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無能力者の僕は、魔界で最強のドラゴンに懐かれました  作者: くろあげは。
犯罪者集団《シャドウ・ハンズ》編
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第11話 極秘ミッション

学園長の言葉が落ちた瞬間、部屋の空気が変わった。


先ほどまで漂っていた珈琲の香りさえ、どこか遠く感じる。


学園長は笑っていなかった。


穏やかだった表情は消え、静かな眼差しで四人を見つめている。


「…………」


僕は、ごくりと唾を飲み込んだ。


隣に座るリリアーヌさんも緊張した面持ちで黙っている。


レオンは腕を組み、学園長から視線を逸らさない。


セドリックさんだけは、いつもと変わらぬ穏やかな笑みを浮かべていた。


「……えっと」


沈黙に耐えられなくなった僕は、恐る恐る口を開く。


「緑色の……よく分からない魔物?を見ました」


「魔物……」


学園長の眉が僅かに動くが、


「はい。細長くて、舌がすごく長くて……影の中から出てきました」


「…………」


何も言わない。


僕は記憶を辿り、


「あとは……」


「何を持っていたんだね?」


学園長が尋ねた。


「え?」


「その魔物は、何を持っていた?」


「…………」


僕は必死に思い出そうとする。


暗い体育館には、月明かりが照らされていた。


緑色の魔物の、その手にあったもの。


「紙……だったと思います」


リリアーヌさんが顎に手を添え、


「わたくしも、紙のようなものに見えましたわ」


「紙……」


学園長が呟く。


レオンは、相変わらず珈琲を飲んでいた。


その姿だけを見れば、この緊張した空気の中でも落ち着き払っているように見える。


すると、カップをテーブルへ置き、


「あれが欲しかった……から、また戻ってきたんですか?」


「…………」


学園長がレオンを見る。


「そう考えるのが自然じゃないですか?」


レオンは淡々と続けた。


「昼間の盗難事件を起こした犯人なら、盗み足りなかったから戻ってきた。そう考えれば、あの魔物の行動にも説明がつく」


「なるほど」


セドリックさんが頷く。


「昼間の犯人だとすると、戻ってきたということは、その可能性は高いですよね」


「…………」


学園長は腕を組み、考え込んだ。


「ふむ……」


しばらく沈黙が続き、


「魔物はどこから……何を盗んだのか……」


学園長は呟き、僕は首を傾げる。


「でも、盗まれた物ってたくさんあるんですよね?」


「ああ」


「財布とか、魔法道具とか……魔導書とか」


「そうだ」


「じゃあ……」


僕は少し考える。


「まだ盗まれてない物を探してた、とか?」


「…………」


学園長の目が僕へ向いた。


「その可能性はあるな」


その言葉に、四人は黙り込んだ。


犯人は、まだ何かを探している。


そう考えると、事件はまだ終わっていない。


「何が盗まれたかは、明日、職員たちと詳しく調べよう」


学園長がそう言うと、


「……君たちは、何か検討がつくかね?」


「…………」


僕とリリアーヌさんが考え込む。


そして――、


「職員室」


「職員室ですね」


二人の声が、ほぼ同時に重なった。


「…………」


レオンが横目でセドリックさんを見る。


セドリックさんも、穏やかな笑みを浮かべたままレオンを見ていた。


「やっぱり、お前も気付いてたのか」


「はい」


セドリックさんはあっさりと答える。


「先ほど職員室を通った時に、魔物の気配を少し感じました」


「俺もだ」


レオンは眉をひそめ、


「気配は弱かったけどな」


学園長が尋ねた。


「それで、何故その場で確認しなかったのかね?」


レオンが口を開こうとしたが、その前にセドリックさんが答える。


「我々から攻撃を仕掛けるのも危険と判断したので、私は黙っていました」


「…………」


「魔物が何を目的としているのか分からない以上、こちらから刺激するのは得策ではありません」


セドリックさんは微笑む。


「ましてや、お嬢様方もいらっしゃいましたから」


「なるほど」


学園長は頷き、レオンも腕を組み直す。


「確証もなかったからな」


「レオン、ちゃんと考えてたんだ……」


僕は感心したように呟くと、


「お前、俺を何だと思ってるんだ」


「え?」


「……もういい」


レオンは呆れたように顔を逸らした。


学園長はそんな二人を眺め、ゆっくりと息を吐く。


「教えてくれてありがとう」


学園長は四人を見回し、


「……君たちは、どうしたい?」


その問いに、僕は一瞬だけ黙った。


(……怖い……)


