達の様子を見て、学園長はくすくすと笑った。


「ははは。まあ、お礼をすること自体は悪くないだろう。ただし、調査を忘れないようにね」


「もちろんですわ!」


リリアーヌさんが胸を張り、僕も元気よく頷いた。


「はい!」


「……本当に分かっているのか?」


レオンの呟きは、誰にも拾われなかった。


こうして、明日もマリアさんのいる教会を訪ねることになった。


僕達はまだ知らない。


あの穏やかなシスターとの再会が、これからどんな出来事につながっていくのかを。


そして――リリアーヌさんの心には、あの紅茶の香りと味が、まだ鮮明に残っていた。


学園長室を出る直前、彼女はふと、誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。


「……また、飲んでみたいですわね」


その言葉に、まだ誰も違和感を覚えることはなかった。


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