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魔法使いが生まれる島  作者: 彩霞
第一章

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第7話 セフィ

 疲れた体に大層響く大きな声だったため、アッシュは眉間にぎゅーっと皺《しわ》を寄せた。


 その上、「ご主人さまの命令」などと意味の分からないことを言うので、「ご主人さまとは誰なのだろう」とか、「傍仕えとはどういうことだったっけ……」と、また余計に頭を使う。ああ、疲れる。


 あまりにも考えるのが面倒で、アッシュが「結構です」と断ろうとしたときだった。セフィと名乗った青年がアッシュの左腕に軽く触れたのである。すると、あれほど重かった体が、急に軽くなった。体が軽くなる〈浮揚《ふよう》〉の魔法を使ったのだろう。


 さらにセフィが背中に腕を回して支えてくれたため、立っているのが随分《ずいぶん》と楽になった。


「酷くお疲れのようですから、〈浮揚〉の魔法を使ってベッドまでお運びいたします。お休みになられるお部屋はどこでしょうか?」


〈浮揚〉はその名の通り「浮かび上がる」魔法である。

 魔法は呪文を唱えたり、呪文が書いてある呪文符を用いて発動させたりするのが基本だが、人によってはその過程を経なくても魔法を作動することができるのだ。

 どうやらセフィは、対象物に触れることで魔法が掛けられることができるらしい。


 アッシュはというと立っているのもやっとだったので、〈浮揚〉によって体が軽くなったのと支えができたことで、ほんの少しだけ気持ちに余裕ができる。お陰で、「ここはセフィという青年の厚意に甘えよう」と思えるようになった。


「助かります……。でも、その前にお願いしたいことが……」


「はい。何でもおっしゃってください」


「すみませんが、そこのキッチンへ入ってくれませんか?」


 アッシュは自分の左側に立つセフィを見ながら、やっとのことで言う。

 すると、セフィが心配そうな表情をアッシュに向けた。


「まさか、料理をする……とかではないですよね?」


 セフィの質問に、アッシュは苦笑する。


「違いますよ……。引き出しに入っている、焼き菓子を食べようと思ったのです……。お腹も空いていますし、それに何か飲みたくて……。喉がカラカラなんです。水は……扉付きの棚の中に、透明な瓶《びん》に入って、ありますから……」


 するとセフィはぱっと表情を明るくした。


「そういうことでしたか! でしたら、引き出しを教えてください! 魔法で開けますから!」


 セフィはそう言うと、魔法で体が浮いているアッシュを引っ張って、勢いよくカウンター付きのキッチンへ連れて行く。もう少し加減してほしいと思うが、そんなことを言える気力もない。


 しかし、彼のお陰で引き出しは見えた。アッシュは「あれです」と、飴色になった木目のきれいな引き出しを指さす。


「分かりました!」


 元気よく応えたセフィは、その引き出しを指さして「〈開け〉」と「〈手元へ〉」という二つの魔法名を唱えた。これで引き出しが開いて、こちらに来るだろうと思った。だがその瞬間、セフィに魔法を掛けられた引き出しが、ものすごいスピードでこちらに飛んで来たのである。


「あっ……!」


 セフィの呟きも虚《むな》しく、飛んで来た引き出しはアッシュのおでこに、スコーン! と勢いよく当たった。

 その上、セフィの〈浮揚〉の魔法が掛かっているのがいけなかった。お陰で、アッシュは引き出しにぶつかった勢いで吹っ飛ばされてしまったのである。


「……っ!」


 さらに、その一部始終を見ていたセフィは、驚いてしまったせいで集中力が切れたのだろう。彼の〈浮揚〉の魔法の効果がなくなって、アッシュの体に体重が戻った。

 そのため魔法が切れた瞬間地面に引っ張られるような感覚が来て、床に、ダンッ、と体を打ち付ける。


「わあああ! アッシュさん、すみません! 本当にすみません!」


「……」


 セフィが謝っていた。悪気があってしたことではないのは分かっている。だが、今のアッシュに、セフィの失態を許してあげられる余裕がない。

 体は不調も重なって、まるで自分の体が岩になってしまったかのように動かないし、引き出しが当たった部分のおでこがじんじん、ひりひりと痛み、だんだんと熱を持ってくる。


「ああ、どうしたら……! あ、そうだ。別の魔法を――」


 何も言わないアッシュに対して、セフィが慌ててしまい、またやらかしそうになる。普段のアッシュなら優しく言うのだが、今回ばかりはもう無理だった。

 彼は最後の力を振り絞り、低い声でセフィに命令した。


「もう、いい……。二階の部屋に連れて行ってくれ……。階段を上がってすぐ右の部屋が、寝室だから……」


 アッシュはそこまで言うと再び意識を手放した。

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