さっき見た魔物の姿が、頭から離れない。


それでも僕は拳を握りしめた。


「……捕まえたい」


「ルカ……」


リリアーヌさんが隣を見る。


僕は学園長を真っ直ぐ見つめた。


「探偵の真似事で、言っているわけじゃないです」


声は少し震えていたけれど、その瞳には迷いがない。


「学園の人たちの大切な物を盗んだんですよね」


握った拳に、力がこもる。


「それに、あの魔物……まだ何かを探してるみたいだった」


僕は顔を上げた。


「だったら、また誰かの物を盗むかもしれない」


そして、はっきりと言った。


「だから、捕まえたいです」


「…………」


学園長は黙って僕を見つめていた。


すると、リリアーヌさんが立ち上がり、僕の肩へそっと手を置いた。


「えぇ」


穏やかな笑みを浮かべるが、


「わたくしも、ルカと同じ意見ですわ」


「リリアーヌさん……」


「危険なのは承知しています」


その尻尾は、少しだけ震えていた。


それでもリリアーヌさんは胸を張る。


「ですが、わたくしもドラグニス家の者ですもの。自分の身くらい、自分で守れますわ」


「…………」


レオンは二人を見ると、盛大にため息を吐いた。


「俺は、反対だ」


「えっ」


僕は振り返ると、


「やっぱり……?」


「当たり前だ」


レオンは腕を組む。


「魔物を追いかけるなんて危険すぎる」


「…………」


だが――、


「……と言いたい所だが」


レオンは目を逸らした。


「ルカは無能力者なんだ」


「…………」


「俺は、あくまで保護者として――ルカを見張ります」


「レオン!」


僕の顔が輝き、


「やっぱり優しい!」


「黙れ」


「ありがとう!」


「だから、黙れって」


レオンは鬱陶しそうに顔をしかめた。


けれど、その声には僅かな優しさが混じっていた。


「……勝手に突っ走るなよ」


「うん!」


その様子を見て、セドリックさんがクスッと笑う。


「ふふっ」


そして学園長へ向き直ると、


「私が、責任を持って三人をお守りいたします」


セドリックさんは深々と頭を下げた。


「…………」


学園長はしばらくセドリックさんを見つめ、やがて静かに頷く。


「確かに危険だが……」


学園長は四人を見回し、


「君たちは犯人も見ているわけだ」


苦笑する。


「これ以上、首を突っ込むなとは言えんな」


「じゃあ……!」


僕が身を乗り出すと、


「ただし」


学園長が人差し指を立てた。


「私の許可なく、勝手な行動はしないこと」


「はい!」


「それから、絶対に無理をしないことだ」


「分かりました!」


僕が力強く頷くと、学園長は満足そうに微笑む。


だが――、


「もう一つ」


「?」


学園長は口元に手を当てた。


「この事は、誰にも話してはならん」


「…………」


四人が黙ってしまい、学園長は声を少し落とした。


「いわゆる――」


いたずらっぽく笑うと、


「極秘ミッションだ」


「極秘ミッション……!」


僕の目が一気に輝いた。


「なんかカッコいい!」


「お前は本当に、そういうのが好きだな……」


レオンが呆れてしまい、リリアーヌさんも思わず笑った。


「ふふっ……極秘、ですわね」


「承知いたしました」


セドリックさんも微笑む。


「よろしい」


学園長は、少しだけ表情を引き締め、


「だが、これは遊びではない」


「…………」


「事件の裏に何があるのか、まだ分かっていない」


視線が、窓の外へ向く。


真夜中の学園は月明かりに照らされ、校舎は昼間とはまるで別の場所のようだった。


「くれぐれも、命を優先することだ」


「はい」


僕とリリアーヌさんも頷く。


レオンは無言で腕を組み直し、セドリックさんは静かに頭を下げる。


こうして四人は、学園長公認で盗難事件を追うことになった。


誰にも知られてはいけない、四人だけの秘密。


極秘ミッション。


しかし、彼らはまだ知らなかった。


この小さな盗難事件が、やがて魔界全体を揺るがす、大きな事件へと繋がっていくことを。


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