第24話 「ハリオン」から「エルターニア」へ
ハリオンの上空へ来ると、アッシュは町から異様な雰囲気を感じた。
町の空の上に魔法使いたちが集まっているのもそうであるが、夜明け前であるというのに、大きな切妻屋根が立ち並ぶ各々の家から人々が出て、石畳の道の上で近隣住民と何やら話し込んでいる。ざわざわとした声に耳を傾けてみると、「魔法学校が」とか「炎が」とか、「誰がやったの?」という言葉が聞こえて来た。
(やっぱり魔法学校で起こったことで、皆、集まっているんだ……)
ただ、時折「魔法学校からの通知を待とう」という声もあって、それによって人々の中に冷静さがあるように思った。それほどまでに、「魔法学校」の信頼は厚いとも言える。
(これからどうなるんだろう……)
人々の驚き具合は、アッシュが生まれて初めて見るものであるため、相当な混乱であることは間違いない。
しかし、「魔法学校」のことであるから、この状況をあっという間に収めてしまうのではないかという気もしている。そして人々がそれを期待していることもあるだろう。
「……あの、アッシュさん」
セフィに声を掛けられ、物思いに耽っていたアッシュははっとする。
「……え、何?」
「すみません、考え事をしていたっすか?」
「ちょっとね。それより、どうかした?」
アッシュの指示で、暫く上空に留まってくれていたセフィが、ふと思い出したように彼に尋ねた。
「ふと思ったんすけど、ご家族のところに会いに行かなくていいんすか?」
出掛ける前に、手紙がハリオンの実家にいる「弟」からであることをセフィに伝えたため、家族に会うのか聞いたのだろう。
有難かったが、アッシュはぶんぶんと首を横に振る。
「あっちは大丈夫だって書いてあったから、気にしなくていいと思う。それに会いに行ったら引き止められると思うし、何だかんだ聞かれて時間食うし、そうなると魔法学校どころじゃなくなるし……」
家族が、魔力のない自分を気に掛けてくれることはとても有難いことだ。
これまで落ちこぼれの息子、出来損ないの兄を見捨てなかったことに感謝もしている。ただ、その心配の度合いが大きく、家に帰ると何でも両親と弟がやってしまうのだ。
至れり尽くせりだが、アッシュができることまで取り上げようとしてしまうので、その辺りが玉に瑕なのである。
(そしてきっと一度家に入ったら、外に出させてもらえなくなりそう……)
心配性の家族である。
アッシュが「魔法学校に行く」などと言った日には、魔法を使って阻止するだろう。彼は魔法で対抗できないため、家族の意向を受け入れるしかなくなる。
そう考えると、セフィなんかよりもずっと脅威かもしれないと思った。
「え? 何て言ったんすか?」
セフィが聞き返したが、何度も言うことではないので笑って、さっと流す。
「ううん、何でもない。とにかく行こう」
「はい」
セフィは素直にうなずくと、そのまま止まることなくハリオンの上空から、次の町へと向かった。
ハリオンから、ルジェルタの町、リヴァネスの町、アクートの町の上を通りすぎ、目の前から朝日が昇るのを感じているうちに、目的地の上空に辿り着く。
「エルターニアっす」
セフィが言った。
スーベル島で一番大きな街は、朝日を浴びてきらきらと光っている。スーベル島の町はどこも似たようなものだが、やはりこの場所は特別だ。
町の小高い部分には、人々が住む家とは違って、石造りの堅固で威厳のある大きな建物が建っている。この島の象徴ともいえる魔法学校を囲うように、切妻屋根に漆喰壁でできた家々が建ち並んでいた。
しかし、その魔法学校の周りは、遠目で見ても分かるほどに、赤々とした炎で包まれていた。上空に向かって、黒い煙がもくもくと上がっている。
「炎の勢いがすごいね……。煙も……」
「そうっすね……」
アッシュの呟きに、セフィも驚きを隠せないようすで答えた。
まさかここまでになっているとは彼も想像していなかったのかもしれない。
「焦げ付いた臭いがしますね」
くんくんと空気の臭いを嗅いだセフィが言った。
「うん」
言われてみると、風下になっているこちら側に向かって、何かが焼けた不快な臭いが漂ってくる。
「もしかして建物の内部まで〈炎〉の魔法が及んだんでしょうか?」
「うーん……、それはないと思う。魔法学校は元々、色んな魔法の〈防壁〉を施しているんだ。だから〈炎〉の攻撃をされたって、強力な〈防火壁〉が作用して何の影響もないと思うよ」
「じゃあ、これは何の臭いなんすか?」
セフィの問いに、アッシュは少し考えてから答えた。
「そうだよね……。何だろう……。もしかすると学校の周辺にある木々とか、かな……。それとも住宅が燃えた……とか……かな?」




