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魔法使いが生まれる島  作者: 彩霞
第二章

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20/26

第20話 周りからの見え方

 家を出て三十分くらい経っただろうか。

 徐々《じょじょ》に空が明るくなっていき、遠くのほうでハリオンの町が見えて来る。


 それと同時に、上空では黒っぽい塊《かたまり》が筋のように連なっているのが見えた。きっと、エルターニアから〈浮遊〉で逃げて来た魔法使いたちが集まっているのだろう。


 このような光景は、人口が密集している魔法学校周辺ではよく見られるが、ハリオンでは滅多《めった》にない。それだけでも、異常なことが起きていることが感じられる。


 同じところに気づいたセフィが、「うわぁ、さすがに魔法使いたちは、行動が早いっすネ~」と良いとも悪いとも判断のつかない呟きを口にした。

 しかし、どこかぎこちない。


「どうかしたの?」


 尋ねてみると、セフィは申し訳なさそうに言った。


「アッシュさん、すみませんが、このままハリオンを突っ切って魔法学校へ行くのは難しいかもしれません」


 魔法学校へ行くには、ハリオン、ルジェルタ、リヴァネス、アクートという町の上を、直線で行くのが一番早い。

 それなのに「行けない」とは、どういうことなのか。


「どうして――」


 と言ってから、アッシュはあることに気づいてはっとする。


「皆、問題が起こっているエルターニアのほうから逃げてきているのに、僕らが反対から現れたら、もしかして『おかしい』って思われる……?」


 つまり、人々はエルターニアからわざわざハリオンまで逃げてきているというのに、アッシュたちは「逆走」しようとしているため、訝《いぶか》しく思う者がいるだろうということだ。


「そうです。察しが良くて助かるっす。まあ、ハリオンを通過して、だんだんエルターニアに近づけば野次馬《やじうま》もいるんで、その中に混じれば目くらましになると思います。でも、魔法学校に近づきすぎると、十中八九捕まると思います」


「捕まるって、誰に?」


「『魔法学校側の魔法使いたちに』です。基本的には、魔法学校を守っているという『騎士』に捕まるだろうと、ご主人さまは言ってましたけどね」


 セフィの答えに、アッシュは少し思案した。

 魔法学校が炎上している周囲に近づく者たちを捕まえるのだとしたら、その中に〈炎〉の魔法を使った者について知っている者、もしくは関係者がいるかもしれないと考えているということだろう。


「もしかして、犯人を捕まえる……ううん、魔法学校の周囲にいる怪しそうな魔法使いたちを捕まえて、その中から犯人を探し出すため?」


「捕まる理由」をセフィに聞くと、「正解っす」と答えて言葉を続けた。


「必ずしも犯人が周囲にいるとは魔法学校も思っていないでしょうけれど、『近くで様子を見ているかもしれないので念のため』ということらしいです。それで――」


 セフィはそこで一度切ると、これまで明るかった声を低くして、抑揚《よくよう》のない調子で続けた。


「俺をはじめ、仲間たちは『次の指示をするまで魔法学校に近づくな』って言われているんす」


 そのときアッシュは、ある言葉に気を留めた。


(『仲間』……って、言ったよね。ということは、セフィ以外にもマリについている人たちがいるんだ)


 どれくらいの規模で動いているのかは分からないが、マリが直接セフィに指示をしているところを見る限り、少数精鋭のような気がする。


 しかし少人数で戦うとなれば、一人ひとりの能力や魔力が高くなければ難しいだろう。何しろ、魔法学校には魔力を豊富に蓄えた上に、魔法に優れた教師が沢山いるし、学校を守るための精鋭人として「騎士」たちもいる。


「騎士」の魔法は攻撃系の魔法に特化しているため、一般の魔法使いなら戦おうという気が起こらないといわれるほどだ。


 だが、マリは仲間を引きつれて戦おうとしている。よほど自信があるということだろう。


「アッシュさん、聞いているっすか……?」


 考えたまま黙ってしまったアッシュに、セフィが不安そうな声で聞く。

 アッシュがちらっと彼を振り返ると、どうしたらいいのか分からない、といった表情を浮かべていた。


「聞いているよ。というか、それならセフィは本当はこの先に行っちゃいけないんじゃない?」


「そうなんですけど……、アッシュさん、止めても無駄そうだったじゃないっすか」


「うん」


 セフィに止められても自分なりの方法で行くつもりだったので、あっさりと答える。


「そうでしょう……。でも、それではまずいんですよ。俺はご主人さまにアッシュさんの傍仕えをするように言いつかっているんで、万一アッシュさんが魔法学校に捕まったりした日には、俺がご主人さまから何されるか分からないんで、絶対に避けないといけません……。だから、町の近くまで行けば諦めてくれるかなぁ……って、思ったんすけど……」


(ああ、だから「うわぁ、さすがに魔法使いたちは、行動が早いっすネ~」ってわざとらしく言ったんだ)


 先ほどの妙な言い方は、アッシュに諦めるように促すためのものだったらしい。異常事態を見れば、気が変わると思ったのだろう。

 もし「魔法学校に捕まる」という失態を犯せばマリに影響があるし、セフィも彼女に怒られてしまう。


(それにしても、セフィにとってマリはよっぽど怖い人なんだなぁ……)


 彼にとっての恐ろしいことというのは、どうやら「アッシュに何かあったあとに、マリに怒られること」のようである。

 優しい女性《ひと》だよ、とフォローしようと思ったが、よく考えてみると〈鏡写し〉をされたときのマリはちょっと怖かった。


 これまでの優しいマリのイメージが壊れそうなので、アッシュはセフィに「ご主人さま」の怖さを聞くのを止めて、「分かった」とうなずいた。


「僕も捕まることは本意じゃないし、セフィのためにも、そうならないようには気を付けるよ」


「よかったっす……!」


 心底安堵(あんど)したセフィは、元通りの明るさに戻る。


 そして、ハリオンの町が目と鼻の先になったとき、彼は「とりあえず一旦下りましょう」と言って降下した。

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