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無能力者の僕は、魔界で最強のドラゴンに懐かれました  作者: くろあげは。
犯罪者集団《シャドウ・ハンズ》編
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第13話 極秘ミッション、始動

僕達3人は今日一日、ずっと上の空だった。


『ルカ・アルテミスのプロフィールが盗まれた』


そう聞かされたものだから、授業中もずっとそのことが頭から離れなかった。


僕のプロフィールを盗んで、一体何をするつもりなのか。


僕は無能力者だ。


わざわざ狙うほどの価値なんて、僕自身には思いつかない。


それなのに、犯人は僕の情報だけを持ち去った。


「……うーん」


そして気がつけば、放課後になっていた。


「おい、ルカ。聞いてんのか?」


「うわっ!」


突然、頭に何かが乗り、


「レオン!?」


僕が慌てて顔を上げる。


レオンが僕の頭に、自分の鞄を乗せていた。


「やっと戻ってきたか」


「何するのさ!」


僕は鞄を頭から下ろし、


「ずっとぼーっとしてるからだ」


「だって……」


そう言いかけると、隣から心配そうな声が聞こえた。


「ルカ、大丈夫ですの?」


リリアーヌさんが僕の顔を覗き込んでいる。


その後ろでは、彼女の尻尾が力なく垂れ下がっていた。


「リリアーヌさんまで……」


「今朝ことが気になっているのでしょう?」


「うん……」


僕が頷くと、レオンがため息をついた。


「ほら。もう一度、学園長のところへ行くぞ」


「え?」


レオンは僕の制服の袖を掴み、


「ちょ、レオン!引っ張らないでよ!」


「歩け」


「歩いてるって!」


リリアーヌさんも慌てて僕達の後を追ってくる。


「ちょっと待ってくださいまし!」


こうして僕達3人は、放課後の廊下を、学園長室へ向かって歩き始めた。











「レオン。お話は朝にしたのに、まだ何かあるのですか?」


歩きながら、リリアーヌさんが尋ねるが、


「……」


レオンは答えなかった。


ただ、前を向いたまま歩き続ける。


「レオン?」


「……着けば分かる」


「もう。もったいぶらなくてもいいじゃありませんの」


リリアーヌさんは頬を膨らませた。


僕も気になって、レオンの顔を覗き込む。


「ねえ、レオン。学園長、何か言ってたの?」


「知らん」


「えぇ……」


相変わらず素っ気ない。


けれど、レオンの表情はいつもより真剣だった。


どうやら、何か考えがあるらしい。


やがて僕達は、学園長室の前へ辿り着いた。


レオンは立ち止まると、何も言わずに扉をノックする。


「はい、なんだね?」


中から学園長の声が返ってきて、レオンは扉へ向かって口を開く。


「1年A組のレオン・シャルロット。ルカ・アルテミス。リリアーヌ・ドラグニスです」


「入りなさい」


扉が開き、僕達3人が中へ入ると――、


「まあ!」


リリアーヌさんが驚きの声を上げた。


「えっ?」


僕も思わず目を丸くする。


学園長室には、見慣れた人物がいた。


「こんにちは、お嬢様。ルカ様、レオン様」


「セドリックさん!?」


そこにいたのは、リリアーヌさんの執事――セドリックさんだった。


しかも彼は、学園長の机の前に立ち、優雅な手つきで紅茶を淹れている。


「どうしてセドリックさんがここに……?」


僕が尋ねると、セドリックさんは微笑んだ。


「お嬢様について少々お話を伺いたいとのことでして。せっかくですので、紅茶をお持ちした次第です」


「なるほど……?」


僕にはいまいち分からなかった。


すると学園長が、楽しそうに笑う。


「いやあ、セドリックくんの淹れる紅茶は実に美味しくてねぇ。ついついお願いしてしまったよ」


「学園長。あなた、わたくしの執事を紅茶係にしていませんこと?」


リリアーヌさんが少し呆れた顔をする。


「ははは。そんなつもりはないとも」


「本当ですの?」


「もちろんだとも」


学園長は笑顔のまま、カップを口元へ運ぶ。


その横で、レオンが小さくため息をついた。


するとセドリックさんの様子など気にすることもなく、学園長の前まで歩いていった。


制服のポケットから、一枚の紙を取り出す。


「学園長」


レオンは真っ直ぐに学園長を見ると、


「単刀直入に言います。外出を許可して頂きたいです」


そう言って、外出届を学園長の机へ差し出した。


「えぇ!?」


僕とリリアーヌさんは、思わず顔を見合わせた。


「ちょ、ちょっとレオン!?」


「いきなり何を言っていますの!?」


学園長は外出届を手に取り、そこへ目を落とし、


「……なるほど」


そして、ゆっくりと顔を上げた。


「理由を聞いても?」


レオンは迷うことなく答えた。


「街に行きます」


「街に?」


「はい」


レオンは続けた。


「俺は蛇と話が出来る」


僕は目を瞬かせ、


「だから、街にいる野良の蛇達に聞きに行きたい」


「何を?」


「昨日の魔物についてだ」


「!」


リリアーヌさんの尻尾が、ピンッと立ち上がる。


レオンは淡々と説明する。


「街には人間だけじゃない。路地裏や建物の隙間には、野良の生き物が沢山いる」


「……なるほど」


学園長が顎に手を当て、


「その蛇たちから、魔物について情報を集めるというわけか」


