第34話 大陸派遣と行方不明者
「聞きたいこと?」
アッシュが聞き返すと、セフィはうなずいた。
「はい。『大陸派遣のことで、重要なことを知っている可能性があったから』と言っていました」
「重要なことって何だろう……? というか、そんなことを聞こうとするってことは、セフィのお父さんとマリって面識があったの?」
「いいえ。ご主人さまは『会ったことはない』って言ってましたよ」
「じゃあ、どうして『重要なことを知っている可能性がある』なんて分かったんだろう……?」
アッシュの呟くような問いに、セフィはあっさりと答える。
「ご主人さまが持っていた『大陸派遣』の名簿の中で、俺の父は『行方不明』ってことになっていたからだそうです」
アッシュは困った表情を浮かべる。
セフィの中では成り立つ話なのだろうが、彼には話しが見えて来なかったからだ。
「……ごめん、セフィ。よく分からないから教えてほしいんだけど、どうしてセフィのお父さんが名簿に『行方不明』って書いてあるからって、マリが『セフィのお父さんは重要なことを知っている』って話になるの?」
この二つに関係性があるとは思えない。
するとセフィは「ああ、そういうことですね」と得心して、ここにもう一つの情報を付け加えた。
「ご主人さまが事前に調べたことによれば、『大陸派遣』の魔法使いたちの中で、一定期間を超えてスーベル島に帰らなかった人たちは、全員『行方不明』ということで処理されていたそうなんですよ」
「え?」
「大陸のどこかで迷子になっていようとも、そうでなかろうとも、です」
「……」
「俺の父も、その『行方不明』処理されていた一人だったみたいっす。ちなみに俺の父は、別に迷子になったから『行方不明』にされたんじゃないっすよ。母に聞いた話では、『危険を察して仕事を放棄してきた』らしいっす。父が頑なに何も言わない様子を見る限りでは、きっとその通りだったんだろうと思います。もし本当に道に迷っていたのなら、そう話すでしょうから」
「……」
「ですから、ご主人さまの予想は合っていたってわけです。俺の父は何か知ってはいけないことを知ってしまった。残念ながらその理由を誰にも話しませんでしたから、俺も母も知りません。先ほども言ったように、ご主人さまが我が家を訪ねて来てくれたときには、もう父は亡くなっていたので、結局『重要なこと』も分からないまま。ついでに、ご主人さまも『重要なこと』が何なのかも教えてくれないので、何のことを父に聞きたかったのか、今も謎のままっす」
セフィはそう言って肩をすくめる。
一方のアッシュは目を見張っていた。
「大陸派遣」に「行方不明者」がいたなどという話は、魔法学校から日々発信される情報紙にも載っていなかったし、家族からも、噂ですらも聞いたことがなかったからである。
セフィは彼の表情を見て、少し意地悪そうに笑った。
「アッシュさんのその反応は当然です。何故なら、『大陸派遣』から『行方不明者』が出ていることは、公になっていないそうですから」
アッシュは、はっとしてセフィを見た。
「魔法学校が、スーベル島の魔法使いたちに報告していないってこと……?」
「はい」
アッシュは瞳を揺らした。
「嘘だ……。そんな信じられない……。だって、そんなことをしたらご家族は、配偶者なり、父親や母親が帰ってこないことを周囲に言うはずだし、周りだって気づくはず……」
「いいところに気づいたっすね。ですから、大陸派遣で行方不明者となった家族は、そのことを黙っていないといけないそうです。その代わり生活も保障されますし、お金もたんまりと入ってくるそうっす。ま、俺の場合は同じ状況でも、大陸で生活していますし、父の正式な家族とは見られていないので、お金は当然もらえませんでしたし、保障もありませんでしたけどね」
セフィは軽く言うが、アッシュは笑えなかった。両手を絡ませてぎゅっと握ると、椅子の上で項垂れる。
「……」
もしそれが本当だとしたら、魔法学校は徹底的に「大陸派遣」に関する負の部分について、関係者以外が分からないように情報を伏せているということだ。
(だけど、一体何のために……)
エミールに書いてあった手記。
そして、「大陸派遣」の名簿に書いてあった「行方不明者」たち。
さらに、「行方不明者」たちの中にいたであろう、「重要なこと」を知っている者。
(まだ細部は分からないけれど、セフィの言う通り魔法学校は何かを隠そうとしている……。でも、そこまでして隠したいことって何なんだろう。あまり学校が悪いことをしているなんて考えたくないけど、これじゃあ、やましいことをしていると言われても仕方がないよ……)




