↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/45

第30話 森の奥で微笑むシスター

次の日、僕とレオン、リリアーヌさんの3人は、昨日訪れた森の入口で待ち合わせをしていた。


セドリックさんは、昨日僕達が見たものについて、学園長に説明してくれるらしく、今はここにいない。


夜とは違い、空には眩しい太陽が輝いている。


「……あつ……」


僕は服の裾をつまみ、パタパタと揺らして風を送った。


「もう、ルカ。はしたないですわよ」


隣では、リリアーヌさんが涼しそうな顔で扇子を動かしていた。


「だって暑いんだもん!」


「暑いのは皆同じですわ。もう少し落ち着きなさいな」


「リリアーヌ、お前もさっきからずっと扇いでるだろ」


レオンが呆れたように指摘する。


「なっ……!わ、わたくしはいいのです!」


リリアーヌさんは慌てて扇子を動かす手を速めた。


「何が違うんだよ……」


「違うったら違いますわ!」


「はいはい」


いつものような二人のやり取りに、僕は思わず笑ってしまった。


けれど、森の奥へ視線を向けると、自然と表情が引き締まる。


僕達は、昨日見たあの黒い影の正体を確かめに来たのだから。


「……よし。それじゃあ、行こうか」


「ええ」


「さっさと済ませるぞ」


僕達は森の中へと足を踏み入れた。


木々の間から差し込む日差しが、地面にまだらな影を落としている。


昨日と同じ道を歩いているはずなのに、明るいだけでこんなにも印象が変わるものなのか。


夜には不気味に感じた木々も、今は鮮やかな緑に見える。


けれど、蝉の鳴き声はそんな感慨に浸る余裕さえ与えてくれなかった。


「……蝉って、こんなにうるさかったっけ?」


「夏だからな」


レオンが淡々と答え、


「それ、答えになってる?」


「なってるだろ」


「はいはい……」


そんな会話を交わしながら、僕達は森の奥へと進んでいった。


「ふう……こんなに歩いていると、仰いでも暑いですわね」


リリアーヌさんが、歩きながらため息をついた。


確かに、森の入口から教会までは少し距離がある。


木々が生い茂っているおかげで日差しは多少遮られているものの、真夏の暑さまでは防げない。


「リリアーヌさん、大丈夫?少し休憩しようか」


僕は辺りを見回し、少し先にある木陰を指さした。


「あそこ、涼しそうだよ!」


「そうですわね……。少し休みましょうか」


リリアーヌさんは扇子をパタパタと動かしながら、ほっとしたように頷いた。


僕達は木陰へ移動すると、レオンは持っていたカバンをごそごそと漁り始めた。


「ほら、二人とも。お茶」


そう言って、ペットボトルを二本取り出し、僕とリリアーヌさんに差し出した。


「レオン、ありがとう!」


「助かりますわ」


僕達はそれぞれペットボトルを受け取った。


「別に。暑くなるのは分かってたからな」


レオンは素っ気なく答え、自分の分のお茶も取り出す。


「ふふっ。レオンのこういうところ、素敵ですわ」


「……何がだよ」


「なんでもありません」


リリアーヌさんは楽しそうに微笑み、ペットボトルの蓋を開けた。


僕もそれに倣い、ごくごくとお茶を飲む。


「あーっ、生き返る……!」


思わず声が漏れた。


冷たいお茶が喉を通り、体の中にこもっていた熱が少しずつ引いていく。


「大げさだな、お前は」


「だって、暑すぎ!」


「まったく……」


呆れたように言いながらも、レオンの口元はほんの少しだけ緩んでいた。


木陰を吹き抜ける風が、汗ばんだ肌を優しく撫でていく。


蝉の鳴き声は相変わらずうるさいけれど、こうして休んでいると、さっきまでの暑さも少しは和らいだ。


「……さて」


レオンがペットボトルの蓋を閉め、教会のある方向へ目を向けた。


「休憩は終わりだ。まだ目的地にも着いてないんだからな」


「うん!」


僕は元気よく頷いた。


リリアーヌさんも扇子を閉じ、ゆっくりと立ち上がる。


「ええ。今度こそ、昨日の謎を確かめますわよ」


「そうだね。昼間なら、何か分かるかもしれないし」


僕達は再び歩き始めた。


昨日、教会の中へ入っていった大きな黒い影。


あれはいったい、何だったのだろう。


明るい昼間なら、何か分かるかもしれない。


そんな期待を胸に、僕達は森の奥へと進んでいった。


そして、教会が見え始めた頃だった。


「あっ……」


僕は思わず足を止めた。


教会の大きな扉の前に、誰かが立っていたのだ。


「……人?」


レオンも目を細める。


昨日は暗闇に包まれていて、教会の姿さえはっきりとは見えなかった。


けれど、今は昼間だ。


太陽の光のおかげで、その人物の姿がよく見える。


白を基調としたシスターのような服装に、頭を覆うヴェール。


穏やかな雰囲気をまとった、どこか神秘的な女性だった。


「……尻尾があるね」


僕は思わず呟いた。


女性の背後では、細くしなやかな尻尾が、気持ちよさそうにゆらゆらと揺れていた。


ただ、こんな森の奥にある古びた教会で出会うとなると、少し不思議な気もした。


「……あら?」


その女性が、ふとこちらを振り向いた。


どうやら、僕達の存在に気づいたらしい。


目が合った瞬間、僕達は自然と居住まいを正し、軽く頭を下げる。


女性も僕達を見つめ、柔らかく微笑んだ。


「えっと……」


僕は少しだけ迷ってから、教会の大きな扉へと視線を向けた。


昨日、あの黒い影が入っていった扉。


そして、僕達がどれだけ押しても開かなかった扉。


その前に、今はこの女性が立っている。


僕は改めて女性を見上げ、尋ねた。


「お姉さんは、ここのシスターさんですか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。