第26話 夏の夜風は浴衣と心を揺らし
そして、運命の肝試しの日がやってきた。
僕のスマートフォンに、一通のメッセージが届いた。
送り主は、昨日一緒に話していた男子の一人だった。
『ルカ!明日は浴衣着て来いよ!』
『浴衣?』
僕は首を傾げたが、
『いいか!絶対だからな!』
『分かった!』
素直に返信した。
「……浴衣って、どこにあるんだろう?」
僕は自分の部屋を見回した。
当然、浴衣なんて持っていない。
すると、隣で準備をしていたレオンが、こちらを見た。
「……だと思った」
「え?」
「お前なら持ってないと思ってた」
「レオンは持ってるの?」
「俺も持ってない」
「じゃあ、どうする?」
レオンは小さくため息をつくと、
「街に行くぞ」
「?」
「浴衣をレンタルできる店がある」
「凄い!」
僕は目を輝かせ、こうしてレオンと、街へ向かった。
「うわぁ……!」
店に入った瞬間、僕は思わず声を上げた。
店内には、色とりどりの浴衣がずらりと並んでいた。
青、黒、白に紫、そして赤。
花柄に、縞模様。
中には、少し変わった柄まである。
「どれにしようかな……」
僕は浴衣の並ぶ棚を端から端まで眺める。
「これもいいなぁ……」
青い涼しげな浴衣を手に取る。
「こっちもかっこいい!」
今度は黒い渋い浴衣。
「うーん……」
次は白地に青い模様が入った浴衣。
「全部良く見える……!」
「お前、優柔不断だな」
レオンが呆れたように言うと、
「だって、こんなにあるんだよ!?」
「浴衣なんて、動きやすければ何でもいいだろ」
そう言いながら、レオンは棚を眺める。
「これでいいな」
レオンが手に取ったのは、**濃紺の浴衣**だった。
派手な柄はないが、よく見ると裾の辺りに細い銀色の蛇の模様が入っている。
「……蛇だ!」
「悪いか」
「ううん!レオンらしくて、すごくいい!」
「そうか」
レオンは淡々と答える。
けれど、ほんの少しだけ口元が緩んだ気がした。
「じゃあ僕は……」
僕は再び浴衣を眺め、
「これ!」
選んだのは、**白を基調にした浴衣**だった。
そこに淡い青色の模様が入っている。
「なんだか、涼しそう!」
「……お前らしいな」
「でしょ?えへへ」
僕は浴衣を身体に当ててみる。
「どうかな?」
「悪くない」
「レオンの『悪くない』は、褒めてるってことだよね?」
「……好きに解釈しろ」
「えへへ〜」
そして、二人で浴衣に着替え、僕達は待ち合わせ場所へ向かった。
待ち合わせ場所は、学園の裏にある古い森の入口。
昼間でも少し薄暗く、ほとんど人が近寄らない場所だ。
「ここだね」
僕は森を見上げた。
大きな木々が空を覆い、風が吹くたびに葉がざわざわと揺れている。
「……肝試しには、ぴったりだな」
「うん!」
僕が頷いたその時、
「る、ルカ!?」
後ろから聞き慣れた声がした。
「え?」
僕が振り返ると、
「リリアーヌさんに、セドリックさん!?」
2人が居て、リリアーヌさんは、浴衣姿だった。
**赤を基調とした浴衣には、鮮やかな薔薇の刺繍。**
炎を操る彼女にぴったりの、華やかな浴衣だ。
さらに帯には金色の飾りがあしらわれていて、お嬢様らしい上品さもある。
赤い髪と角、そして揺れる尻尾。
普段とは違う浴衣姿なのに、不思議なくらいリリアーヌさんらしかった。
「こんばんは、ルカ様。レオン様」
いつも通りの、燕尾服姿のセドリックさんは、
「こんばんは!」
「……どうも」
穏やかに微笑む。
「お二人とも、よくお似合いですよ」
「ありがとう!」
僕は嬉しくなって笑った。
そして、リリアーヌさんの浴衣を見る。
「その浴衣、可愛いね?」
「……!」
リリアーヌさんの目が少しだけ見開かれ、
「リリアーヌさんに、すごくピッタリだよ」
「そ、そう……ですの?」
僕は素直に頷いた。
「赤い薔薇が、リリアーヌさんの炎みたいで綺麗だよ」
「…………」
リリアーヌさんは黙って僕を見る。
そして後ろの尻尾が、嬉しそうに揺れた。
頬を少し赤くしながら、リリアーヌさんは顔を逸らす。
「まあ……ルカに褒められるのでしたら、悪い気はしませんわ」
「?」
僕は首を傾げる。
その隣で、レオンが小さくため息をついた。
「……分かりやすいな」
「何がですの!?」
「別に」
「絶対何か言いましたわよね!?」
「気のせいだ」
「まあ!レオンは素直じゃなくて!」
リリアーヌさんが頬を膨らませ、そんな二人を見て、僕は思わず笑った。
「ふふっ。なんだか、いつも通りだね」
そして僕達はまだ何も知らないまま、古い森の入口に立っていた。
この夜が僕達にとって、忘れられない夜になることも知らずに。




