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魔法使いが生まれる島  作者: 彩霞
第二章

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第18話 予感

「……さぁて、俺も行きますか。『離脱しろ』って言われているしね」


 シルヴィスはぐっと背を伸ばしながら独り言《ご》ちると、マリの「道具」と向き合った。


(それにしても、本当に〈鏡写し〉をしてしまうとはね)


〈器〉の魔法は彼も使ったことはあるが、〈鏡写し〉は見るのも初めてだ。

 高度な技術と多くの魔力を消費するため、「魔法の造詣《ぞうけい》に詳しくなければできないもの」とされてきたからである。


 シルヴィスが学生だったころ、〈鏡写し〉を同級生の間で試した者もいたが、成功した者は一人としていない。


 しかし誰も悲観はしていなかった。


 試した者は一様に、「力量がなかった」と思っていたからで、彼も同じように考えて疑わなかったからだ。数か月前に、マリから「書物に書いてある〈鏡写し〉の魔術式には、『欠け』があるんだ。だからいくら試しても発動されるわけがない」と指摘されるまでは――。


(俺もだけど、誰も気づかなかったよなぁ……)


〈鏡写し〉の魔術式について「書物に問題がある」などと疑いもしなかった。

 授業の単位を取るのに必要な魔法でもなかっため、実行してみるといっても遊び半分でやっていたことだし、「難しい魔法」と言われていたため、挑戦したとしてもできなくて当然だと思っていた。その上、魔法学校が書いたものならば「間違いなどないだろう」と信じ切っていたからである。


 そのような中で、彼女は真っ先に本に問題があることに気づき、魔術式の欠けについて何らかの方法で調べ上げ、完全なものにしたのだろう。敵にしたら恐ろしいが、仲間でいると素直に尊敬してしまうくらいに、彼女の魔法への知識は深い。


「そういえば、こいつの名前を聞くのを忘れちゃったな……。まあ、いいか。どれ、どんな男を写してきたのかな?」


 シルヴィスは少し屈《かが》んで、フードの陰に隠れた〈鏡写し〉の青年の顔を覗《のぞ》き見た。〈器〉とは違って、しっかり顔かたちが写し取られている。

 魔法学校の書物に「感情はない」と書いてあった通り、青年は無表情だった。学校の本の内容が正しいかどうかは、こうして一つずつ確かめていくしかない。


「無表情な割に、優しい雰囲気があるな。目を伏せているとまつ毛が長く見える……うん?」


 シルヴィスはあることに気づいて、小首を傾げた。

 横顔では分からなったが、正面から見るとどこかで見たことがある。いや、正確には「見たことのある人の面影がある」といったほうがいいだろうか。


(どこだっけ……?)


 シルヴィスは顎《あご》に手を当て、記憶を辿《たど》った。

 すると朧《おぼろ》げに、町から少し外れた林の中にある友人の家が思い浮かんだ。あれは、春のうららかな日和《ひより》で、日差しが差し込むと、明るい緑色の木々の葉に光があたり、きらきらと光るような心地の良い日だった。


(……そうだ。俺がカイルの家に行ったとき、偶々マリもいて、彼女の半歩後ろで俺のことを不思議そうに見上げていた子が、この青年だ)


 十年近く前だったはずである。

 あのころはすでにシルヴィスとカイルは働き出していて、お互い中々会う暇がなかったため、久しぶりに会いに行ったのだ。


 だが、先客がいるとのことで、別の場所に移ろうかと言っていたときに、マリが彼を引きつれて家を出て来たのである。


(確か名前は――)


「アッシュ……?」


 自分で呟いて、シルヴィスは眉を寄せた。


「あれ、だけど、その子って確か……」


「落ちこぼれ」で有名な子だったはずである。ほとんど関わりのないシルヴィスでさえ知っていたくらいに、「魔法使いの子に生まれたのに、魔法が使えない子」とか、魔法が使えないために「大陸生まれの子」などと揶揄《やゆ》されていた。


 あのころは「落ちこぼれのアッシュ」がマリと一緒にいるのは意外に思ったが、カイルが「彼と俺たちの母親が友人なんだ。だからあいつは俺たちの幼馴染なんだよ」という説明で納得したため、それ以上聞かなかった。


 その「アッシュ」の〈鏡写し〉がここにある。さらに、マリは「魔法学校との戦いで勝敗を左右する」と言っていた。


 これは一体、どういうことなのだろうか。


「マリ、あいつ……」


 彼女に隠しごとが多いのは前からだが、とんでもないことを秘密にしているのではないか――。


 シルヴィスはそんな予感がするのだった。

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