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魔法使いが生まれる島  作者: 彩霞
第三章

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第35話 不都合なこと

 アッシュは何と言っていいか分からず黙ったままだったが、セフィは気にせず話を続ける。


「ご主人さまは、スーベル島にいるとき『行方不明者』の家族を密かに調べていたそうです。地道に一軒ずつ」


「……それはつまり、家族になら魔法学校が『行方不明』になった理由を伝えているかもしれないって、マリは思ったんだね。だけどさっきのセフィの話だと、話をしてくれる人はいなかったんじゃない? だって、魔法学校から誰にも話さないように言われているんでしょう?」


 アッシュが顔を上げて尋ねると、セフィはうなずいた。


「そうっす。でも、代わりにあることが分かりました」


「あること?」


「魔法学校は、家族に『行方不明』になったとだけ報告して、そのようになった理由は何一つ話してくれなかったそうです」


「どうして……」


 と呟いてから、アッシュはあることに気づいた。


「そうか……。何も話さなくて済むから『行方不明』にしたのか……」


 もし、「亡くなった」となれば、それこそきちんと理由を説明しなければならなくなる。だが、「行方不明」ならば、行方不明になったことだけ伝えればいい。


「はい。しかも、『捜索もしたが、見つからなかったためこれ以上はしない』と言われたそうです。大陸はスーベル島よりもはるかに大きい土地なので、簡単に見つけられないという説明をされれば納得せざるを得ないでしょう」


「……」


 アッシュは愕然《がくぜん》とした。

 家族に何の説明もないまま「大陸で行方不明になりました」というのは、離れ離れで生活していた家族に対してあんまりな対応だ。


 その上、捜索も打ち切られてしまっている。


(家族の人は捜しに行きたかっただろうな……。でも、魔法学校は許可を出さなかったに違いない……)


 大陸へは「大陸派遣」という仕事に就かなければ、渡ることはできない。

 大陸へ渡ることは、「魔法使いのいない人たちの役に立つ」ことが大義名分となっている。例外はない。そのため、「『大陸派遣』で行方不明になった家族を捜す」という理由で、大陸へ渡ろうとすることは許されない。


 家族の失望はどれほどのものだっただろうか。


 想像するだけで、悲しい気持ちになる。


「酷い……。普通は納得できないよね」


「ご家族の中には、『行方不明』になった理由をずっと知りたいと思っていても、そうできなかった人たちがいるんです。ご主人さまは『その気持ちを利用して、調べていた』って言っていました」


「利用」という言い方は、マリなりの気遣いだろうとアッシュは思った。


 マリからすれば、残された家族の感情を利用しないと、魔法学校が大陸派遣で行っている不審な動きについて知ることはできないということなのだろう。


 一方で、尋ねられた家族側にも危険がある。語れば今の生活の保障はない。


 それでもセフィが話してくれたようなことをぎりぎりのところで教えてくれたということは、残された家族の「知りたい」という気持ちが、マリに情報提供をしてくれたのだ。


 ゆえに彼女は「家族の気持ちを利用した」とセフィに言ったのだろう。


「そう……」


(信じられないけど、セフィの話に矛盾がない。きっと、彼の言っていることや、マリが調べていることのほうが本当なんだ。それに、魔法学校は情報が周囲に出て行かないように徹底している……。ということは、『知られてはいけない』と思っているってことだ。魔法学校にとって不都合なことが大陸派遣の仕事の中にはある……。それもエミールさんの手記に書いてあったことのようなことが、実際にあるのかもしれない……)


「魔法学校は、『大陸派遣』を通して何をしようとしているんだろう……」


 アッシュがぽつりと呟くと、セフィが何故か嬉しそうに笑った。


「アッシュさん、だんだんいい感じになってきたっすね」


「いい感じって何だよ……。こっちの気分は酷いものなのに」


 自分の学び舎《や》がやっていることを疑わなくてはならないというのは、あまり気持ちのいいものではない。


「そうかもしれないっすけど、俺は嬉しいっすよ。少なくとも俺の父は、大陸派遣のせいで亡くなっていますからね」


「……そういえば、セフィのお父さんはどうして最後まで魔法学校に見つからなかったんだろう。仕事の放棄をしたのだとしたら、魔法で捜されそうなものなのに……」


 セフィの父親が行方不明になったとして、魔法学校が捜さないとは思えない。


 それこそ、マリがしたように〈人探し〉の魔法を使えば、すぐに見つかるはずである。この場合の〈人探し〉は、魔法学校が用意した名簿を使ったのだろう。名簿には、それぞれの魔力がその名簿と糸のように繋がっており、〈人探し〉の魔法を使うと魔力を伝って辿《たど》ることができるのだ。


 セフィは椅子の上で体を右、左とゆらゆらと揺らしながら言った。


「『大陸派遣』といっても、大陸全土に魔法使いが来ているわけじゃないっすからねぇ。今でも南側のほんの一部ですよ。だから捜そうとしなかったんじゃないっすか。俺の住んでいたところは、魔法使いなんて全然いませんでしたから、父は必死に魔法学校の管理されている土地から離れようとしたんだろうなって思います。それと『行方不明』になった魔法使いを、魔法で捜すのは大変なことだったとも考えられるっすよ。アッシュさんがさっき言ってたじゃないっすか。エミールさんの手記に『大陸派遣のせいで、派遣された魔法使いが苦労しているんじゃないか』ってことが書いてあったって。あとは――」


 セフィは目を細めてから、冷たく呟いた。


「放っておいても問題ないと判断された……とか」


「そんな……」


 魔法学校がそんなことをするはずないと思いたかったが、追い打ちをかけるようにセフィが言う。


「実際、俺の父はどんどん衰弱していってましたからね」

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