第6話 日水時計
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アッシュが目覚めたのは、部屋が暗くなりかけていたころだった。
寝そべった状態ではあるが、窓からは岩山が西日の光で赤く染まっているのが見える。嵐は、寝ている間に去ったようだ。
「……」
アッシュはその状態で、しばらくぼうっとしていた。
体がとにかく重く、動きたくない。
だが、床で寝そべっていたため体が冷えてしまい、せめてベッドで眠りたいとも思う。
アッシュは、何度かの「動きたくない」と「動かなくてはならない」という心の葛藤を繰り返したのち、ようやく「動かなくては」と思い、何とか体を起こす。
「うっ……」
体を起こすための一つ一つの動作がしんどい中、ふと、正確な時間が気になって、窓辺に置いている「日水時計」を見た。
「日水時計」は、スーベル島で使われている暦付きの時計のことである。
ガラスでできた長方形の中に、縦に五列、横に六列の枠が作られている。言い換えれば、計三十個に区切られているのだ。そして、三十個の枠の中はそれぞれ透明な液体で満たされている。
「日水時計」の枠の数は、日付を示し、液体の量は時間を表す。
よって該当の一日が始まると、その枠の中に入っている透明な液体が、数分で青へと変化する。夜明けまでは青い色をしているが、日の光が時計に当たると液体の色が金色へと変化し、日が沈むにつれて、再び青い色へと変化していく。
液体の量は、午前零時から正午までに徐々に増えていき、正午から午前零時までに減っていく。
「日水時計」は、使い始める日付さえ魔法で設定しておけば、その後は太陽の光を浴びて自動的に暦と日付を示していくようになっているため、魔力がほとんどないに等しいアッシュでも扱うことのできる道具の一つである。
「ええっと、日付は……マリが来たのが、十五日のお昼ごろだったはずだから……」
日水時計は、アッシュの部屋のものは十五日目——縦三列目の左から数えて三つ目の枠——の液体が半分以下になっている。どうやら、まだ数時間しか経っていないようだ。
信じられない出来事に、何日も過ぎてしまったのではないかと思い怖かったが、そうではないと確認できて一安心である。
お陰で、お腹もくうっと鳴った。口の中も渇いてしまってカラカラである。
「……お腹、空いた。それと水……」
瞼は重いし、体は足や腰に重りを括りつけられているかのように思うように動かず億劫であるが、何か食べて、水も飲まないと寝るに寝られないだろう。
アッシュが「お腹空いた」「喉が渇いた」、でも「面倒くさい」という何度目かの自身との葛藤の末、体を引きずって調理場のほうへ向かおうとしたときである。
ダンダンッと、玄関の扉を叩くような音がした。最初は疲労で幻聴でも聞こえているのだろうかと思ったが、再び聞こえたので違うのだと気づく。
「……」
アッシュは疲労感のある頭で、ぐるぐると考えていた。
町から離れたこの家に来るのは、彼の家族しかいない。魔法をまともに使うことのできないアッシュに、用事のある者などいるはずがないからだ。
となると、一番この家に来るのは弟のリクである。
リクが来たのは、二日前。普段は三日か、四日に一度来るので、本来は今日は来ないはずの日である。しかし、もしかすると急ぎのものがあって、来てくれたのかもしれない。
もしリクであれば、色んなことを頼むことができる。
弟はアッシュと違って魔法が得意で、家事全般もそつなくこなす。
アッシュは体を引きずり、リクがいることを期待して外に繋がる扉を開けた。
だが、そこにいたのは弟ではない、ひょろりとした体型の背の高い見知らぬ青年だった。
「ど、どちらさま……ですか?」
口を動かすのすら面倒でやっとのことで言うと、青年はにかっと笑って元気いっぱいに答えた。
「初めまして、アッシュさん! 本日より、ご主人さまの命令でアッシュさんの傍仕えをさせていただくことになりました、セフィと申します! どうぞよろしくお願いいたします!」




