第14話 迷子の小悪魔ちゃん
学園の皆が、それぞれの部活動に精を出している頃、僕達4人は、学園の近くにある大きな街へ来ていた。
休日ということもあって、街はたくさんの魔物達で賑わっている。
二本の角を生やした魔物や、大きな翼を持つ魔物。
獣のような姿をした魔物もいる。
様々な種族の魔物達が、当たり前のように同じ通りを行き交っていた。
「すごい……!」
僕は思わず辺りを見回した。
色とりどりの店が並び、屋台からは美味しそうな匂いが漂っている。
だけど、僕達は遊びに来たわけじゃない。
学園から盗まれた魔法道具、そして僕のプロフィール。
その犯人である犯罪者集団の手掛かりを探すために、僕達はこの街へやって来たのだ。
制服では目立ってしまうため、今日は全員が私服。
いつも燕尾服を着ているセドリックさんも、今日は落ち着いた私服姿だった。
「まあ!」
突然、リリアーヌさんが声を上げる。
僕達が振り返ると、彼女は店先に並んだ果物を見つめていた。
「美味しそうな果物ですわ!」
尻尾が嬉しそうに左右へ揺れ、
「お嬢様」
セドリックさんは微笑みながら、店先に並んでいた林檎を一つ手に取った。
「後ほど、購入しましょうか」
「まあ! よろしいのですの?」
「えぇ」
セドリックさんは林檎を眺めながら答える。
「お嬢様のお好きなアップルパイを作りますよ」
「まあまあ!」
リリアーヌさんの尻尾が、さらに大きく揺れた。
「セドリックのアップルパイは世界一ですもの」
僕も林檎を見つめ、
「美味しそう!」
リリアーヌさんは嬉しそうに僕を見る。
「良かったら、ルカも一緒に食べませんこと?」
「いいの!?」
「えぇ!」
「やった!」
僕が喜んでいると、
「お前らな……」
呆れた声が横から聞こえた。
レオンは腕を組みながら、僕達を呆れた目で見ている。
「俺達は何をしに来たんだ?」
「……捜索?」
「そうだ」
「犯罪者集団の手掛かりを探すため?」
「そうだ」
「じゃあ、アップルパイくらい……」
「駄目とは言ってない」
「え?」
レオンはため息をつき、
「ただ、気を抜くなと言ってるんだ」
「……うん」
僕は頷いた。
すると、セドリックさんが穏やかに微笑む。
「では、捜索を始めましょうか」
「はい!」
僕達は果物屋を後にしたその時、
「……あれ?」
僕は、少し先に見えてきた噴水へ目を向けた。
街の中央にある広場の噴水の前で、一人の小さな女の子が泣いていた。
背中には、小さな黒い羽が生えている。
僕はすぐに女の子へ近づき、目線を合わせるように膝を折る。
「どうしたの?」
女の子は涙を拭いながら、しゃくり上げた。
「お母さん……と……はぐれちゃった……」
「そっか……」
僕は周囲を見回す。
だけど、母親らしき魔物は見当たらない。
「よろしければ、これをお使いくださいまし」
リリアーヌさんがハンカチを差し出すと、女の子は驚いたようにハンカチを見る。
「涙を拭いてくださいな」
「……ありがとう」
女の子がハンカチを受け取る。
リリアーヌさんは、そのまま優しく女の子の頭を撫でた。
「大丈夫ですわ。きっとお母様も、あなたを探していますわよ」
「……うん」
その間に、レオンは辺りを見渡していた。
「……」
どうやら、女の子のお母さんを探しているらしい。
僕は噴水の縁に腰を下ろした。
「ねえ」
女の子が顔を上げ、
「僕ね、ルカっていうの」
僕は自分の胸を指差す。
「このお姉さんは、リリアーヌさん」
「こんにちはですわ」
リリアーヌさんが微笑む。
「尻尾がかっこいいよね!」
「まあ!」
リリアーヌさんの尻尾が、嬉しそうに揺れた。
「で、今お母さんを探してくれてる、ちょっと怖そうなのがレオン」
「……怖そうは余計だ」
レオンが眉を寄せ、
「僕の親友なんだ!」
「……まあ、いい」
少しだけ顔を逸らした。
「それで、この背の高いお兄さんは、リリアーヌお姉さんの執事さん」
「セドリック・ヴァレンタインと申します」
セドリックさんは女の子へ丁寧に頭を下げた。