「そうです。どこから来たのか、どこへ行ったのか、何をしていたのか」


レオンは指を折りながら続け、


「何か見ていないか、聞いてみます」


僕は思わず感心した。


「レオン……」


「なんだ」


「すごいじゃん!」


「……」


レオンが露骨に嫌そうな顔をする。


「褒めてる場合じゃない」


「でも、すごくいい方法だと思う!」


「お前に言われても、な」


レオンは小さくため息をつき、学園長へ向き直る。


「魔物が街に逃げた可能性があるなら、人間より蛇やネズミ達の方が見つけやすい」


「確かに……」


学園長は外出届を眺める。


「人間には見えない場所にも入り込める。路地裏や屋根裏、下水道まで……情報網としては優秀だ」


「はい」


レオンは頷いた。


「待ちなさい」


「?」


僕達3人が一斉に学園長を見る。


学園長は、僕、リリアーヌさん、そしてレオンを順番に見つめた。


「まさか、3人だけで街へ行くつもりではあるまい?」


「……」


レオンは一瞬だけ黙った。


そして、セドリックさんを横目で見る。


「俺達を、責任もって守ってくれるんだろ?」


「えぇ、もちろんです」


セドリックさんは、いつもの穏やかな笑顔を崩さない。


「丁度、街には用事がありましたから」


「えっ……」


僕はレオンとセドリックさんを交互に見る。


「もしかして……レオン、最初からセドリックさんも連れていくつもりだったの?」


「子供だけで行けるわけないだろ」


「ふふっ」


リリアーヌさんも楽しそうに笑う。


「レオンもなかなか策士ですわね」


「……別に」


レオンは素っ気なく答えると、今度はリリアーヌさんの前へ一枚の紙を差し出した。


「ほら」


「これは……?」


「外出届だ」


「わたくしの分ですの?」


「そうだ」


リリアーヌさんは紙を受け取り、目を丸くする。


「いつの間に用意していましたの?」


「最初から」


「まあ……」


レオンは淡々としている。


けれど、その準備の良さに僕は驚いた。


どうやらレオンは、朝からずっとこのことを考えていたらしい。


そして今度は、僕の前にも一枚の紙が差し出される。


「ルカ」


「僕の分?」


「そうだ」


「……いつの間に!?」


「お前の名前だけ空欄にしてある。書け」


「分かった!」


僕はペンを受け取る。


その様子を見ていた学園長が、少しだけ表情を変え、咳払いをする。


「まあ、待ちなさい」


「?」


「話を聞いている限り、君たちは本気で街へ行くつもりのようだね」


「はい」


レオンが即答すると、学園長は笑みを消した。


「なら、これは遊びではない」


その声が、部屋の空気を変える。


「昨日の件は、単なる盗難事件では済まない可能性がある」


僕は思わず背筋を伸ばす。


「相手は学園の警備を掻い潜り、複数の教室から魔法道具を盗み出した魔物だ。しかも、その目的も背後関係も分かっていない」


学園長の視線が僕達3人を順番に捉える。


「街で犯人に遭遇しても、絶対に戦おうとしてはいけない」


「……はい」


僕は小さく頷いた。


「情報収集だけに留めなさい。少しでも危険を感じたら、すぐにその場から離れること」


リリアーヌさんも真剣な表情で頷く。


「承知しましたわ」


「そして、何か異常を感じた場合は――」


学園長はセドリックさんを見る。


「自分達だけで判断しないこと」


「お任せください」


セドリックさんは静かに頭を下げた。


学園長はセドリックさんへ向き直る。


「セドリックくん」


「はい」


「この3人を頼むよ」


「もちろんです」


セドリックさんの笑顔は変わらない。


けれど、その声にはいつもの軽さがなかった。


「お嬢様はもちろんですが……ルカ様とレオン様にも、傷一つ付けさせるつもりはありません」


その言葉に、僕は思わず息を呑んだ。


学園長は最後に、僕達へ告げる。


「無事に帰ってくること。それが今回の最大の条件だ」


「はい!」


僕達3人の声が重なる。


学園長は頷くと、3枚の外出届へ順番に許可の印を押した。


――こうして。


僕達の、初めての極秘ミッションが正式に始まった。


「よし!」


僕は拳を握る。


「絶対に犯人の手掛かりを見つけよう!」


「……気合いを入れるのはいいが、先走るなよ」


「分かってるって!」


「本当に分かってるのか……?」


レオンが呆れたように呟く。


その隣では、リリアーヌさんの尻尾が嬉しそうに揺れていた。


「街へ行くなんて、久しぶりですわ!」


「リリアーヌさん、今回は遊びじゃないからね?」


「分かっていますわ!」


「本当かなぁ……」


僕が苦笑すると、セドリックさんが静かに笑った。


「では、準備が整い次第参りましょうか」


僕達は頷く。


そして学園長室を出ようとした、その時だった。


「……ルカくん」


学園長に呼び止められる。


「はい?」


振り返る。


学園長は、先ほどまでの厳しい表情とは違う、どこか心配そうな顔をしていた。


「街では、自分の身を第一に考えるんだよ」


「……はい」


僕は頷いた。


学園長の言葉が、妙に胸に残った。


僕達はまだ知らない。


僕の名前――。


『ルカ・アルテミス』


その名が、魔界の裏側で少しずつ知られ始めていることを、僕達はまだ、何も知らなかった。


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