第25話 肝試しの罠……?
犯罪者集団の事件から、数ヶ月。
すっかり暑くなった魔界では、蝉のような魔物の鳴き声があちこちから聞こえるようになっていた。
そして明日から、僕達は夏休みだ。
「なあ、ルカ!夏休み、何するんだ?」
放課後の教室では、男子のクラスメイト達が、僕とレオンの周りに集まっていた。
最近では、こうして普通に話しかけてくれる友達も増えた。
僕は嬉しくなって笑い、
「うーん……まだ決めてないかな。レオンは?」
「まあ……課題とか鍛錬とかだろ」
レオンは机に頬杖をつきながら答えた。
「面白くねえなあ〜!」
男子の一人が声を上げる。
「俺らさ、明日の夜、合コンするんだぜ!」
「合コン?」
僕は首を傾げた。
「何それ?」
「えっ、お前、知らねえの!?」
「うん」
「男女で集まって、仲良くなったりするんだよ」
「へぇ〜」
僕が感心していると、レオンが僕の耳を両手で塞いだ。
「お前は聞かなくていいぞ」
「え?なんで?」
「なんでもない」
「まあまあ聞けって!」
男子達は楽しそうに笑い、
「俺たちの合コンは、ちょっと違うぜ?」
「?」
「学生だから金ねえだろ?」
一人が大げさに腕を組む。
「だ!か!ら!」
僕達を指差し、
「肝試し合コンだ!」
「……肝試しと合コンを一緒にするなよ」
レオンが呆れたように呟く。
「いやいや、これが結構いいんだって!」
「何が?」
「吊り橋効果って知ってるか?」
「聞いた事はある」
「怖い場所に男女で行くと、ドキドキするだろ?」
「うん……?」
「そのドキドキを、恋愛のドキドキだと錯覚するんだよ!」
「へぇ〜!」
僕は目を輝かせた。
「肝試し、楽しそうだね!」
「だろ!?」
男子達が一斉に笑い、
「よし、決まり!」
「え?」
「男子の人数が足りなかったんだよ!ルカとレオンも参加な!」
「えっ、僕も?」
「当然!」
「……やった!」
僕は笑顔で頷いた。
「楽しそう!」
「お前、本当に怖いもの知らずだな……」
レオンが呆れたようにため息をつく。
「まあ、レオンも一緒なら大丈夫だよ!」
「勝手に俺を巻き込むなよ……」
「でも行くでしょ?」
「……」
レオンは少しだけ黙り、
「……お前一人だと、何をするか分からないからな」
「楽しみだねえ!」
「仕方なくな」
そんな僕達のやり取りを、少し離れた場所から、誰かが聞いていた。
リリアーヌ・ドラグニス。
リリアーヌさんは友人達との会話を終え、教室を出ようとしていたところだった。
「……肝試し?」
その言葉だけが、偶然耳に入った。
リリアーヌさんは、ちらりと僕達の方を見る。
けれど、会話に加わることはない。
「夏休みに、肝試し……」
少しだけ興味を持ったように呟く。
しかしそのまま何も言わず、教室を後にした。
その日の帰り道、僕とレオンは、寮へ向かっていた。
「明日の夜、楽しみだなぁ!」
「……俺はそうでもない」
「でも、肝試しなんて初めてだよ!」
「そうか」
「レオンは怖くないの?」
「怖くない」
「すごい!」
「お前が怖がったら面倒だからな」
「え?」
「なんでもない」
レオンは前を向いたまま歩いていく。
僕はそんなレオンの横顔を見ながら、笑った。
明日から夏休み。
そして、その初日の夜、僕達は肝試しに行く。
一方その頃リリアーヌさんは、別の場所で女子達から声をかけられていた。
「リリアーヌさん!」
「はい」
振り返ると、
「明日の夜、みんなで肝試しをするんですけど……一緒に行きませんか?」
「肝試し……?」
リリアーヌさんの瞳が輝いた。
「まあ!楽しそうですわ!」
「ですよね!」
「えぇ。ぜひ参加させていただきますわ!」
嬉しそうに尻尾を揺らすと、
「では、明日の夜に!」
「分かりましたわ!」
リリアーヌさんは笑顔で手を振った。
その表情には、自分が何に参加するのか、まだ何も知らない無邪気な笑顔が浮かんでいた。
そして僕達が知らないところで、明日の夜へ向けて、少しずつ人が集まり始めていた。
ただ一つだけ分かっているのは、明日の夜、僕達の「肝試し」が、少しだけ普通とは違うものになるということだった。




