第5話 謎
「だとしたら……学校はどうしてそんなことをするの? 事実を捻じ曲げることに、どんな利益があってそんなことを……。僕は学校に得があるとは思えない」
幼馴染の言い分に対し、マリはふんっと鼻で笑った。
「あなたは、素直で正直で優しい。善良の塊。あなたに関わった人があなたに良くしてくれるからって、疑うことを知らないのは幸せなことね」
アッシュはその指摘に、口をきゅっとすぼめる。自分にお人好しで、お節介な部分があるのは否めないと分かっているからだ。
マリは話を続ける。
「魔法学校が本当のことを秘密にするのは、当然自分たちのため。名誉、名声、権力……他にも色々ある。奴らはそれを独り占めにしたいの」
「魔法学校」を否定することは、自分が通っていた学び舎を否定することになる。そうなれば、「魔法学校」に所属していた先生たちをも否定することになるだろう。
「グラース先生は、そんな人じゃない……」
アッシュは、魔法を教えてくれた教師を思い出す。
朗らかで、生徒の話をよく聞いてくれる壮年の教師。落ちこぼれのアッシュにも丁寧に教えてくれた彼が、マリが言うようなことをしているとは思えなかった。
しかしマリは、ため息をつくと吐き捨てるように言う。
「アッシュが信じるも信じないも、私は構わない。だけど、私は魔法学校のせいで散々な目に遭っている。あの人たちの本性は嘘つきで、卑怯者。本当に汚い連中なのよ」
「……」
アッシュは彼女の怒りの籠った言葉に気圧されつつも、ぽそりと懸念していることを口にした。
「魔法学校と……戦うつもり?」
幼馴染の問いに、マリは冷たく言い放つ。
「魔法使いがいなくなれば、魔法学校の存在意義もなくなる。どちらが先でも、私は構わない」
そして、隣に立っている白いアッシュに声を掛けた。
「行こうか」
すると、白いアッシュの瞳だけ、冬の空のような薄い青い色に染まり、まるで命が吹き込まれたかのようになる。
だが、本物のアッシュは髪も瞳も薄い茶色。どうやら、〈鏡写し〉では色は写らないらしい。
「はい」
白いアッシュが従順そうに返事をすると、マリは外に通じる扉のほうへ歩き出す。彼女にとっては話は済んだということだろう。
しかし、アッシュには聞きたいことが他にもあった。
「待って……!」
二人の後を追うために、立ち上がろうとする。
だが、足に力が入らず、膝から崩れて倒れてしまう。
「うう……」
それでも、何とか上体を起こし、マリの背を見つめ「待って……」ともう一度言う。
その声でマリは振り返ってくれたが、不格好な姿の幼馴染を冷ややかに見下ろすだけで、とても話をするような雰囲気ではなかった。
「マリ……」
「〈鏡写し〉では、あなたの魔力も分けてもらった。全て取ったわけじゃないから安心して。でも、回復するには二、三日かかるでしょう。元に戻るまでは無理をしないことね」
マリは忠告だけ伝えると、雨具を翻し、再びアッシュに背を向ける。
「マリ、待って……。まだ、聞きたいことが――!」
力を振り絞って声をかけ続けたが、マリはもう振り返ってくれない。
彼女は扉の前に立つと、取っ手を掴んで開いた。すると風と共に雨のしぶきが飛んで来る。
アッシュは言うことを聞かない体を動かし、何とかその様子を眺めていたが、マリは白いアッシュと共に、躊躇うことなく荒れた天気の中へ進んでしまう。
「マリ……!」
アッシュの悲痛な声が放たれたのと同時に、マリたちはあっという間に姿が嵐の中に《《消え》》、開いた扉は彼女が残したであろう〈扉を閉じる〉魔法によって、静かに閉まった。
「……くっ」
一方のアッシュは内心焦ってはいたが、体の力がどんどん抜けていくのを感じる。彼は急激に強い眠気に襲われると、そのまま深い眠りに落ちてしまうのだった。