「料理が上手なんだって」
「ふふっ」
リリアーヌさんが笑う。
「セドリックの作るお料理は、とても美味しいのですわよ」
「アップルパイも?私、お母さんの作るアップルパイ大好きなの!」
女の子が尋ねた。
「もちろんですわ!」
リリアーヌさんは胸を張る。
「世界一ですわ!」
「……またその話か」
レオンが呆れたように呟いた。
僕達がそんな会話をしていると、女の子の表情が少しずつ明るくなっていった。
けれど、お母さんが見つかるまでは、まだ安心できない。
レオンが女の子のお母さんを探している間、リリアーヌさんは女の子の前へ歩み寄った。
そして、もう一度目線を合わせるように膝を折る。
「お手玉、というお遊びを知っていますこと?」
女の子は首を横に振った。
「知らない……」
「まあ」
リリアーヌさんは楽しそうに笑う。
「それでは、普通のお手玉では楽しくありませんわね」
「……?」
リリアーヌさんは両手を女の子へ見せ、
「でも、少し変わったお手玉ならどうでしょう?」
「変わった……?」
「えぇ」
いたずらっぽくウインクする。
「……危ないから、触ってはいけませんことよ?」
次の瞬間、リリアーヌさんの手のひらに、小さな炎が灯った。
「わぁ……!」
女の子が目を丸くする。
炎は三つに分かれ、火の玉が宙へ浮かび上がった。
リリアーヌさんは、それを器用に操り始める。
右手から左手へ、左手から右手へ。
三つの火の玉が、綺麗な弧を描いて舞っていく。
「すごい……!」
「ふふっ」
リリアーヌさんは得意げに笑う。
「わたくし、火は得意でしてよ」
「お、お姉さん……熱くないの?」
「えぇ。全然ですわ」
女の子は目を輝かせながら、火の玉を見つめている。
「きれい……」
「でしょう?」
リリアーヌさんは嬉しそうに微笑んだ。
「お母様が見つかるまで、少しだけ遊びましょうか」
「うん!」
女の子が笑った。
その様子を見ていたセドリックさんは、穏やかに目を細める。
「お嬢様も、随分とお優しくなられましたね」
「なっ……!」
リリアーヌさんの頬が赤くなり、
「べ、別に普通ですわ!」
僕は思わず笑った。
「リリアーヌさん、優しいもんね」
「ルカまで!」
そんなやり取りをしていると、
「――いた!」
遠くから声が聞こえた。
僕達が振り返ると、レオンが一人の魔物を連れてこちらへ走ってくる。
「お母さん!」
母親も女の子を見つけると、すぐに駆け寄る。
「ごめんね……怖かったでしょう?」
母親は女の子を抱きしめ、その頭を優しく撫でた。
女の子は母親の胸に頬を寄せ、笑顔で首を横に振った。
「ううん!」
「え?」
「お兄さんとお姉さん達と遊んだの!」
女の子が僕達を指差した。
母親は僕達へ向き直ると、深々と頭を下げる。
「ありがとうございました。なんとお礼を申したら……」
「いえ」
僕は首を横に振ると、
「無事で良かったです」
リリアーヌさんも女の子の前へしゃがみ込む。
「また、遊びましょうね?」
「うん!」
女の子は、とびきりの笑顔を見せた。
「ありがとう! リリアーヌお姉さん!」
「……!」
リリアーヌさんが一瞬、目を丸くすると、嬉しそうに微笑んだ。
「えぇ。また遊びましょう」
その尻尾が、嬉しそうに左右へ揺れている。
「……尻尾、すごく嬉しそうだね」
「ルカ!」
リリアーヌさんが頬を膨らませる。
「余計なことを言わなくてよろしくてよ!」
やがて、親子は何度も僕達へ頭を下げながら、人混みの中へ戻っていった。
女の子は母親の手を握りながら、何度もこちらを振り返っている。
僕達も手を振り返した。
「……さて、そろそろ本来の目的に戻るぞ」
そうだ、僕達は遊びに来たわけじゃない。
「よし!」
僕は拳を握りしめ、
「今度こそ、犯罪者集団の手掛かりを探そう!」
「最初からそうしてくれ」
レオンがため息をつく。
リリアーヌさんとセドリックさんも笑いながら、僕達の後に続いた。
僕達は再び、賑やかな魔界の街へ歩き出したのだ。




