第27話 次の目的地
アッシュは、煙が出ているところへ徐に視線を移すと、じっと目を凝らした。
(……「騎士」「先生」「消火隊」が、〈炎〉の対応に追われる。……うん、そうだ。きっと内部の火事が本命なんだ。そこにある「何か」を燃やしたかったのか、それとも持ち出したかったのかは分からないけれど、皆を〈炎〉に集中させることで目的を果たそうとしたんだ)
そう考えれば、マリが〈炎〉の魔法を使った理由が分かる。
〈炎〉の魔法は威力が強いため、影響が広がりやすい。
一度広がると、魔法学校にいる多くの者たちがその鎮圧のために動かざるを得なくなる上に、魔力が強ければ強いほど対応に時間がかかるからだ。
しかも、目的のものが「燃やしたいもの」であれば一石二鳥である。
(でも、「何」があったんだろう。魔法学校の秘密が書いてある書物でもあったのかな……)
そのときアッシュは、はっとあることを思い出す。
「もしかすると、あそこに行けば何か分かるかも……」
彼は独り言ちると、顎から手を離しセフィを振り返った。
「セフィ」
「はい」
「一つ聞きたいんだけど、マリは家に帰るって言っていた?」
セフィは質問の意図が分からず、きゅっと眉を寄せた。
「家? そもそも、ご主人さまは『帰る家なんてない』って言ってましたけど?」
その言葉に、アッシュは少し口元を緩めた。それだけ分かれば十分である。
「セフィ、次の目的地が決まったよ」
アッシュが明るく言う一方で、セフィは驚いた声を出した。
「え、アッシュさんの家に戻るんじゃないんすか?」
どうやら魔法学校の様子を見たら戻ると思っていたらしい。
セフィとしては、アッシュに大人しくしてもらっていたほうが助かるに違いない。
だが、この際である。頼みごとの一つや二つ頼んだところで変わらないだろう。
「戻らない。調べものをしたいんだ」
「調べもの?」
「うん。マリと魔法学校のことでね。そのために、アファロンにあるラシアルの森へ行って欲しいんだ。場所は分かる?」
大陸出身のセフィが、どこまでスーベル島のことを知っているのか分からないため尋ねてみる。すると彼は少し思案したのち的確に答えた。
「えっと、アファロンって、ハリオンの町の南側にある町ですよね。ハリオンはアッシュさんの実家のあるところですから、まあ、行くには来た道を戻らないといけないっすけど」
「そうだよ。よく知っていたね」
意外と詳しかったので感心する。するとセフィは得意げに言った。
「こう見えて、スーベル島の地理はある程度の頭に入れていますからね。それにご主人さまから〈地図〉の魔法を教えてもらったので、それを使えばある程度のことは分かります」
〈地図〉の魔法は、まっさらな紙か、ハンカチほどの布を持って発動すると、そこにスーベル島の地図が映し出される。全体図も出すことができるし、拡大も可能。〈地図〉は見終わると、魔法は消えて地図が映しだされていた紙とハンカチはもとのまっさらな状態に戻るようになるという便利な魔法だ。
唯一欠点があるとすれば「〈地図〉の情報」は呼び出す人、つまり魔法を使う人によって違うということ。
例えば、アッシュのように実家ががハリオンであれば、その辺りの情報が新しく更新されやすいが、エルターニアにあまり行っていなければ古いままである。
とはいえ〈地図〉は人からもらうことも可能だ。そのため詳細が反映された〈地図〉を貰えば、「〈地図〉の情報」の精度は上がるため、個々の努力で欠点を補うことができる。
セフィはマリから教えてもらったといっていたから、もしかすると彼の地図はマリのものが元になっているかもしれない。
何はともあれ、場所を知っているなら安心である。
「それならよかった」
「ですが、ラシアルの森に行って何を調べるんすか? 森に何かあるとは思えないっすけど……」
「行けば分かるよ。大丈夫。危なくもないし」
アッシュがそう言うと、セフィは渋々承知した。
「……分かりました」
そして彼はアッシュを抱え、高度を保ったままま魔法学校から西のほうへ向かった。




