第26話 気づき
アッシュはそのことに気づくと、目を丸くした。
(黒煙が出ている……。あの中が燃えているんだ。それで焦げた臭いがしたんだな)
セフィと共に感じた臭いは、ここから出ていたようである。ただ炎は見えない。もしかすると、部屋の奥のほうが焼けているのかもしれなかった。
(……でも、「建物の内部が燃えている」ってことは、上空まで来ないと分からなかった。ということは……)
アッシュは〈望遠〉の状態を保ったまま、煙が出ているところから、それが向かっている上空へと視線を動かす。
だが、空へ向かっているはずの煙が、建物の二階か三階辺りで途切れていた。
(煙が消えている……。やっぱり、誰かが魔法で見えなくしているんだ)
周辺を用心深く見ていると、煙があるであろうはずの場所で、チリッ、チリッと緑色の閃光が頻繁に繰り返し発しているのが目に入った。あれは、魔力と魔力がぶつかったり、摩擦が起きたりしたときに起こるものだ。
おそらく〈迷彩〉の応用である〈迷彩壁〉の魔法が施されており、魔力を含んだ煙が〈迷彩壁〉に当たって光が発生しているのだろう。煙が魔力を纏っているのは、〈炎〉の魔法によって火事が起こされたからである。
煙は大きく、否応なしに空へ向かって行ってしまうので、町のどの角度からも見えないようにするためには、大きな〈迷彩壁〉の魔法を張らなければならない。その場合魔力の消費量が大きくなるため、きっと教師か騎士か、消火隊が数人がかりで行っているはずだ。
しかし、姿は見えない。ということは、〈迷彩〉を使って姿を隠しているのだろう。そして、先生たちが姿を隠して魔法を使っているのは、万一、〈迷彩壁〉を張っているのを見られて臆測を生むと大変だからだと、アッシュは想像する。
(こうでもしないと、きっと町の人を心配させてしまう……)
セフィから話を聞いていたアッシュでさえ、建物から黒煙が出ているのは考えもしなかったのだから、事実を知ったら町の人たちは驚いてしまうに違いない。
(町の人たちのことは先生たちに任せるとして、問題はこっちだ)
アッシュは再び黒い煙が出ている窓に目を移した。勢いがあるということは、内部の火事が治まっていないということだろう。
(ここで鎮火しないって、よっぽどのことだよね……)
〈炎〉の魔法を消すためにはいくつかの魔法があるが、強力で確実なのは、〈雨〉の魔法である。火の系統の魔法に対抗するには、水の系統の魔法が効果的だが、その中でも雲を作り出して、雨を降らせるのが一番だ。
このことから先生たちなら間違いなく〈雨〉の魔法を使っているはずだが、それでも鎮火しないということは、〈炎〉に強い魔力が注がれており、教師たちの魔法が負けているということだ。
魔法は魔力が注がれ続ければ、持続する。そして注がれる量が多ければ多いほど、強力になる。
それはある意味で、マリの本気度を表しているかのようで、アッシュはぶるっと身震いした。
「どうっすか? 何か分かったすか?」
暫くアッシュが黙っていたためか、セフィが尋ねてきた。
アッシュは〈望遠〉の魔法を解いてから、質問に答える。
「建物の中で火事が起こっているみたい。もしかしてマリは、中でも〈炎〉の魔法を使ったの?」
すると、セフィは驚いた声を出した。
「え、そうなんすか? 内部の火事のことは、俺も知らされていないっす」
「そう……」
「ただ、魔法学校周辺の〈炎〉の魔法は、ご主人さまが『持続させるつもりだ』と言ってましたよ」
アッシュは僅かに間を置いてから「持続?」と聞き返す。
「そうっす。あ、でも、詳しいことは分からないんで、これ以上は聞かないでくださいよ」
「火事と〈炎〉の持続……」
アッシュは小さく呟くと、顎に手を当てて考えた。
(もしかして〈炎〉の魔法を使うことで、何か引きつけておきたかったってこと? 今の状態で引きつけるっていったら、「騎士」と魔法学校の中にいる「先生」たちだよね。あとは「消火隊」……。〈炎〉が出たことで、魔法学校にいるほとんどの要員を導入することになった。そして建物の内部の「火事」……)




