第28話 アファロンの町、ラシアルの森
アファロンの町へ行くまでの道中は、異様な光景ばかり続いた。特に空の状態が、魔法学校襲撃の影響が顕著だった。
魔法学校から離れれば離れるほど、空には〈浮遊〉を使った魔法使いたちが大勢待機していたのだ。
晴れ晴れとした青空なので普段なら気持ちいいはずなのだが、所々人が密集しているせいで、黒い雲に覆われているように見えたところすらあった。
相当な人数がエルターニアから出て来たようだ。
しかもそこで不安を紛らわそうとしているのか、「魔法学校の火事」や「〈炎〉の魔法」について、皆、落ち着きのない様子で話をしている。
町に下ればいいのにそうしないのは、立ち話をすると住宅や店に迷惑がかかると思っていてのことかもしれない。
だが、ここまで〈浮遊〉で停滞する人が空に多くなると、これはこれで町の人たちにとっては迷惑なような気もする。
それでも、人々の中にはある種の「楽観的」感覚を持ち合わせているようにも思えた。「魔法学校なのだから、近いうちに〈炎〉の魔法が取り囲んだ理由が分かるだろう」と。
だが、アッシュには簡単に収拾できるのか疑問だった。
もちろん、それは単なる勘でしかない。これまでのアッシュの中にある「魔法学校のイメージ」のままであれば、一時的な混乱で済むだろうと思ったことだろう。
しかし、エルターニアの緊迫した雰囲気と、一階から出ていた黒い煙を見るとそうは思えなくなっていた。
「そろそろ、ラシアルの森です」
セフィに言われて眼下に目を向けると、アファロンの町の中心辺りから、西側に向かって広がる森が見えて来た。この辺りはエルターニアから離れているせいもあって、他の町ほど〈浮遊〉している魔法使いは少ない。
「アファロン側で下りるといいっすか?」
ラシアルの森は、アファロンの町とその西側にあるベルタの町に跨っている。そのため、セフィはどちらから入るかを確認したのだろう。
「うん、アファロン側でいいよ。でも、他の魔法使いたちに気づかれないように、森の入り口から入ろう。〈迷彩〉と〈ベール〉で姿と魔力を見えないようにできるけど、こういう日差しの強いときは、地上に近づくにつれて影が見えてしまうこともあるから気を付けて」
「影……、そっか、なるほどっす。気を付けます」
セフィは少し緊張気味に答えると、周囲の様子をみながら、アファロン側のラシアルの森に向かって下りて行く。上空に魔法使いは少ないため、気づかれることはなさそうだが、念には念を入れてのことである。
しかも魔力も消しているため、万が一見つかったら「何故隠しているのだ」と逆に疑われてしまう。
だんだんと、地上が近づくにつれて自分の影が薄っすらと見えるようになってくる。
そのときセフィが機転を利かせ、できるだけ影が森の入り口の木の影に隠れるようにしてくれた。お陰で、無事何事もなく地上に下りられる。
「ふぅ……。何とかなったんじゃないっすかね」
「うん、ありがとう、セフィ。じゃあ、ここで魔術式の紙をはがそう。〈浮遊〉のときはよかったけど、つけっぱなしで森の中に入ってしまうと、お互い手を繋いでおかないとどこにいるか分からないからね」
「……それもそうっすね」
セフィは微妙な間を空けてからうなずくと、〈迷彩〉と〈ベール〉の魔術式の紙をぺろりとはがした。
アッシュもはがしたので、お互い普通に見ることができる。
「それでね、セフィ。悪いんだけどこれを燃やしてもらってもいい? どこかに落としたりすると色々面倒だからさ」
「分かったっす」
セフィは軽く請け負うと、〈火〉の魔法で、二人が使った魔術式の紙を燃やす。〈火〉の魔法は、〈炎〉の魔法よりも魔力消費量が少なく、料理やランプに火を灯すときになどに使う。
魔術式の紙のほうは、あっという間に燃え屑となった。地面に落ちる前にほぼ火も消えてはいたが、草の上に落ちた小さな欠片もあったので、セフィが念のため〈水〉の魔法で確実に火を消した。
「ありがとう。じゃあ、行こうか」
アッシュはそう言うと、歩き出した。その後ろを、セフィが一定の距離を保って付いて来る。
(魔力を使いすぎた……ってわけじゃないよね?)
普通の魔法使いなら、「〈浮遊〉で行ったほうが早いのでは?」と間違いなく言われている。しかしセフィは言わなかった。
アッシュは魔力の使い過ぎを懸念したが、ちらっと振り向いてセフィの様子を見ても元気そうである。しかも、ブナ林の木漏れ日を見上げて、気持ちよさそうにしていた。
(もしかして、大陸出身だから、魔法を使っての移動ばかりに頼らないのかな?)
スーベル島で最初から魔法がある生活をしているのと、魔法のない大陸で生活をしていたならば、元々の考え方が違っていてもおかしくはない。
(「階段」もあるって言っていたしね。うん、きっとそうかも)
アッシュは自己完結しながらも、セフィの態度に心地よさを感じていた。




